新春2 | ナノ
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新春企画 2


ふわふわほかほか気持ちいい…
それにとってもいい匂い。
お日様の匂いとは違うんだけど、深い森の爽やかな匂いみたいなとっても良い匂いがする。
とっても落ち着く。
心地いいしお昼寝は最高だなぁ〜もう少し眠ろうかな…
あったかいしもう少しだけ「ん…」

……え?
今の声、何?
男の人の声だったよね…?
で、でも僕は一人でお昼寝したし…寝ぼけてた「…ふ…」
い、今誰か息をついたよねぇ!?
ぼ、僕以外に誰かいるのっ!?
僕らウサギは耳がいいから物音にすぐ反応するのに…っ!
か、かなり近かったよね…だ、誰がいるのっ!?

もう眠気なんて吹っ飛んじゃった。
僕はようやく間近に誰かの体温と息遣いを感じ一気にドキドキしてきた。
ど、どうしよう!だ、誰かいるよっ!
し、しかもなんだか僕の眼の前で寝てる…?
知らない人だったらどうしよう!
ううぅ〜ま、まだ寝てるよね?
誰か知らないけど、寝てる間に逃げちゃおう!

そう決心して僕はそろ〜っと眼を開いた。
途端に眼に飛び込んできた他人の胸にやっぱりいい!と思う。
ううう、この人ちょっと近すぎだよぅ〜!
あ、でもあの良い匂い、この人からしてたんだ。
一体どんな人なんだろう…
そろそろと視線を上にあげていくと眠っている綺麗な顔が眼に入る。

わわわ〜!すっごい美人さん!
ん?男の人っぽいから美人はおかしいのかな?
とにかく、すっごく綺麗な顔!
眼を閉じててすっごい長い睫毛が金色に光を受けて光ってる。
こんなに格好良い人、初めて見るよ!
ふわっとしたちょっと癖のある髪も金色に光ってて、ほんとにきれ…!!!

みみみみみみみ、耳!!!
この、この人の耳!ウサギじゃ無いっ!!!
ちょっと丸みを帯びた三角の形に、髪の毛と同じ金色と黒色のしましま模様。
こ、この耳って…とっとととととととと、トラっ!?
はわわわわわっ!!と、トラだあっ!!
どどっどどど、どうしよう!?

トラの人達はすっごく優しいよ、って小さいころから聞かされてたけど、実際に眼にするの初めてだもん!!
やっぱり怖いよ〜!!
だってだってトラって大きくて強いんでしょ!?
僕みたいなちっこいウサギにはこんな至近距離は無理だよぉ!
ハッ!そうだ、今なら寝てるしそおっと逃げれるはずっ!
そ、そうだよ、そおっとそおっと…!

僕は音をたてないように気をつけながらゆっくりと後ろに下がる。
うう〜やっぱトラだよぉ!尻尾もしましまだもん!!
でもトラの人ってこんなに綺麗なんだなぁ、僕とは違って背も大きいみたいだし。
眼は何色なんだろうなぁ…きっと綺麗なんだろうなあ。
って僕は何を考えてるんだっ!?
いくら綺麗だからってトラの人に見つめられたりしたら心臓がもたないよっ!

そろっと下がってゆっくりとこんどは身体を起こす。
後ちょっとだ…それにしてもこの人、どうしてこんなとこに来たのかな?
多分今回指名のために来たトラの代表の付き添い?みたいな人なんだろうけど、こんな街外れの森で寝ちゃってていいのかな…?後で怒られなかったらいいけど…

「…ぅ…?」
はわわっ!!!お、起きちゃう!?
なな、なんでっ!?音立ててないのにぃ!
「ん…」
もぞ、と目覚める気配に僕はもう半分パニック!
ぴんっと緊張から耳が立ってぽふん、という音がしたかと思うと僕はウサギの姿になっちゃった。
でもこっちの姿なら使える抜け道を思い出してそのまま猛ダッシュする。

「…っ待て…!」
ひゃわわわ何か呼んでるよぉっ!でも怖くて振りむけないよお!!!
ガサッという音に身体を起こしたことを知って更にスピードアップ!!
街の中まで通じるウサギの穴を見つけて僕は一目散にそこに飛び込んだ。
こ、このまま街まで行こう!
いくらなんでも人の姿はもちろん、トラの姿だとここには狭すぎて入れないし街までは追ってこない筈!

