トナカイ×サンタ2 | ナノ
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気弱サンタと強引トナカイ 2


な、なんでこんなことになっちゃったんだろう…
「それでは御確認します、サンタはニコラ、トナカイはヴィクセンでペア登録してよろしいですね?」
「ああ」
ペア登録所の職員さんの質問に鷹揚に頷く男の顔をそっと見上げて溜息が出る。
ほんと、どうしてこんなことに…

◇◇◇◇
「ど、ど、どういうことですかっ!?」
あの後ようやくハッと我に返った俺がそう言い腕を取り返そうとするが、男の力の方が強くて中々離れない。
男は腕を離そうとする俺にちょっと眉を寄せる。
うっ!び、美形の不機嫌顔って怖い…!
たじろぎつつも何とか離れようとする俺の耳に「どうしてですかっ!?」と高めの声が聞こえてくる。

声の方を見るとさっき取り囲んでいた集団が男に懇願するように口々に不満を述べている。
「僕の方が貴方には相応しいですっ!!」「私なら貴方の望むものを全て用意できますっ!」
「どうしてこんな…!!」
ぎろっと睨まれて俺はたじろぐ。
こ、このままだと確実に俺は逆恨みされてしまう!
哀しいけど彼らの言うように俺は特別能力が高いとか家柄が由緒あるとかそういうこともないし、本当にごくごく普通のサンタなんだ。
噂で聞いただけだけど、この男は養成学校では常にトップだったって言うし…俺なんかには全く釣り合わないのは明らかだ。

分かってはいたが、やはり自分を見下すような他人の発言には落ち込む。
こんな時期になってもペアがまだ決まっていないということも彼らの発言を裏付ける様で、さらにへこむ。
周りからの刺すような視線と劣等感に、思わずうつむいた時、いきなり男が掴んでいた手を引いた。
「っえ」
力の抜けていた俺は簡単にその力に引き寄せられて男の胸の中に飛び込むようにして移動してしまう。

「!?」
ばふ、と高級そうな柔らかいコートに包まれた胸元にぶつかり、事態を理解できずに硬直したままの俺の背中に腕が回される。
「…俺に相応しいかは俺が決める、てめえらは黙ってろ」
低い凄味のある声にぐっと周囲が一瞬声を詰まらせる。
俺は真上から聞こえて来た声に、ようやく抱きこまれていることを知り慌てる。

「ですが…っ!」
「煩え…俺はこいつに決めた、外野がごちゃごちゃ口出すんじゃねえよ」
さっきよりも明らかに怒気を孕んだ声に、今度はさすがに周囲も黙り込む。
その様子に気が済んだのか男はふん、と鼻を鳴らした後歩き出す。
当然抱きこまれる形になっている俺も歩かざるを得なくなり、俺は慌てて声をあげる。
「あのっ!ちょっと離s…わぷっ!」
「あぁ?聞こえねえな」
ぐい、と後頭部に添えられた手でばふ、と再び男の胸に顔をうずめる形になってしまい言葉が途切れると、男はそう言って脚を止めない。

「ちょ…っどこに行くつもりですかっ!?」
「あ?んなもん決まってんだろ」
だ、か、ら、どこっ!?
貴方は分かってても俺には分かんないですって!!
と心の中で思うものの、実際に口に出す勇気は無く。
俺は周囲からの驚きと妬みの視線を感じながらも、男の腕に抱かれたまま促されるまま歩き続けた。

「こ、ここ…」
ようやく男が脚を止めた建物に俺は眼を見開く。
「名前はなんだ?俺はヴィクセンだ」
茫然と俺がロビーで立ち尽くす間に男は横で書類に記入を始めていて、俺はぎょっとする。
「ちょ、それ…!」
「あ?仕事明日だからな、とりあえず今はペア登録だけでいいだろ」
男の手元にはペア登録の用紙、しかもトナカイの分には既に記入済みの物がある。
「で、名前は?」
「ちょ、ちょっと待って、ほ、本気なの?」
「あぁ?」

俺が茫然とヴィクセンを見上げて言うと、不機嫌そうな声が返ってくる。
俺はそれにちょっとひるみながらも何とか口を開く。
「だ、だって俺、ほんとに普通だから、その、迷惑かけるかもしれないし…」
成績トップだったヴィクセンにしたら、きっと俺なんかは足手まといになるに違いないと思う。
そう思い口にしたのだが、それを聞いてヴィクセンはふ、と相好を崩す。
「…俺のこと心配してんのか、やっぱ可愛いな、お前」
「かわ…っ!?」
元々ちょっとワイルドな見かけのヴィクセンが優しく笑う顔はそりゃもうすごい威力で、まともにそれを真正面で見た俺は一気に顔が真っ赤になるのが分かる。
しかもか、可愛いなんて言われて更に上気してしまう。

