真淵に愛の手を! | ナノ
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


まぶちくんにあいのてを! ぜんぺん


俺の名前は真淵啓介、オークの特攻隊長という肩書を一応持ってはいるが…
「真淵ぃ、喉乾いたからジュース買ってきてぇ、あ、ついでにぃ、こいつら煩いから黙らせといてぇ」
「真淵、ならついでに俺のコーヒーも買って来てください」
「んなっ!?てめえら一年のくせにふざけてんじゃねえ!!畑山をやったからって良い気になってんじゃねえぞっ!!」
総長は見事にやる気なし、カタカタとノートパソコンを弄るこれまた我関せずな副総長、やる気満々、無視されてボルテージ最高潮の3年の不良達。
…つまりまたも俺一人でこいつらを相手しろ、と…

はあ〜と深いため息が出る。
と、それにカチンと来たのか不良達が一斉にこちらへ向かってくる。俺は慌てて戦闘態勢を取る。
何しろ後ろの二人は俺がうっかり仕留め損ねて直々に倒したりなんかすると、その分のお詫び分、と称し俺に更なる面倒事を俺に押しつけてくるのだ。
一人でこうして相手をするうちに俺は知らない間にオークの特攻隊長として周知されてしまったのだ。
俺も駆けだし相手を一人ずつきっちりと沈めながら、中学入学からほぼ日常となってしまったこの光景にまたも深いため息をついた。

◇◇◇◇
俺は正直高校に入って眼の前の光景を疑った。
あの、あの総長が普通の男に夢中になってんだぞ!?
あの泣いて縋る相手も『煩い』と非常にも病院送り、半殺しにしてきたあの総長がだぞっ!?
これは天変地異の前触れかっ!?
…とまあ、初めは信じられない気持だったんだが、今はしっかりと現実として受け止めている。

まあ、川島(総長の夢中になっている相手、うっかり『トモちゃん』なんて言うと総長にぶっ飛ばされる)といるようになってちょっと落ち着いてきた総長に俺は安心していたんだ。
何より前みたいにむしゃくしゃしているからって喧嘩を売ってきた相手を何カ月も入院させるような怪我をさせることも無かったからな。
これで俺も高校では総長に振り回されなくて済む、と考えていたんだが、その考えが非常に甘い物だったことを俺はすぐ知ることになった。

川島に話しかけると顔を見た途端泣かれ(アレは結構ショックだった、女にはちょっときつめだけどカッコイイって言われるんだぞ!?)慌てていると総長登場。
あの時俺は死んだと思ったね。
ぐっと喉を締め上げる手も、俺を見る無表情の眼も。
何もかも暴走時の総長の物で。
さっと一瞬で血の気が引くのを感じた。
ヤバい、これは本気で始末される、と思った時、奇跡は起きた。

俺はあの時奇跡って本当にあったんだな、と思った。
なんと川島の制止で総長は暴走を終えたのだ!
それほど本気なんだな、と思ってちょっと総長が羨ましくも感じたね。
ま、なんにせよその時はこれで川島がストッパーになる、と喜んだんだが…
その川島が原因で俺は更なる胃痛を味わうことになった。

川島が怯える→総長がキレる→俺が取り成して川島に止めてもらう、のエンドレス。
しかも総長は暴れた後の始末なんざま〜ったく興味なし。
川島のとこにすっ飛んで行くし、結局俺が色々動くことになる。
高校は別のとこに行った副総長は副総長で俺をこき使うし…
まあとにかく、俺は高校に入り中学の時から積もり積もったストレスのせいでか、胃が痛むようになった。
このままではマジに胃に穴が開くのでは…と恐怖を感じた俺は、休日に近くの病院に行くことにしたのだ。

◇◇◇◇
病院の眼の前に差し掛かると俺の携帯が震える。
発信者は副総長。
…見なかったふりをしたい。が、そうすると後でしつこいのは分かっているので渋々通話ボタンを押す。
「…はい」
「真淵、下の教育がなってませんよ、俺に喧嘩を売ってきました」
まあ俺がオークの副総長で自分達の上の人間とは知らなかったんでしょうけど、と続ける声にああ、と胃が痛くなってくる。

