新年2011 | ナノ
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「#幼馴染」のBL小説を読む
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新春企画 1


「今年は私達うさぎの年よね〜誰が選ばれるのかしら!」
「選ばれたらあのアシア様に口付けが貰えるかもしれないんだもん、選ばれたいなぁ」
「ほんと!そのためにもサロンに行ってこの胡桃色に磨きをかけないと!」
「僕もこの白さに磨きをかけないとね」
きゃあきゃあ皆は美しさを磨くことに一生懸命だ。
まあ分からなくもないよ、だって今年は12年に一度の僕等が主役の年だもんね。
キラキラと輝いているような皆の姿に僕も自然ににこにこしちゃう。

僕はミニウサギのレピュです。
僕も誰が今年の御相手に選ばれるのかはちょっと興味あるけど、自分が選ばれたいとは思わない。
だって去年のトラの代表のアシア様って格好良いって聞くけど実際に見たことは無いし、トラだからちょっと怖いし…。
なにより僕はすごく地味だから選ばれることなんかないと思う。
グレーの髪は別に珍しくないし、黒っぽい眼もごくごくありふれてるし。
きっとウサギの代表には真っ白で綺麗な赤目のジャパニーズホワイトの中から選ばれるんじゃないかなあ。

代表はトラの代表、つまり今回はアシア様が指名するんで今日のお昼にはこっちに来るらしい。
皆はそのために今日はいつもよりお洒落してるんだ。
でもそんなに代表になりたいのかなぁ?
だって代表に選ばれたら次の代表が選ばれるまでウサギの代表として他の代表の人たちと交流したりしなきゃいけなくなるんだよ?
そりゃ僕だってヒツジとかネズミの代表とは会ってみたいと思うけど…他にもトラとか龍とかヘビとかの代表にも会わないといけないんだよ!?
そんな怖そうな人達に会うことになるなんて…僕には怖すぎて無理だよ。

まあ皆はそれよりも代表指名の際の祝福の方がお目当てっぽいけど。
さっきもそういう話してたしね。
代表に指名する際には相手に祝福を送るっていうのが決まりなんだ。
仕方は様々で、握手とか額に触れるとか…そういうのでもいいんだけど、トラの代表がウサギの代表に祝福する時は、その、キスってのが多いんだ。
この前もそれはもう熱烈なキスだったらしい。
意外にも前回選ばれたのは目立たない褐色のウサギだったらしく、今回こそ、とあれからより一層美容に気をつけてる人も多い。
それに今回の代表のアシア様は前回の代表のイニス様の弟なんだって。
だから今回も選ばれればアシア様にキスされるって考えて余計に気合が入ってるんじゃないかな。
僕は全然興味ないけどね。
それより今日はどこの木の実が美味しいかなあ。
今日は街中は騒がしいし、街の外れの森の中のお気に入りの場所を回ろうかな。

◇◇◇◇
「アシア、もうすぐ着くぞ」
「…」
「そう怖い顔するな、今年はお前が代表なんだ、これも大事な仕事だ」
苦笑するイニスの言葉にふん、と鼻を鳴らして前を向く。
俺はシベリアトラのアシア、一応トラの代表をしている。
俺は代表なんてなりたくもなかったのだが、何を思ったのか、あの牛野郎が俺を選びやがった。
俺がこういった目立つ立場が嫌いだと知っているあいつの嫌がらせに違いないと俺はあのにやついた顔を思い出すたび思っている。

ウサギの一族の住む森に向かいながら俺はちら、と横を走るお目付役として同行している人物に眼をやる。
俺は一族に多い金髪に金褐色の眼をしているが、隣を走る兄のイニスは珍しい白色の髪に青い瞳をしている。
俺と違いベンガルトラの兄、イニスはホワイトタイガーで、俺の前の代表に選ばれた。
一度しか代表に指名されないという慣習さえなければ、今年もイニスに代表など引き受けてもらったのに。
うんざりした俺に気付いたのか、イニスが声をかけてくる。
「アシア、そう嫌そうにするな、ウサギの一族は可愛らしい人が多い、お前もきっと気にいる人がいる」

