トナカイ×サンタ3 | ナノ
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気弱サンタと強引トナカイ 3


「ニコラ、用意できたか?」
「ヴィ、ヴィクセンほんとにこれしか無いの…!?」
「いいから着たなら出て来いって」
俺は寝室から出るに出られず困っていた。
きょ、今日はサンタとしての初仕事なのに、こんな衣装じゃ恥ずかしいよ〜!

昨日はあれからこれまた高級なレストランで夕飯を奢ってもらってどうせ明日は一緒に行動するのだからとヴィクセンの泊っているホテルの一室に泊めてもらった…というか押し切られて泊ってしまった。
夜食もこれまた豪華な物が運ばれてきて恐縮しながら食べた。
その後ヴィクセンが衣装が届いたから着てみろ、って言って紙袋を渡してくれて今俺は寝室で着替えたんだけど…。

「こ、これ間違って無い?ほ、ほんとに俺用の?」
「あ?サイズ合わねえか?」
「い、いやサイズはもうぴったしなんだけど…」
でも絶対に違うと思うっ!
だ、だってこの衣装…
「着たんだろ?開けるぞ」
「ちょ、まっ…!!」
言葉とほぼ同時にガチャッと扉が止める間もなく開けられ、俺は真正面からヴィクセンに姿をさらすことになる。

「へぇ…思った通り似合ってんな」
じいっと上から下までじっくりヴィクセンは見て唇を吊り上げてそう言う。
その視線に思わず俺はしゃがみこんでしまう。
「は、恥ずかしいよ…」
何とか腕で見えている脚を隠そうとするが、もちろんそんなのは気安めにもならない。
そう、なんと渡されたのはミニの短パンに上は赤いリボンのついた白いシャツ。
短パンは太腿の半ばくらいまでしか無いという短さ。
ブーツが膝下まであるとは言うものの普段なら絶対に見えない太腿までは丸見えだ。
特別仕様で魔法が織り込まれているのか、寒さは感じないけど、恥ずかしすぎる。

こんな格好、綺麗な容姿の男の人ならまだしも、俺なんかに似合うはずないよ!
ううっ恥ずかしいよ〜…絶対顔赤いし、そんな見ないで欲しいのに…!
「っ…ニコラ、んな顔で見んじゃねえよ」
しゃがみこんだ姿勢のままヴィクセンを見上げると、視線があったヴィクセンは一瞬息を呑んだ後そう言ってくる。
そ、そんな顔って…というか、な、なんかヴィクセンの目つきが…背中がぞわぞわするというか、身の危険を感じると言うか…

「ちっ今から仕事でさえなけりゃこのままここで楽しめんのによ…」
し、仕事!そうだ担当箇所のプレゼント貰いに行かなきゃ!
でもその前にこの格好どうにかしないと!
こんな恰好じゃ外に出ていけないよ〜!
「ヴィ、ヴィクセン、コートか何かない?この格好じゃちょっと…」
俺の声にようやく思い出したのか、ヴィクセンが「ちゃんとある、ちょっと着替えてくるから待て」と言ってヴィクセンの寝た寝室に入って行く。

取りあえずブランケットで脚を隠して椅子に座り待っていると、すぐにヴィクセンがやってくる。
「ニコラ」
声に視線をあげて俺は思わず眼を奪われた。
茶色のファーのついた濃いダークブラウンのコートを着たヴィクセンは何と言うか男の色気を感じる。
こんな格好良い人と接するのはヴィクセンが初めてな俺は心臓がドキドキしてしまう。
「これがコート、俺が着せてやるよ」
俺のそんな状態に気付いているのか、ふ、と笑ってヴィクセンはそんなことを言ってくる。

「ほら、こっち来い」
ぐい、と強引に、でも優しく腕をひかれて椅子から立たされ、ヴィクセンの眼の前に向かい合うようにして立たされる。
すっと背中にヴィクセンの腕が回され距離が近くなる。
わ、わわち、近い〜!な、なんか良い匂いがするし、き、緊張する!
ぎゃ〜!今み、耳に息がかかった!!
い、嫌にドキドキする!お、落ち着けヴィクセンはただ単にコートを着せてくれてるだけ…!