「相手の力量も分からず喧嘩を売るなど、愚か過ぎます、少し下の再教育をすることにしました。次の集会を予定しているので総長に言っておいてください」
やっぱり面倒事だ、そんな集会が長くなって次の日の朝が辛くなるようなこと、最近の川島に夢中の総長が良い反応しないの分かってるのに。うう、胃が…。
「…なんで俺が」
「俺より真淵の方が近くにいるんですから頼みやすいでしょう、俺だと川島君といるのか分からないので電話をかけれません」
きっぱり言い切る声にはあ、と溜息が出る。
確かに総長は川島といたら電話は無視してますけど…

「では頼みましたよ」
一方的にそう言ってぶつんと切られた電話。
あいつも優秀なんだけど、こうしてたまに…いや頻繁に面倒事を押しつけてくるのはいただけないな…
うっ、総長の反応を想像したら胃が…
きりきり痛む胃に溜まらず植え込みの縁に胃を押さえて座りこむ。

「大丈夫ですか?」
頭上からかけられた声にふっと顔をあげる。
「お腹痛いんですか?ここ、病院ですから後ちょっと、歩けます?」
心配そうに声をかけてくるどこにでもいそうな同年代の男。
こういう普通っぽい奴は大抵俺の顔見たら引きつった顔して眼を逸らすのに、こいつはちゃんと眼を合わせてくんだな、と思ったのが最初。
これが俺と高田祥平の交流の始まりだった。

◇◇◇◇
「ストレスによって胃がダメージを受けてますね、今はまだ大丈夫なようですが、しばらく通院してもらって様子を見ましょう」
「…はい」
何が悲しくてまだ高校一年だと言うのに胃の心配をしないといけないんだ…
先生も看護師もなんかちょっと気の毒そうに俺を見てきたぞ。
しかも通院って…俺はストレスに苦しむ今時のサラリーマンかよ。

「あ、大丈夫でしたか?」
ブルーな気分で待合室に歩いて行くと、さっき知り合ったばかりの男の声が聞こえる。
うつむいていた顔をあげるとちょっと眉を下げた男がこっちに近寄ってくる。
「ああ…悪いな、なんか奢るよ」
あの後ちょっと一人では辛い、と言った俺に肩を貸してくれた礼に飲み物を奢ろうと販売機の所へ移動しようとするが、男は慌てたように手をぶんぶんと振る。

「あ、そんないいですよ!俺が勝手にしたことですし」
「でも助かったのは事実だからな、そんな高い物でもないし、気軽に奢られてくれたらいいから」
苦笑して男の背を押して販売機の前に連れてくる。
ちょっと強引だったか、と思いながらも金を入れて「好きなのを選んでくれ」と言う。
するとちょっと困ったように男は俺の顔を見たが、俺が引き下がる気は無いと分かったようでおずおずと「じゃあ…頂きます」と言う。
その俺の周りの強引な奴と違ってちゃんと遠慮を知っている態度に、あいつらもこうだったら俺の胃も痛まなかっただろうに、と思い俺も続けて飲み物を買った。

◇◇◇◇
「真淵さんも同じ年だったんですね、俺、年上なのかと思ってました」
「啓介でいいよ、祥平はここにどうして来たんだ?」
真淵、という呼び方は胃を痛める相手の印象が強いので名前で呼んでもらうことにする。
祥平は最初は戸惑っていたが、俺も呼び捨てだから、と言うとぎこちないながらも名前で呼ぶようになった。
「俺は祖母が入院してて…て言っても骨折ですから元気なんですけど。俺、お見舞いに来てるんです」
「へえ…ま、元気なら良かったよな」

それから俺達は取り留めもない話をたくさんした。
テストがどうの、テレビに出てるタレントがどうの。
穏やかな時間にああ、俺の求めていたのはこれだったのか、と思う。
今俺の周りにいる奴と言えば祥平のように気配りが出来るわけでも無し、こうして談笑できるわけでもなし。
本をそこそこ読むのが好きな俺と祥平は作家の好みが一緒で、話が盛り上がり今日会ったばかりとは思えないぐらい打ち解けた。

ふと時計を見ると思ったよりも遅い時間に驚く。
俺につられて時計を見た祥平も驚いたようで、一瞬眼を見開いて苦笑する。
「すいません、俺長々と…もうそろそろ良い時間ですよね」
「ああ、いや俺の方が悪い、思ったより遅かったろ」
お互い謝りあっていることに顔を見合わせてぷっと吹き出す。