「…それはイニスだろう」
イニスの言葉に多少呆れてしまう。
イニスはその珍しい色彩もあり、トラの中でも大変人気があったが、本人は誰にも興味を示さなかった。
そんなイニスは、前回ウサギの代表を指名するためにウサギの街を訪れ、何とそこで一目ボレをしたらしい。
相手を代表に指名して傍に置き、今では相手と子供まで作っている。
その溺愛ぶりはすさまじく、初めは誰もが眼を疑った。
今回も親父に絶対に誰にも触らせないことを約束させて、渋々同行に承諾したのだ。

「そうだな、けどアシア、俺達トラはウサギに惹かれる者が多い、特に代表にはな、お前も一目ボレをするかもしれないぞ」
実際イニスの言葉は正しく、トラはウサギと子供を作ることが多い。
特に代表はその傾向が強く、自分の選んだ代表とそうなることが殆どだ。
だが俺もそうなるとは限らない。
確かに俺はもともとイニスと同じで他人に興味なんてない。
しかしイニスが一目ボレをしたからと言って俺もそうなるとは限らない筈だ。

「…」
無言の俺の考えていることが分かったのか、イニスが苦笑する。
「…まあアシアもそういう相手に出会えばすぐわかるさ」
イニスのどこか含みを持ったような言葉に若干眉を寄せながらも俺は視界に捕えたウサギの一族の街への門に、残りの距離を詰めるために黙って脚に力を込めた。

◇◇◇◇
「あ〜お腹いっぱい」
森の中の野イチゴや木の実なんかをもぐもぐ食べながらしばらくちょこちょこ歩きまわってたら、お腹がいっぱいになっちゃった。
それになんだかお腹が一杯になったから眠くなってきちゃった。
ちょっとお昼寝しようかな。だったら日光のあたる気持ちいい場所があるから、あそこにしよっと。

しばらく進むと開けた草原に出る。
お花も一杯咲いてるし、何よりここ、よく日光が当たってすっごく気持ちいいんだよね。
ふあ、と欠伸が出てしまう。
くしくし眼をこすってごろんと横になる。
あ〜あったかいなあ、お日様の良い匂いがする。
ちょっとだけここでお昼寝しようっと。
とろん、と落ちて来た瞼に僕は逆らわずに眼を閉じ、すぐに夢の世界に旅立った。

◇◇◇◇
「きゃあ、噂通り何て格好良い…!」
「アシア様もイニス様も、美しい…」
代表を指名するために街の中を歩くと、出会う度に向けられる視線と黄色い声にうんざりする。
一応代表のため表向きはそんな素振りは見せないが、今すぐ帰りたくて仕方がない。
イニスも同じ様で俺に小さく苦笑してくる。
「俺の時もこんな感じだった、どうだ誰かいないか?」

「…」
イニスの言葉に周囲を見回してみるが…
「きゃあっこっち見たよ!」「あの眼に見つめられたいっ」「素敵…」
途端にあがる声に見る気も失せてしまう。
すいっとすぐに視線を外して歩き続ける俺に答えが分かったのか、イニスも黙って着いてくる。
ウサギの街に着いて色々と見まわっているが、どのウサギも特に違うとは思えない。
確かに色も違うし顔だって違うんだが、俺にはさほど違うようには思えない。
大体同じ種族のトラでも一部の者としか交流がない俺に初めて会うウサギに興味を持てという方が無理な話だ。

「アシア、一度一人でゆっくり探してみるか?」
イニスの声に俺はこの衆人環視の中を俺一人で歩けってか、と思わず睨むようにして見てしまう。
「実は俺はお付きを撒いて一人でいる時に見つけたんだ、だからアシアも一人で行動してみたら見つかるかもしれないだろう?」
別に一人で歩いたからと言って見つかるとも思えないが、確かにイニスといるせいで余計に人眼を集めていると言えなくもない。
それに一人になったらいざとなったら適当に一人見繕ってそいつを指名すればいいしな。

「分かった」
俺が頷くとイニスはじゃあホテルに帰ってるから、適当に帰って来い、と言って去って行った。
イニスにつられて俺から外された視線もあったが、まだ数多くの俺に向けられた視線に俺は溜息が出る。
正直一人の方が気楽な俺はもう他人の視線にうんざりだった。
そういえば街の外れに小さな森があったな、と思い出して気分転換も込めてそこへ行こう、と思い立つ。
俺の後を着いてくるウサギ達もいるが、俺が撒こうと思えば簡単に撒けてしまうだろう。