ふわ、と身体に柔らかい生地が羽織らされる。
と、する、と胸元に降りて来た手に俺は固まってしまう。
あ、ああ前で留めるんだ…で、でもさ、ならも、もうちょっと離れた方が…
ていうかみ、耳元から顔を離してほしい〜!時々耳にかかる吐息が気になるんだって〜!
ボタンをひとつずつ留める時間が非常に長く感じる。
最後に一番上の白いポンポンがついた紐を首元で結び終えたときには俺はもう耳まで赤くなっていた。

こ、こんな美形とこんなに近い距離にいるのに慣れてないんだからなんていうかこういうのはやめてほしい。
心臓がどくどく煩いし、は、恥ずかしいし…!
「出来た…似合ってる」
ふ、と頭上から落ちて来た声に顔の赤みが引かなくなる。
「ニコラ…」
間近で聞こえるヴィクセンの声がどことなく甘く聞こえて更に俺の顔は赤くなる。
な、なんだかふ、雰囲気が…その、あ、甘く感じるんですけど…!
ひ、ひいいっ!ゆ、指がみ、耳に…!!

何にも出来ずにかちんと固まったままの俺の耳にヴィクセンの長い指が触れた時、ノックの音が聞こえる。
「ヴィクセン様、御出発の時間です」
その言葉にさっきまでの雰囲気が無くなり、俺はほっと息を吐き出す。
と、とにかく良く分からないけど助かった気がする。
「…分かった、行くぞ、ニコラ」
「う、うん」
すっと距離をとったヴィクセンがそう言って俺をエスコートするようにして歩き出す。
よ、良かった、ちょっと強引な普段のヴィクセンだ。

そのままこれから受け取る担当のプレゼントと初仕事のことを考え、さっきのことをすぐに記憶の隅にやってしまった俺は知らなかった。
ちっと舌打ちをしたヴィクセンが、仕事が終わった今夜出会ってから我慢してきた分を一気にぶつけようとしていることを。
その時はまだ、知らなかった。

◇◇◇◇
「それではこれが担当箇所です、打ち合わせしておいてくださいね」
ヴィクセンに着せてもらったコートは長くて膝の真ん中あたりまであるので俺は一応ほっとしていた。
手を出すことのできる部分があるからそこから手を出して資料を受け取る。
地図と名前のリスト、後はプレゼント袋だ。
ふわっとしてふくらんでいるプレゼント袋はサンタが手を突っ込んで誰宛のプレゼント、と念じたら出てくるように魔法がかけられている。

「ええとソリは…?」
「ああ、これだ」
ドーンとした存在感のあるソリに予想はしていたもののやはり引きつってしまう。
濃い使い込まれた歴史を感じる木の色に、座り心地のよさそうな濃いベルベット色の座席。
銀色の金具が細やかな曲線を描いていて、優美な印象を与えるそれに、言葉が出ない。
「家にあった奴だから相当古いけど、一番上等の魔法が込められてある」
その言葉にぎょっとする。
ま、まさかこれ、伝説の始祖が引いてたソリとか言わないよね…?

「ん?座り心地は良いはずだぜ、ほら」
「わわっ」
ぐい、とひかれて座席部分に収まってしまう。
わ、ふかふかで凄く座り心地が良い…!
「腰が痛くても乗れるようになってあるからな、来年からも安心だろ」
うん?腰が痛いって…あ、年をとっても大丈夫ってこと?
「そうだね、ありがとうヴィクセン」
こんなに良いソリを用意してくれて、という意味で言うとヴィクセンは当然だ、今年は初仕事だから我慢したが、これからは我慢なんかしてらんねえからな、と言って上機嫌に笑った。
意味が良く分からなかったけど、ルートとかを考える必要があったので俺は地図を広げてヴィクセンにルートを決めよう、と声をかけた。

◇◇◇◇
「んじゃそろそろだな」
ルートを決め終わるとヴィクセンがそう言ってソリから降りる。
周りのトナカイ達も各々のソリの横に立つ。
「トナカイに手綱をつけ、準備してください!」
指示の声にトナカイ達が姿を変える。
瞬き一つの間にさっと人からトナカイへ。

ヴィクセンも瞬きした時にはもうトナカイの姿になっていた。
初めて見たその姿に思わず感嘆の溜息が出る。
髪色と同じ漆黒の艶やかな毛に覆われた大きな身体。
角も大きく立派で、じっと青い眼で俺を見ている。
「…すっごい、綺麗…」
思わず手を伸ばして触ってしまう。
手のひらに感じる逞しい筋肉。
思わず確かめるように何度か触っているとヴィクセンから声がかかる。