「あ〜…良かったらまた話しようぜ」
いつになく穏やかな気分になれた感触に、思わずそう言うと祥平は一瞬きょとんとした後はい、と笑う。
「俺、大体毎週この時間には病院に来て宿題とかやってるんで、見かけたら声かけてください」
「ああ、じゃ、またな、祥平」
俺の通院も毎週これぐらいの時間に、と言われていたのでどうやらここに来るたびに会えそうだ。
俺は一度病室に戻るという祥平とそこで分かれ、その日は久しぶりに穏やかな気分のまま家に帰った。

◇◇◇◇
「最近真淵さん機嫌イイっすね、顔色もいいし」
「そうか?」
「そうっすよ、最近は近寄りがたい雰囲気が減ったって女子にも更に人気出てるんすよ〜!俺らみたいなやつのために総長達幹部はちょっと配慮してくださいよ〜!」
わあわあと大げさに嘆く下の奴らを苦笑してあしらいながら、そんなに分かるほど機嫌がいいのか、と俺は密かに驚いた。
まあ原因なら大体分かってる、祥平だ。

あれから俺はしがないサラリーマンのように通院を続けている。
その度に祥平とは談笑するのがお決まりのパターンになってきていて、今では一緒に勉強することもある。
俺がまじめに勉強するなんてな、と思ったがまあ勉強も分かりゃあ楽なもんだ。
祥平とそんな風に過ごすことで俺はそれまでの1週間で溜まったストレスを解消してる。
つまり祥平と話すことで俺の精神が癒されてるんだ。
自分でも祥平と会った後は穏やかな気分になることに気付いたし、胃が痛むことも少なくなってきたしな。

しかし下の奴らにも言われるぐらいとはな、祥平の癒しはすげえな。
ま、あのふにゃっとした笑顔を見れば大体の奴はそうなるか。
ちょっと下がり眉の祥平は見てるだけで癒しオーラが出てる感じだもんな。
一人うんうん、と納得していると「真淵」と名前を呼ばれる。
その声に俺の周りにいた奴はひぃっと小さく悲鳴をあげて俺を盾にするようにしてその人物から隠れる。
おいおい…まあその気持ちはわからんでもないが、一応チームの副総長だぞ?

俺の目の前にやって来るとその下の奴らの態度にぴく、と片眉を動かして俺の後ろを見る。
おいおい、んないじめてやんなよ。
またもひっと悲鳴をあげた反応にふん、と鼻をならして俺に向き直って口を開く。
「真淵、総長ですが今日は来ないとのことです」
「あ〜だろうな…今日は放課後に川島と買い物行くっつってた」
でれ〜っとした様子で俺に嬉々として報告してきたことを思い出して苦笑する。
するとしばしそんな様子をじっと見て何か思案するような顔をされ、その反応を不思議に思い尋ねる。

「なんだ?」
「いえ…真淵、最近胃痛を訴えませんよね、病院に行ったんですか?」
またその話題か、と思いながらも俺はああ、と返事をする。
「今通院中」
「そうですか…ああ、そういえば今度の新入りとの顔合わせですが休日のほうがいいので土曜日の昼からでもいいですか?」
それを聞いた瞬間速攻で「駄目だ」と口から言葉が出た。
その速さに驚いたのか、珍しく僅かに目を見張っている。
自分でも半ば無意識のように出た返事に驚く。
が、事実なので続けて口を開く。

「言ったろ、通院してるって。で、それが土曜の昼なんだよ、だから土曜は夜まで無理、日曜にしてくんね?」
「……分かりました、日曜で手配しておきますが…」
「悪いけど頼むぜ」
ちょうど会話が終わったところだと判断したのか、下の奴らが俺を呼ぶ。
「んじゃ俺あいつら見てくるわ」
ぽん、と肩をひとつ叩いて俺は声をかけてきた方へ足を動かした。
だから俺は知らない。

「…たかが通院のためだけに日取りを変えてくれと言いますか…?あの真淵が…?」
離れていく俺の背中に誰にともなくぽつりと呟かれた言葉を。
「…これは調べてみる価値がありそうですね」
く、と新しい玩具を見つけたように唇の端を持ち上げたのも、それを目撃した下の奴らが恐怖に慄いていたのも。
しばらく続いた穏やかな気分に、浮かれていたともいえる俺は全く気付いていなかった。