俺はそう思い立つと細い路地に入った途端脚に力を込めて大きく跳躍する。
とんとん、と建物の外壁を足がかりに屋根に降り立つとそのまま屋根伝いに移動する。
後方で騒ぐ声が聞こえ、見つかる前に急ごう、と俺は外れに見える緑目指して脚を動かした。

◇◇◇◇
「ふう…」
すとんと屋根の上から地面に着地して、森の中へ向かって歩く。
胸に入り込んでくる新鮮な空気にようやく一息つける。
あまり街に近すぎると見つかっても困るからな、と俺は森の中を歩く。
俺達トラの一族の住む場所は今は冬だが、ここウサギの一族の住む場所は常春の気候のため久しぶりに感じる温かい日差しにすっと眼を細める。
ふと鼻に甘い香りが届く。

何ともいえず甘美なその匂いに、俺は誘われるようにして脚を進める。
すると開けた場所に到着する。
草原のようでそよ風に揺れる花に、この花の香だったのか、とゆっくり近付く。
近付く度に濃くなる香りに、思わず花に視線を落として俺は固まった。
花に埋もれるようにしてそこには一人の青年が横たわっていた。
ウサギ族の印である長いグレーの耳が見える。

「ん…」
ふいにその青年の口から洩れた声にぶわっと尻尾の毛が逆立つのが分かった。
な、なんだこれは!?
どくどくと今までになく鼓動の音が煩く感じる。
眠っているその青年から眼が離せない。
ふわふわとした耳と同じグレーの髪に指を絡ませたいと思う。
閉じられた眼に俺の姿を映したい。
白い頬を撫でて、その小さな淡い色の唇に、触れたい。

そこまで考えてハッとする。
今俺は何を考えた!?
名前も知らない、しかも会ったばかりのウサギ族の青年に、触れたい?
戸惑う俺の心の声に構わず、心の一部が純粋な欲求を訴えてくる。
彼の名前を知りたい。
彼の事を知りたい、触れて、その全てを知りたい。
自分の物に、してしまいたい。

今まで感じたこともないくらい強い感情に困惑する。
ざわつく胸の中にぽつりとイニスの言葉が浮かび上がってくる。
『俺達トラはウサギに惹かれる者が多い、特に代表にはな、お前も一目ボレをするかもしれないぞ』
『アシアもそういう相手に出会えばすぐわかるさ』
まさか、これが?
そんなバカな、と思うと同時に心のどこかで納得もする。
こんなに激しい感情を、俺は知らない。
本能が欲しいと訴える。

「ふみゅ…」
ふにゃ、と笑う顔を見た瞬間、疑う心は全て消え去った。
彼が欲しい。
これを一目ボレというなら、そうなんだろう。
まだ慣れない感情だが、嫌なものではない。
むしろ心地よくさえ感じる。

認めてしまえば後は楽で、俺は欲求に従うまま彼の傍に座りこむ。
こちらに顔を向けて幸せそうに眠る彼に自然と俺の顔も緩む。
取りあえず先ずは眼が覚めるまでここで待とう。
彼が目覚めたら名前を聞いて、そして彼を次の代表に指名しよう。
兄弟そろって考えることもやることも一緒なのか、とちょっと自分に呆れなくもないが、本能がそうしろと訴えるのだから仕方がない。

早く目覚めてその眼に俺を映してくれ。
声を聞かせて、名前を教えてほしい。
そう思うと同時に寝顔をずっと見ていたいとも思う。

甘い花の香りに包まれ、俺は初めての感情にまだ戸惑いながらも、眠る彼をじっと見つめていた。




110101
(むにゅ…もうおなかいっぱい…)
(ああ…触りたいが触ったら暴走してしまいそうだ…)

新年企画はトラとウサギの擬人化です
ミニウサギは雑種が大半なのでレピュも雑種の設定
アルビノで赤目はジャパニーズホワイトに多いらしいです
ファンタジーなのでアシアとイニスのように兄弟で種類が違うということもありと思って下さい
ちなみにホワイトタイガーってベンガルトラの白化型でアルビノでは無いらしいです
確かに眼が青いですもんね