僕は半泣きだったし、先を進むのに必死で後ろでトラの人が呟いていたことなんて、全く耳に入っていなかったんだ。

◇◇◇◇
「くそっ…」
引き留める間もなくひゅっと小さな穴に駆け込んだ後ろ姿に思わず唇を噛む。
いつの間にか俺も寝てしまっていたようでふと間近にいた筈が離れていく気配に眼を覚ませば、眼を覚ました彼がいた。
一瞬眼が合いその黒い瞳に胸がひとつ大きく鳴ったと思った瞬間、彼はぴん、と耳を立てウサギの姿になってしまった。
その小さな愛くるしい姿に眼を奪われた瞬間、彼は素早く駆けだしてしまった。
いくら俺がトラと言っても寝起き、しかも見惚れていれば反応も鈍くなる。
慌てて手を伸ばすが届く前に彼は穴に駆け込み、すぐに姿が見えなくなってしまった。

「…必ず見つけ出す」
ぎゅ、と掴み損ねた手を握り締め、言い聞かせるように呟く。
心は既に決まっている。
彼以外は欲しくない。
彼の姿はしっかりと眼に焼き付いているし、何より彼の匂いを覚えている。
さっきは起きた途端間近に良く知らないトラがいたんだ、驚かせてしまっただろう。
今度は優しく接して、代表に指名して。
俺の傍に。

確か説明を受けたときに緊急時用に街の各地に街外れにまで続くウサギの穴を設置してあると言っていた。
彼の駆けていったこの穴もきっとそのひとつだろう。
とすれば彼は街に向かっているはず。
そうならば俺の取るべき行動はひとつ。
立ち上がってすうっと意識を集中する。
ザアッと風がひとつ通り過ぎた頃には俺はトラの姿に。
街まで走るならこの姿の方が断然早く着く。
それに嗅覚もこちらの方が集中しやすい。

まだ名前も知らない彼の姿を思い浮かべる。
ふにゃっとした寝顔、俺を見て驚いた顔。
もっと彼のいろんな表情が見たい。
彼の名前を呼びたい。
ぐっと脚に力を込め、勢いよく駆けだす。
必ず見つけ出して見せる、と俺は大きく跳躍しながら改めて心の中で呟いた。

◇◇◇◇
「ふぅ〜…もう大丈夫かな」
街の中の出口についてさっと人の姿に戻ってすぐ、きょろきょろと辺りを見回す。
ほんとは耳で音を聞いた方が良いんだけど、今は町中がざわついてるからちょっと僕には音を聞き分けるのは難しい。
それにどうやらトラの代表のアシア様が今街に現れたらしくて、余計に音が凄いことになっちゃってる。
どうやら聞こえた話だとトラの姿らしい。

トラの姿かあ…一回見てみたい気もするけど、やっぱり怖いしなあ。
確か代表が決まったら二人でそろって挨拶するんだっけ?
その時トラとウサギの姿にもなるはずだから、その時に遠くから見れればいいや。
今日はなんだか疲れちゃったから、もう帰って寝よ…「見つけた!」
え?今の声って…

?と頭に浮かべた僕、きゃあっと歓声をあげる周囲。
すっと頭上に影が落ちたかと思うと、音もなくしなやかに眼の前にトラが降り立つ。
どっしりとした脚に見事な体躯。
金色と黒の織りなす縞模様の優美な毛並み。
真っ直ぐに見つめる金の瞳は燃えているように揺らめいて。
「…ようやく見つけた」

ぼおっと見惚れていた僕がその声にハッとした時には眼の前のトラは見上げる長身の男の人に変わっていて。
「俺はアシア、君の名は?」
あの人だ、と茫然と見上げるしかない俺の前まで近寄って来ると、穏やかにそう聞かれる。
穏やかなのに、その眼が答えるまで帰さない、と言っているように感じて思わず口から言葉が出る。

「…ぼ、僕は、レピュ、です…」
「…レピュ…レピュか」
噛みしめるように僕の名前を呼んでふ、と笑う。
その笑顔にどくんと胸が跳ねる。
び、美人の笑顔はすっごい綺麗だ…ドキドキする…!
いつの間にか皆アシア様に魅入られたように静まり返っている。
「…俺はレピュをウサギの代表として指名する」
しん、と静まっていてた空間にその声はとっても良く響いた。