◇◇◇◇
「どうやら通院しているというのは本当だったようですね」
「そ、そうっすね…でもこんな後付けるようなことして、後で怒られないっすかね…」
「真淵のあの回復の原因を知りたくないんですか?それに真淵ならどうせなんだかんだ言って許すでしょうし」
「ま、そうっすね」
ふん、下の奴らにまでそう思われているとは…真淵の奴、面倒見が良過ぎるというのも考え物ですね。
大体適当にどこかで息抜きしないから胃を痛めたりするんです。
ま、今はどこかで息抜きすることを覚えたようですけど。

病院の診察室に入るのを確認して隠れたまま周囲を見回す。
どこにでもありそうな病院だ。
ひとつ特徴をあげるとすればロビーの一角には机が置いてあってそこで本を読んだり勉強したり、仕事なのかパソコンを弄っていたりする人がいるくらいですかね。
とにかく真淵の息抜きになりそうな物は見当たりませんね。
おかしいですね、あの真淵の反応からしてこの病院こそ真淵の最近の機嫌の良さの原因だと思ったのですが…感が外れたか?

しばらく待っていると診療室から真淵が出てきて受付で金を支払うのが見える。
と、真淵はそのままロビーの一角に脚を向ける。
視線で追っていくと真淵はそのまま一人の青年に声をかけ、同席する。
「え…あんな地味な奴と、真淵さん、笑って…?」
ぽつりと零した下の奴の言葉通り、真淵が話しているのはごく普通の高校生らしい青年で、真淵の容姿を見れば普通ならビビって逃げそうなタイプ。
だが初めてではないらしく、笑って談笑している。

「…ふうん、そういうこと、ですか」
「?副総長?」真淵の顔を見て大体分かった。
「…帰りますよ、もう用はありません、ああくれぐれもこのことは真淵に言わないように。言ったら…分かりますね?」
にっこり笑って言ってやれば従順なこいつらはこくこくと頷く。
その様子を見てから踵を返す。
しかし、あの真淵がね…まあ本人は気付いてなさそうですが。
これは自覚した時が楽しみだな、まあ取りあえず、助けを求めてきたら今までの分も含めて特別にタダで手伝ってあげましょう。

◇◇◇◇
「っと、もうこんな時間か」
「わ、ほんとだ」
祥平と会話していると時間を忘れてしまっていつも気がつくと遅くなってしまっている。
今日も結構遅くなってしまっていてしまったな、と思う。
実はここら辺にはオークに突っかかって来るチームが最近出来たことを思い出したのだ。
ま、総長とかに比べたらほんとに弱っちいチームなんだけど、祥平は見るからに喧嘩なんてしたこと無さそうだし、早く返した方がいいよな、と思っていたのだ。
なのに話に夢中になって時間をすっかり忘れてしまっていた。

「もう遅いし送ってやろうか?」
チャリ、とバイクの鍵を回しながらそう言うと、祥平は眼を丸くした後慌てて首を横に振る。
「い、いいですよ!俺、駅までですし!」
「でもなぁ…」
「大丈夫ですって!それより真淵さんも急がないといけないんじゃないですか?」
「あぁ…いや…」
今日に限って下の奴らがへましたらしく、地元で小競り合いが起きそうだから帰って来いと言う電話で時間を確認することになったのだ。

いつもより遅くなった時間帯なので送ってやりたいのだが、眼の前ですぐに帰って来い、という会話を聞いている以上祥平は俺が送ると言ってもきっと遠慮して断り続けるだろう。
またも今度は下の奴らからの着信を知らせるバイブに祥平は苦笑して早く行ってあげてください、と言う。
タイミングの悪さに内心舌打ちしながらも身支度を整えて席を立つ。
「送れなくて悪いな、もう遅いんだから必ず明るい道を歩いて帰れよ」
「大丈夫ですって」
「俺が心配なんだよ、んじゃ、またな」
くしゃ、と祥平の頭を一撫でして出入口に向かう。
丁度またもかかってきた電話の対応をしていた俺は後ろで祥平が頭に手をやって赤くなっていたことを知らなかった。

そしてこの日、祥平を一人で帰らせたことを後で猛烈に後悔することを俺は未だ知らなかった。




110106
(ど、ドキドキする…俺、やっぱ啓介のこと…!?)
(あ〜くそっ…後で祥平に無事に帰ったかメールしようかな…)

長い間おまたせしてすいませんでした〜!(汗)
タイトルはヒロ様のリクの内容そのままにしてみました(笑)
真淵の相手は癒し系の祥平です
長くなってしまったので一旦ここで切ります