真淵に愛の手を!後編 | ナノ
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -


まぶちくんにあいのてを! こうへん


「おいてめえ今俺にそれかけただろうが」
「ああ?何ふざけてんだ?自分でぶつかったんだろうが」
「あ?喧嘩売ってんのか?」「おまえこそぶっ飛ばすぞ?」
「やってみろや!」「ぶっ飛ばす!」
「…ぎゃあぎゃあ喚くんじゃねえ!!静かにしねえとぶっ飛ばすぞ!!!」
ぎゃあぎゃあと下の奴らがお互いに小さな小競り合いをするのが耳につき、思わずバン!と机を叩いて大声で怒鳴ってしまう。
俺のその行動に胸倉を掴み合った状態の二人も驚いたようにこちらを向いたまま固まる。

一気にしん、と静まった場に俺は言いようのない苛立ちを感じちっと舌打ちしてソファに座り直す。
すいません…という声がいくつか聞こえた後、ひそひそと潜めた声であちこちで会話が交わされる。
それさえも気に触り俺は苛立ち混じりに眼の前に置かれた酒を一気に飲み干した。
さっきのはよくあるどうでもいい小競り合いだったのは分かってる。
これまでの俺だったら放っておいて適当なとこでヤバいことになる前に軽く口で諌める程度で済ませていたものだ。
それは分かっているのだがどうしても今は耳について仕方がなかった。

「…随分とまた最近は機嫌が悪いですね」
かつ、と眼の前のソファに座った人物にちら、と眼をやって無言で俺は酒をグラスにつぐ。
そんな俺の様子を見ながらそいつは静かに口を開く。
「…何かあったなら手伝うくらいしてあげますよ、貴方がそんな調子だと下の者も調子が狂う」
「…分かってる」
苦々しくそう言うと少し躊躇ってから口を開く。
「…何があったんです?最近の真淵は見るに耐えません、下の者も困惑しています」

何があったかって?
ぐい、と酒をまた一口飲んで、ぼんやりと口を開く。
もう限界だったのかも知れない。
「……祥平が、いない…」
ぽつりと零した言葉に、現実を思い出してまたも苦い思いがこみ上げる。
あの次の週の土曜日、祥平は病院に現れなかった。
随分遅くまで粘ったが、祥平は来なかった。
体調不良ということもあるだろう、と俺はその時は残念に思いながらもあまり深くは考えなかった。
だが祥平は次の週も、その次の週も現れなかった。

連絡を取ろうにも何も連絡先を知らないことに気付いた。
祥平のメールアドレスさえ俺は知らない。
…愕然とした。
待っても待っても祥平は現れない。
連絡を取ることさえ出来ない。

せめて入院しているという祖母さえ分かれば、と思ったが、病院関係者には個人情報なので、と教えてもらえなかった。
しかも最悪な事に、どうやら祥平の祖母は自宅から近くの医者に通院することにしたらしく、退院したと患者の一人に教えられた。
祥平との唯一の繋がりは病院だけだったのに、それさえも切れてしまう。

どうして、なぜ。
祥平はもう俺に会いたくないってことなのか?
でもそうだったとしても祥平のあの性格ならこんなふうに姿をいきなり消すんじゃなくて、はっきりと俺にそう言うはずだ。
それに祥平も楽しそうにしてたじゃないか。

……本当に?
俺に合わせてそういうふうに振舞っていたのでは無くて?
いきなり姿を消したのも、もう拒絶の言葉を交わすのさえ嫌だったからじゃないのか?
祥平は、俺が嫌いになったんじゃないのか?

浮かび上がってきた考えにゾッとした。
まさか、そんなはず、と否定する自分と同時に、ならなぜ姿を現さない?俺のことが嫌いだからじゃないのか?と囁く自分もいる。
思考が渦を巻いて全く纏まらない。
常に思考のほとんどを閉めていて、他の事に気が回らない。

いつもイライラとした気分に苛まれて、下の者にまで当たってしまう。
暗い思考に陥るのが嫌で、こうして酒を飲んでも気分は晴れない。
日を追うごとに募る苛立ちと焦燥。
…もう、俺は疲れ切っていた。
今日も土曜日だと言うのに、病院に行くのが、祥平がいない現実が嫌で、こうして行けないでいる。