『ニコラ、後で好きなだけ触らせてやるから、先に仕事を終わらせようぜ』
「あ、ご、ごめん手綱付けないとね」
頭に直接響くような声に慌てて手綱をヴィクセンに付ける。
トナカイになったら直接意識だけが聞こえるんだよね、実際ヴィクセンの口は動いてないし。
じっと顔を見つめているとまた声が響く。
『…ニコラ、今夜が楽しみだな』
「うん、そうだね、俺、下手くそかもだけど、頑張るよ!」
初仕事だし、俺も精一杯頑張るよ!と決意を新たにそう言うと、ヴィクセンは満足気にソリの前へ移動した。
それにしてもヴィクセンもなんだかんだ言って、仕事が楽しみだったんだね!
よし、頑張るぞ!!

◇◇◇◇
『ここで最後だな』
「そうだね…これでよし、と」
そっと枕元にプレゼントを置いて静かに夜空に旅立つ。
「ヴィクセンのおかげでこんなに早く終われたんだよ、ありがとう、ヴィクセン」
ぐんぐん進むヴィクセンにそう声をかける。
実際ヴィクセンの脚は他のどのトナカイよりも早くて、目的地まで短時間で着いたため非常に早く回り終えることが出来た。
『俺が早く終わらせようと思ったのはニコラがペアだからだ』
「?そうなんだ?ありがとう」
俺がペアだから?よくわかんないけど、上手く仕事をやり終えたしとにかく良かった!

ようやく街が眼下に見え、帰ってきた、と思うとヴィクセンは広場とは違う方向へ向かってしまう。
「え、ヴィクセン?広場はあっち…」
『このまま直帰すると申請した、家に帰るぞ』
「え、家って…」
すうっと滑る様にヴィクセンが降りていく場所にぎょっとする。
も、もしかしなくてもやっぱり伝説のトナカイの子孫が住む豪邸だ!
いや、ヴィクセンにとったらここが家なんだろうけども…!

音もなく地面に降り立ったヴィクセンがぶる、と頭を一つ振る。
「御帰りなさいませヴィクセン様」
いきなりかけられた声に俺はびくっとしてしまう。
声の方を見ると執事っぽい人とかメイドっぽい人とか…とにかく使用人さんが一杯いてぎょっとする。
え、ええ、俺ってすっごい場違いなんじゃ…!
しかもこの執事っぽい人、俺を見てるよねえ!?
『じろじろ見るな、ニコラ、手綱を外してくれ』
ザッと苛立たしげにひとつ蹄で雪の降り積もった地面を掻いてからヴィクセンが俺の方に顔を巡らせてそう言う。
執事さんはその声に「申し訳ありませんでした」と深々と頭を下げて俺はまたも驚いてしまった。

が、再度『ニコラ』とヴィクセンに呼ばれハッとする。
「あ、う、うん」
そういえばこのあり得ない状況に外すことを忘れていたことを思い出し慌ててヴィクセンから手綱を外す。
する、と手綱を外して瞬きするともうヴィクセンは人の姿に戻っていていきなりさっと俺を抱きあげる。
「わっ!?」
片腕を膝の下に回され高くなった視界に思わずヴィクセンの頭を抱くようにしがみついてしまう。

「俺が呼ぶまで誰も部屋には入れるな」
「畏まりました」
頭を下げたままの使用人さんで出来た道をずんずんヴィクセンは進んでいく。
え、ていうか、え、ちょ!?
内装もこれまた豪華な屋敷に眼を奪われる暇もなくある部屋に連れて来られる。
シンプルながらもどこか優雅さを漂わせた家具が置いてある部屋を抜け、奥にあったそこは、大きなベッドのある寝室で。

え、え?と思っているとヴィクセンがブーツを脱がしだしてぎょっとする。
「な、何を…!?」
「ん?帰ってきたんだから脱ぐのは当たり前だろ、ほらこれも」
する、と両足からブーツが脱がされてぽい、とヴィクセンはそれを投げ捨てたかと思うと今度はコートを脱がしてくる。
「いや、脱ぐって言ってもそれは家に着いたらの話で…!」
半ばパニックのようになりながらもそう言うとヴィクセンはさらっと言った。
「だから、今日からここがニコラの家だろうが」

「……はい?」
バサ、とコートも投げ捨てられるのを見ながら、思わずまじまじとヴィクセンの顔を見てしまう。
今なんと?俺の空耳?
「…ヴィクセン、今何て言った?」
片手で器用に自分のブーツも脱いでいるヴィクセンにそう言うと不思議そうに俺を見ながら再び爆弾発言をされる。
「新居の方が良かったか?ま、でも今日はもう我慢できねえし俺の部屋で良いだろ、新居はニコラの好きなものを…」
「!?し、新居っ!?そんなの要らないよっ!ていうかどういう…わっ!?」