ううう、び、美形に免疫が無いのに…!
こ、こんな笑顔卑怯だよ…!
恥ずかしさに真っ赤になっているであろう俺の顎を掴み、ぐい、とヴィクセンは自分の方へ向ける。
うわわ、だからこんな美形は免疫無いんだって!
「…心配すんな、お前には俺が一生不自由させねえ…いいな?」
じっと青い瞳で見つめられ、囁くように甘い声でそう言われる。
俺はその熱い視線や間近に感じる他人の熱に頭がくらくらしてくる。

わわ、め、眼が離せないよ…!
あ、なんか良い匂い…って、っどどどどうしたら…!?
「…お前は俺のペアだ、いいな?名前は?」
ずい、と近寄って来た男に俺は半ばパニックになる。
ま、睫毛も長…影が出来てる…ってそんなこと言ってる場合じゃ無くて!
い、息がかかる…っ!
「二、ニコラです…っ!」

眼前に迫った美形の顔に耐えきれず俺は思わず自分の名前を言ってしまう。
するとぴた、と鼻が触れる寸前で止まったヴィクセンにほっとする。
「ニコラ…ニコラだな」
「は、はい…」
すっと遠ざかる顔にようやく息を吐き出す。
ううう、美形の接近は心臓に悪いよ…まだドキドキしてる。
「よし、行くぞニコラ」
「え?」
何か作業をしていたヴィクセンがいきなりそう言いまたも俺の肩を抱くようにして歩き出す。

「え、え、ちょ…」
「ニコラ、名前を教えたってことは俺とペアになんのを承諾したってことだろーが」
え、いやそんなつもりは…あ、でも質問してたからそういうことになるのか…?
いや、でも…と眼を白黒して慌てる俺に構わずヴィクセンはペア用紙を提出してしまい、今に至るのだ。

はあ、と今までの急展開を思い出していた俺の耳に職員の声が入る。
「はい、これで正式にペアとして登録されました」
「よし、行くぞ」
「え、行くってどこへ…?」
ヴィクセンはそれを聞くなり俺の肩を抱いて歩き出し、俺は慌てて声をかける。
するとヴィクセンは上機嫌な様子で今度は教えてくれる。
「衣装や手綱を揃えに行くぞ」
「へ」
衣装も手綱も貸し出されるのがあるし、余裕のあるペアしか自分専用の物を持っていないのに、今年初めてなのに、衣装に手綱?
そんな経済的余裕は無い、と言おうにもぐいぐい進むヴィクセンについて行くのに必死で俺は結局店に連れていかれてしまった。

◇◇◇◇
「こちらなんていかがでしょう?きっと夜空に綺麗に映えますわ」
「そうだな…だが他の奴に見せるつもりは無い」
「でしたらこのマントがお勧めですわ、これなら着脱も簡単で軽さも…」
眼の前で繰り広げられる会話に全くついて行けない。
というかなんでこんな高級ブティック!?
け、桁が3つぐらい違うよおおおおっ!!

「よし…ニコラ、衣装はこれでいいから、次は手綱だ、どれがいい?」
「え…」
ずらっと用意された手綱に眼を落とす。
わ、あの一番端にある黒い手綱、柔らかそうで使いやすそう…!
じっと見つめていたからか、ヴィクセンが「これか」と言って手渡してくれる。
わ、手にすごくしっくりくる…!
うっとりして手にとったそれを色々な角度から見ていると、ヴィクセンが「それにしよう」と言ったのでハッとする。

「支払いを」と手続きを進めるヴィクセンに慌てて声をかける。
「ヴィ、ヴィクセン、俺こんなに良い物…」
買えないよ、とはさすがに店員の前ではっきりと言えず語尾を濁らせるが、ヴィクセンは俺の言いたいことが分かったのか、く、と笑って俺の頭をくしゃりと撫でる。
「心配すんな、言ったろ、ニコラに不自由はさせねえって」
すい、とヴィクセンが無造作に取り出したカードを見て俺はぎょっとする。

だ、だってあの大きい立派なトナカイの紋様が入った銀色のカードって…!!
「ヴィ、ヴィクセン、ま、まさかそれ…!」
「ん?あぁ…俺一応学生ん時から何個か会社持ってるから」
本当に由緒正しいお金持ちしか持てない銀色のカードに、伝説の始祖の血を濃くひくことを現すトナカイの紋様。

え、ヴィクセンってま、まさか八大トナカイの子孫…!?
俺は茫然とヴィクセンを見上げる。
「ニコラ、ソリは俺が用意しとくから、今日はもう飯にしようぜ」
上機嫌にそう言い俺の肩を抱いて歩くヴィクセンに、俺はとんでもない人物とペアを組んでしまったことの衝撃から抜け出せずにいた。




101224
(え、え、え、これ現実…?)
(とりあえず明日は仕事だから我慢か…ちっ、サッサと終わらせるか)


まだ終わらなかった…多分後少しで終わるのではないかと…(汗)
ちなみに名前はそのままサンタとトナカイから引用しました