トナカイ×サンタ | ナノ
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気弱サンタと強引トナカイ 1


「どうしよう…」
はあ、と溜息が出てしまう。
俺は今年ようやく養成学校を卒業して、サンタとして子供たちにプレゼントを配りに行くことが出来るようになったんだけど…
「…ペアになってくれるトナカイがいないよ…」
折角サンタになれたとしても、ペアになってくれるトナカイがいないと意味が無い。
最悪ペアが見つからなければ紹介所に申請すれば同じようにペアを見つけられなかったトナカイを紹介してくれるんで、俺も紹介してもらったんだけど…

「…やっぱり俺なんかじゃ断られちゃうよね…」
今日既に何人かと会って言われたセリフを思い出す。
『悪いけどもっと優秀なサンタと組みたいんだ』
『その見かけで私と組もうっての?悪いけどお断りするわ』
『悪いけど他当たって』
冷たく断られたことを思い出し、さらに気分が沈む。
確かに俺は容姿も成績も普通なんだけど、ああも見下すように言われるとへこむ。

着々とペアが決まって行く中、今残っている人達は大きく分けて2種類いる。
俺のようにペアが見つからなくて困っている人か、一番良い相手を選ぼうとぎりぎりまで相手を見定めるエリートタイプだ。
そりゃペアのサンタとトナカイは結婚する確率が高いから、じっくり決めたいのは分かるんだけどね。
でも全部のペアがそうなるわけじゃないし、毎年ペアの双方の合意があれば相手を変えることだって簡単なのに。
はあ、と溜息をついてカフェオレを一口飲む。

この中央広場が見えるカフェにも今は人が少なくなっている。
ここのカフェにいるってことはペア募集中、っていう意思表示だから。
ちらほらいる人も、どう見ても相手を選べる立場の人だから俺みたいに本当に相手がいなくてここにいる人は少ない。
こうなったらちょっと高齢の人の所にでも頼みこみに行こうかな、と考えていた時、カフェにおしゃべりしながら数人が入って来た。

「私誰とペア組もうか迷ってるの」
「分かる〜!僕も迷ってるんだ」
「トナカイ候補は5人くらいに絞ったんだけどね」
ちら、と見たところ俺と同じ今年からのサンタだ。
ただ俺と違って容姿が整っているから相手には困って無いみたいだけど。
仕方ない、こうなったら裏のおじいさんにでも頼んでみよう、と思い残りのカフェオレを飲んでしまおうとした時、カフェに興奮した様子で一人の男の子が駆け込んできた。

「ちょ、ちょっとちょっと大変!!」
「どうしたの?」
彼らと同じグループだったようで、彼は興奮に顔を赤くしたまま大きな声で話し始めた。
「すごいよ!今とってもエリートのトナカイが街に来たの!ちょっと来るのが遅かったから、まだペアが決まって無いんだって!!」
「エリート?」
「そう!養成学校では成績が常にトップだったんだって!ちょっとワイルドなんだけど、すっごく優秀で容姿端麗らしいよ!!」
「ほんと!?今すぐ行かなきゃ!!」
ガタガタとカフェから急いで皆出ていく。
大声だったから店にいたサンタ全員に聞こえたんだろう。

成績優秀で容姿端麗か、きっとすぐにペアも決まるんだろうな。ちょっとワイルドって言ってたけど、きっとそんなところも魅力に感じる人はいるだろうし。
俺なんかがいってもどうせ相手にもされないだろうしな、と俺はゆっくりと残りのカフェオレを飲み干し、裏のおじいさんにペアになってもらえないか聞いてみよう、とカフェを後にした。

◇◇◇◇
「すまんね…脚を痛めてしまってね」
「そうですか…」
裏のおじいさんはこの前転んで足を痛めたらしく、ちょっと今年は無理だということだった。
「そうだ、うちの孫も今年トナカイとして初めて働くんだよ、もしあの子が決まっていないなら、あの子と組んでやっておくれ」
しゅんとした俺の様子におじいさんはそう言って孫への連絡先を教えてくれた。
「え、でも、もう相手がいるかも…」
戸惑ってそう言うが、おじいさんは優しく笑っていやいや、と口を開く。
「どうやらあの子も困っているようでね、この前どうやったらペアを見つけれるのかアドバイスを聞きに来たんだよ」
多分トナカイのペア募集用のカフェにいると思うから、良かったら声をかけてやってくれ、と言っておじいさんは俺を送り出してくれた。

「…一応行ってみるか」
もしまだカフェにいるようなら、声をかけてみよう。
おじいさんが折角ああ言ってくれたし。
それで断られても、仕方ない。
その時は仕方なく今年は諦めるか、最後まで決まらなかったトナカイとペアになろう。
俺はゆっくりとカフェに向かい歩き始めたが、道の向こうから聞こえてきた声に何気なくそちらの方を見た。

「ね、僕はどうですか?」
「私もどうです?今年からなんです!」
男女とも綺麗な人がたくさん集まって必死にアピールしている。
サンタばかりが集まっているところから、きっとあの言っていたトナカイなんだろう。
人だかりの中心に長身の男の人の姿が見える。
黒いウェーブした髪に褐色の肌。
向こうを向いているから顔は良く見えないけど、周りの必死な様子を見る限りきっと美形なんだろう。

ま、俺には関係ないか、とその集団の後ろを通り過ぎようとしたとき、ふと中心の人物がこちらを見た。
すっと通った鼻筋に、長い睫毛の縁取る薄いブルーの瞳。
うわ、すっごい美形だ…
思わず脚を止めて見惚れてしまう。
少し驚いたように眼を見張っているその様子も、美貌を損なうものではない。

視線が絡んだように感じて、ドキ、とする。
冬の空のような薄いブルーの瞳に吸いこまれそうな気がする。
周りの声も気にならない、ただ眼の前の人に、意識を奪われる。

「どうしたんですかぁ?」
どのくらいそうしていたのか、周囲にいた一人がそう言ったことでハッとする。
わ、何してんだ俺!
見惚れてぼおっとしてたなんて、恥ずかし…!!
微妙に熱くなった頬を見られたくなくて、慌てて通り過ぎてしまおうと脚を動かしたんだけど…

「待て!」
よく通る低い声に、びくっとする。
え、え、何?俺じゃないよね?
気にせずにそのまま歩いていこうとするが、それはいきなりガっと腕を掴まれたことで出来なくなる。
驚いて掴まれた腕を見ると、骨ばった男らしい大きな手。
「待てと言っただろうが」
頭上から聞こえてきた声に、ゆっくりと視線をあげていく。

黒い上質そうなコートに包まれた腕、肩、と見えてきて、最後の顔は…
「…っ!?」
な、な、なんで!?
じっと俺を見下ろしていたのは、人だかりの中心にいたあの男だった。
驚きに男の顔を見上げたまま固まってしまった俺の眼の前で、男はゆっくりと笑う。
「…今からお前は俺のペアだ、いいな」
にやりと不敵に笑う男は確かに大変ワイルドで魅力的だけど、今の俺にはそれどころじゃ無い。
え、え、なんでいきなりそんな話にっ!?

「そんなっ!!」「どうしてっ!!」
悲鳴のような声をあげる人に囲まれ、俺は腕をしっかりと掴まれたままただただ茫然と不敵に笑う男の顔を見つめていた。




101222
(ど、どうなっちゃうんだよ、俺…)

クリスマスなのでサンタとトナカイ擬人化です
気付けばまだ一切名前が出てきていないですね
いえ、決してまだ名前を決めていないわけでは…(汗)