「…くそ…」
両手でぐしゃぐしゃと頭を掻き乱す。
どうすればいいのかも分からない。
探し出したいと思っても、拒絶されたらと思うと動けなくなる。
そして何も出来ないまま過ぎる時間に更に苛立ちは募る。

「…真淵…彼にもう一度会いたいですか?」
項垂れた俺に静かな声が問いかけてくる。
会いたいか、だと?そんなもん。
「…会いてえに決まってんだろ…」
祥平はもう会いたくないのかも知れないけど。
それならそれで、はっきりと祥平本人の口から言って欲しい。
多分すっげーショックだろうけど、じゃねえと諦めきれないから。
…情けないことに、でもそれが怖くて動けやしねえんだけど。

「…ええ、はい、そうですか」
問いかけておいてかかってきた電話に出る声が聞こえる。
でもそんな様子も今は苛立ちよりも諦めを覚える。
こいつだって副総長なんだ、こんなふぬけ野郎が特攻隊長ってのは問題だろう。
呆れられて当然か、こんなだから祥平も嫌になったのか?

「真淵」
自嘲しながら項垂れたままの俺を呼ぶ声にのろのろと顔をあげテーブルを見る。
いよいよ特攻隊長から格下げか?と卑屈な思いでいると携帯の画面を見たまま口を開く。
「高田祥平ですがどうやら3週間ほど前から身体の見えない部分に痣を作っているらしいですよ」
祥平の名前とその内容にバッと顔を見るが画面から眼を離さないまま続ける。
「しかもどうやら最近出来たチームのたちの悪い奴らに絡まれているようですね、休日もパシリとして使われているとか」
パチン、と携帯を閉じようやく俺を見るとく、と笑う。

「どうやら戦闘意欲まで腐抜けていたようではなさそうですね」
「…そいつらどこにいる」
唸る様に低い声が出る。
祥平に暴力をふるっただと?しかも、痣になるほど強く。
絶対え許せねえ、ぶっ潰してやる。
ぐつぐつ頭の中が湧きたつような怒りで包まれる。
久しく感じたことがないくらいの激情に全身が怒りで震える。

「どうやら今は使われていない廃倉庫を本拠地にしてるとか」
続いて告げられた場所にガタンと席を立つ。
そのままバイクに向かおうとすると背中から声がかかる。
「ひとりでも十分でしょうがここにいる奴らも連れて行きますよ、邪魔はしません」
その言葉に各自出かける準備をし始める。
「今までのお礼ですよ」
にっこりと笑みを浮かべてそう言う姿にふん、と鼻をならして踵を返す。

ぐっとハンドルを握り締めて祥平のことを考える。
きっと痣になるくらいだ、酷く痛い思いをしただろう。
何も出来なかった自分に唇を噛む。
過去はもう変えらんねえけど、これからは。
「…必ずぶっ潰す」
そいつら、一人残らずぶっ潰してやる。
俺は低くそう呟いた後グン、とスピードをあげて目的地までひた走った。

◇◇◇◇
「煙草買ってこいっつたろ〜?」
「けっ!パシリも碌に出来ねえのかよおらっ!!」
「ぐっ!」
思いっきり腹を殴られてげほげほと地面に膝をついてしまう。
先日つけられた痣がまだ治りきらない上からの衝撃に、じわりと脂汗が滲む。
「てめえはちゃんと漫画買って来たんだろうな〜?」
「ひっ!ここ、これです…」
友人と二人学校で眼を付けられてからずっとこうしてパシリにされている。
友人は家まで知られているのでこうして休日の呼び出しにも応じないとボコボコにする、と脅されているので逃げられない。

「次に呼ぶまで其処らへんでおとなしくしてろ」
ぎゃはは、と下品に笑いながら俺と友人は倉庫の隅に突き飛ばされる。
「だ、大丈夫か、祥平…」
「げほ、大丈夫…」
会話をしていると煩いと言って殴られかねないので隅の方で二人並んで座りこむ。
そう言えば今日は土曜日だったと思いだして、じんじん痛む腹を押さえてぼんやり啓介のことを思い出す。