……え?
「っええええええええ!?」
「そんなっ!」「いやぁっ!!」
僕の大声も掻き消されるようなざわめきが走る。
だけどアシア様は我関せずで僕に話しかけてくる。
「いきなりで驚いていると思う、だが俺はレピュ以外考えられないんだ」
じっと俺を見つめてそう言うアシア様の熱の籠ったような眼に一瞬見惚れるけど慌てて口を開く。

「そっそっそ、そんな僕なんてっ!見ての通り地味ですしっ!」
ぶんぶん手を横に振ってそう言う。
ぼ、僕なんかが代表なんて、滅相もないっ!!
「そんなことは無い、その温かみを感じるグレーの髪も神秘的でさえある黒い瞳も美しい」
うつ、うつく…!!?
ぼっと真っ赤になっちゃってるのが自分でも分かる。
うっとりと僕を見つめながらそう言うアシア様にうろたえてしまう。

「俺はレピュ以外選ぶつもりは無い、俺が傍にいるから、代表になってくれ…」
熱のこもったような眼でじっと僕を見つめてそういうアシア様。
切なげな声にすっごくドキドキする。
「レピュ…」
はわわわわっ!て、手がっ!!おっきいてがぼ、僕のほっぺたに!!

するってアシア様が僕の頬を撫でてくる。
普段なら擦り寄っちゃいそうなくらい気持ちいいんだけど、こ、こんな状態じゃ喜べないよ〜!!
周りは皆まだ衝撃が抜けきらないらしくてざわざわしてるし、なんでかアシア様はうっとりした顔で僕のほっぺたを触ったままだしい!!
どどど、どうしよう〜!!

「アシア、見つけたのか」
知らない人の声にそっちを向くとこれまたすっごい美人さん!
まっ白い髪に蒼い眼、ふわ〜この人も綺麗!
「イニス…ああ、見つけた」
アシア様の声にふっと笑うその人の頭にも白に黒のしましまの耳。
この人もトラなんだ…トラの人って皆美人さんなのかな?

ぽかんとアシア様とその白い人を見つめたままそんなことを思ってたらいつのまにか白い人も近くまで来てた。
「アシア、ここじゃなんだから部屋で話をしよう、君もその方がいいよね」
「はわっ!は、はい」
ぼおっとしてたらいきなり話しかけられてびっくりしちゃった!
ハッ!良く分かんないうちに返事しちゃった!!
「…分かった。レピュ、少しだけ移動しよう」
「は、はい…ひゃあ!?」

返事したと同時にぐいって視界が高くなる。
おしりの下あたりにがっちりした腕が回されて、もう片方の手で背中を触られてる。
ぼ、僕アシア様に抱っこされてる…!!?
一気に高くなった視界とその事実に僕は緊張のあまり目の前にあった服にしがみついちゃう。
あわあわわわわわ!っどどどどどおしよう!!!?

「レピュ…」
ぎゅって背中にまわされた腕に力が込められてアシア様の肩に顔をうずめることになっちゃう。
わわわ息がかかってるよぉ〜!!
「アシア、そういうのは部屋で思う存分すればいいから、先に移動するぞ」
苦笑した白い人の声が聞こえる。
うう〜もしかしなくても皆これ見てるんだよね…?
は、恥ずかしいよぉ〜!!

「…分かった」
はあ、とひとつため息をついてアシア様は硬直したままの僕の顔を覗き込むようにして話しかけてくる。
「レピュ、俺たちの借りてる部屋に移動するから、少しだけ待っていてくれ」
僕はもうこくこく頷くしか出来ない。
そんな僕を見てふ、と笑ったアシア様にまたもドキドキが!
この笑顔綺麗すぎてドキドキしちゃうよぉ〜!!

「行くぞ」
白い人の声にああ、と答えるアシア様の声が聞こえた途端ふわって身体が浮く感じ。
わわわわわわわ!!や、屋根の上だよおおお!!!
僕たちウサギもジャンプ力はあるけど、こ、こんな屋根の上までなんで無理だよお!!
思わずぎゅううっと握った手に力を込めると背中の手に力がこもる。
お、落されそうにないのは安心だけど…これから僕どうなっちゃうの!?
いったい何がどうなっちゃってるの〜!?

僕はびゅんびゅん屋根の上を進むアシア様の腕の中でどうすることも出来ずにただただぎゅうっとしがみつくしか出来なかった。




110102
(柔らかい…レピュ、こんなにしがみついて…可愛いな)
(どっどど、どうなっちゃうの〜!!!?)

なんだかレピュが段々幼く…(汗)
レピュは小柄なのでアシアにとったらとっても軽いです