言葉の途中でぐい、と視界が変わり言葉が途切れてしまう。
とさ、と背中に軽い衝撃、眼に映るのは、豪華な天井と俺を見下ろすヴィクセン。
「そういうのは後で聞く、とりあえず今はもう我慢の限界だ…」
バサ、とコートを脱ぎ捨ててじっと俺を見るヴィクセンに背中に嫌な汗が流れる。
熱っぽい視線に身の危険を感じる。
「ヴィ、ヴィクセン…?」
おそるおそる声をかけると、する、と頬を撫でられる。
その熱い指先に、どこか妖しい手の動きに背中がぞわぞわする。

「…ニコラ、一生大事にしてやるからな」
「な…っん、んん!」
言葉の意味を聞こうと口を開いた途端、食らいつくように唇を塞がれる。
開いていた隙間から侵入した舌に掻き回されてぞくぞくする。
「んん…んっ!!」
舌に気を取られているとするっと胸元を直接手で撫でられてその手の熱さにびくっとする。
え、ていうか、な、なんで胸裸…!?

「ふ、ん…っは、ふ…」
存分に俺の息が上がるまで口内を掻き回した舌がようやくちゅ、と音を立てて離れていく。
そのころにはもうシャツは腕に引っかかってるだけだし片手が腰の部分をいやらしく撫でていて、嫌でもヴィクセンが何をするつもりなのか分かっていた。
「ニコラ…」
間近から熱い吐息混じりに名前を呼ばれて思わずヴィクセンの顔を見てしまう。
「…ぁ…」
欲情した眼と視線が絡んで、離せない。
近付いてくるヴィクセンから、もう逃げられない。

「…愛してるぜ、ニコラ」
「っ!あ、んん…!」
ふ、と笑った顔に見惚れた次の瞬間にはもう激しいキスに俺は翻弄されていて。
その日は結局ヴィクセンが満足するまで俺はただただされるがまま翻弄されるしかなかった。

◇◇◇◇
「し、信じらんない…」
「初めに言ったろうが、一生不自由させねえって」
上機嫌に俺の髪を撫でるヴィクセンに脱力する。
ふ、普通誰もそれが結婚の申し入れなんて思わないって!!
ぐったりとまだ全身に倦怠感が残っているままベッドにうつ伏せの状態で改めて昨日の行為の理由を聞くとヴィクセンから帰ってきたのは「ニコラは俺の番だろう、番が愛し合うのは当然だ」というこれまた爆弾発言。
ぎょっとして詳しく聞けばなんとあの時点でヴィクセンは俺を番にしたつもりだったらしい…。

思い返してみれば意味の分からなかったヴィクセンの言葉の数々もそう考えると意味が分かる。
というか本気なんだろうか。
いくらペアだと言っても必ずしも番になる必要は無いのに、俺なんか…。
ちら、とヴィクセンを見上げるとふ、と微笑んだヴィクセンが口を開く。
「婚姻届はニコラの調子が良くなり次第出しに行こうぜ、心配しなくても後はニコラがサインするだけだ」
えっと思う俺の眼の前にぴら、と確かに俺のサイン以外完璧な用紙が見せられる。

えええええ!用意良すぎ!
ていうか本気だったんだ!?
いや昨日のあのがっつき様からして薄々そうじゃないかなとか思ってなかったわけじゃないけども!
「これからは俺がたっぷり愛してやるからな、ニコラ」
ふ、と不敵に笑うヴィクセンにきゅんとしてしまう辺り、どうやら俺も手遅れだな、と思いながら俺は落ちてくるキスを受けるために静かに眼を閉じた。

「…っ!?ちょ、ヴィクセ…っあ!」
「ニコラ…いいだろ?」
「やっ、あ!ちょ…っん!」

……取りあえずは俺の身体のためにも、まずもうちょっとこのがっつきぷりを直してもらおう、うん。




101225
(ヴィクセン、も、だめぇ…っ!)
(可愛い、ニコラ…)

よ、ようやく完結…!
ヴィクセンはニコラに一目ボレです
頭の中ではきっともうハネムーンのこととか考えてますよ(笑)

それではこれからも拙い文章ですがよろしくお願いします!
Merry Christmas!!