啓介も見かけは不良っぽかったけど、一度も俺をパシリにしたこと無かったなあ。
暴力だって一度も振るわれたことが無かったし。
あれから一度も病院に行けてないけど、どうしてるだろう。
俺なんかもう忘れちゃったかな。
……会いたいなあ。

しんみりそう思っていると一人が「あ〜最近暴れたりねえ」と言いだす。
「俺も〜!」「あ〜いいとこにサンドバックがあんじゃん!」
にた、と嫌な笑いを浮かべてそう言う不良に俺と友人はぎく、と身体を強張らせる。
「おい、来い!久々に俺達の相手させてやんよ」
ぐい、と友人ともども無理やり腕を引かれる。
嫌な予感に逃げようと思っても、倉庫の奥の方に身体を突き飛ばされ地面に転がってしまう。

「っ!」
ズサ、と地面で手を擦りむいて痛みを感じる。
「さ〜ってお楽しみの時間だぜ〜!」
パキパキ、と手を鳴らし近付いてくる不良に後ずさるが、すぐに壁に背がついてしまう。
「行くぜ!」
ばっと振りあげられた手に何とか顔だけは庇おうと両手を前に出して顔をそむけ、ぎゅっと眼を瞑る。

ギキャッ!!
「なんだてめえらっ!!」
タイヤが地面に擦れるような音と慌てた様な不良の声。
一向に殴られる気配が無くなりそっと眼を開けて様子を窺う。
「…てめえら…ぶっ潰す…!」
バイクから降りた人が前に出てきて低い声でそう言う。
その人は。
「…啓、介…?」

病院で知り合った啓介で。
でもいつもと違ってかなり怒ってるみたいに見える。
思わず零した言葉に反応したのか、啓介がこっちを見て眼が合う。
「っ!祥平…今まで気付いてやれなくて悪い…もう大丈夫だからな」
しっかりと俺の顔を見ながらそう言われて、どくんと胸が鳴る。
俺…やっぱり、啓介のこと…!

「な〜に言ってんだぁ?分かってんのかぁ?こっちは人数いんの」
「ぼっこぼこにしちまうぜえ?」
ぎゃはは、と笑う声にハッとする。
け、啓介一人じゃ危ない!逃げて、と口を開こうとした時。
「誰に言ってんだ…?この雑魚共」
啓介が眉を寄せて不快そうに言い捨てる。
「んだと!?」「お望み通りぶっ潰してやる!!」
激昂した不良が殴りかかって俺はさあっと顔を青くしたんだけど。

「…てめえら全員ぶっ潰してやんよ!」
吠えるようにそう言ったかと思うと啓介の拳が不良の一人に綺麗に入っていて。
それから俺は不良が全員動けなくなるまで呆けたようにただただ見つめるしか出来なかった。

◇◇◇◇
頭の中が怒りで一杯なのに嫌に冷静に身体が動く。
一人ずつ確実に沈めていく。
ただし一発で沈めたりしない。
十分に痛めつけてやらないと気が済まない。
顔面が血だらけになってる奴もいたが、その程度じゃ済まされない。
もっと、もっと痛みと、苦しみと。

祥平が倉庫の隅にいるのを見た時、初めに感じたのは祥平への謝罪、自分へのふがいなさ。
それから、こいつらへの、言いようのない怒り。
祥平を呼び出してどうするつもりだった?
しかもすでに衣服は汚れていて、殴ろうとしている奴までいた。
許せねえ。

完全にリミッターが外れた俺は不良が動けなくなるまで衝動のまま身体を動かし続けた。

◇◇◇◇
いつのまにかバイクで到着していた見知らぬ不良達が息を呑む。
俺もこの眼でみていたけど、夢でも見ているかのようだった。
今、立っているのは啓介一人。
他の不良は地面に転がってぴくりとも動かない。

「…祥平、無事か…?」
ゆっくりと顔をあげた啓介がそう聞いてくる。
その顔は返り血が飛んでて、普段なら怖いと思うんだけど。
あまりにも痛そうな顔でそう聞いてくるから。
「…う、ん…ありがと、啓介…」

そう言えばほっとしたように近寄ってきて、立つのに手を貸してくれる。
「助けるのが遅くて、悪い…もしかして今まで来れなかったのも、こいつらか…?」
その質問に思わずうっと詰まると、それだけで啓介は分かってしまったようで憎々しげに不良達を見下ろす。
これ以上何かするとさすがにヤバいと俺は慌てて声をかける。
「あ、あの!も、もう十分だから!」
「祥平…」

まだ不服そうな啓介に焦っていると「真淵」と声がかかる。
「後始末は任せてください、それと彼も病院に連れて行ってあげた方がいいですよ」
「分かってる」
いつのまにかこちらに来ていたその人を見上げる。
見かけは優等生!って感じなのに…周りの不良と一緒で、この人も不良…?
「先に行く」
見上げているとぐいっと啓介に手を引かれる。

ちょっと不機嫌そうな啓介に連れられてバイクの前まで連れて来られると、啓介が言いにくそうに口を開く。
「…もう分かっちまったかも知んねえけど、俺はオークってチームに入ってる…不良ってことに、なんだが…」
言い辛そうにする啓介に言いたいことが分かって俺はふ、と笑いかける。
「…啓介はあいつらとは違うよ、こんなことで嫌いになったりしない」
俺の言葉にほっと息を吐く啓介に、俺は改めて御礼を言う。
「…助けてくれて、ありがとう」

「いや…それより病院だ、後ろに乗って掴まれ」
照れたように言葉を濁して啓介はさっとバイクにまたがる。
俺もお腹が痛まないように気をつけて後ろに乗り、腕を回す。
「行くぞ」
ぐん、と走り出したバイクにこつんと頭を啓介の背中に預ける。
本当に嬉しかった、助けに来てくれて。
きっと、俺は啓介が好きなんだと思う。
言えないけど、友達でいるくらい、いいよね?

「…これからは俺が守るから…」
「え?」
「…いや、しっかり掴まってろよ」
考え事のせいかぽつりとつぶやいた言葉が聞き取れず聞き返すけど、啓介はそれには答えずぎゅっと俺の腕を身体に引き寄せた。
俺はより一層間近に感じるようになったその体温に、眼を閉じてやっぱり好きなんだな、と若干早まる鼓動を感じていた。

◇◇◇◇
それから俺達はアドレスを交換しあった。
もうここら辺は大丈夫と思うが、まあ万が一のため一応な。
あいつらは二度と祥平とその友達に近付かない、と誓わさせた。
破ればオークの敵として徹底的に潰す、と脅したからまあもう大丈夫だろう。
俺は晴れて通院もしなくて良くなり、今は祥平とは普通に遊ぶ仲になっている。

が、最近俺はちょっと変だ。
祥平に下の奴らが話しかけると無性にイライラするし、触ってたりしたら殴りたくなる。
良く分かんねえけど祥平にしかそういうこと思わねえし、初めての親友(総長達はどっちかというと悪友なので)だからなのか?
後最近妙に何かと話しかけてくる下の奴らも変だ。
今はどこの遊園地がお勧めだのどこの店が美味くて雰囲気が良いだの…まあ祥平と出かけるのに参考にはしてんだけど。

「啓介、ごめん遅くなった」
「いや、俺が早かっただけだ、行こうぜ、祥平」
待っている間にそんなことを思っていると祥平が走ってやってきた。
祥平の息が整うのを待ってから歩き出す。
今日は映画を見に行く予定だ。

ま、最近はすこぶる胃の調子も良くなったし、祥平といると楽しいし、んなことどうでもいいか。
俺は下の奴らが俺の鈍さにやきもきしているとも知らず、祥平に笑いかけて穏やかな時間を過ごしていた。




110107
(映画の後は美味い飯屋行こうぜ、俺の奢りだからさ)
(う、うん…(な、なんか最近で、デートのような…いやそんなの俺の勘違いなんだろうけどっ!(照)))
(ま、真淵さんって意外と鈍かったんすね…)


真淵は自分のことになると鈍いです
愛の手…差し伸べられてますが気付かないという(笑)
下っ端は慕っている真淵のために色々応援してます
いつかまた機会があればもっと進んだ二人もかきたいですね
それではヒロ様、御不満等あればお気軽にコメントしてください
拙い文章ですがこれからもよろしくお願いします