てあらにあつかってはいけません 3 | ナノ
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てあらにあつかってはいけません さん


「あ、かね、く…」
「トモちゃんっ!」
ガシャン、とバイクを乗り捨てるようにして茜君がまっすぐに俺のところへかけてくる。
「トモちゃん、大丈夫!?怪我は!?」
ソファの前にやって来た茜君は座る俺の視線に合わせるようにして地面に膝をつく。
大きな両手で俺の身体を確かめるように触った後、俺の顔を見て苦しそうに顔を歪める。

「…ごめんね、怖かったよね…」
つ、と親指で泣いて少し熱を持った目尻を拭われて、そう言われる。
「ごめんね…」
そのままぎゅうっと抱きしめられる。
いつもよりもちょっと力強い腕に、少し高い体温に、微かに乱れた息に。
俺を必死に探してくれていたんだって、胸が熱くなる。
「…茜君…」
じんわり俺もきてしまって、きゅうっと茜君の胸のシャツを握り締める。

俺なんかを、汗をかくほど探してくれたんだ。
力強い抱擁に、いつもの茜君の香りに、ほっと安心する。
もう大丈夫だって。
茜君が来てくれたって。

「…無事で、良かった…」
小さな小さな声。
抱きしめられてるから分かるほどの小さな声に、胸が一杯になる。
また熱くなって来た眼頭に、俺はそっと眼を閉じて茜君の胸に顔を埋める。

怖かった。
知らない人に追いかけられて、崎田君が殴られるのを眼の前で見て。
知らない場所で、知らない人に囲まれて。
もう危害を加えられたりしないって分かっても、一人で心細かった。
でも。
茜君が、来てくれたから。
いつもみたいに、名前を呼んで、抱きしめてくれたから。
もう、大丈夫なんだって、思えたから。

「…ありがと、茜君…」
来てくれて、本当に嬉しかった。
俺も小さくそう呟くと、茜君もそれに応えるかのようにぎゅっと腕に力を込めてくれる。
その力強さに、心から安堵する。
茜君が来てくれたら、もう大丈夫。

「…か、しわ、ぎ…?」
ほっとする俺の耳に茫然とした畑山さんの呟きが聞こえて来てハッとする。
そうだ、皆にまだ言ってないんだった。
茜君はこんなに優しくなったんだよってこと。
俺が口を開こうとした時、先に茜君が口を開く。
「…トモちゃん、ちょっとだけ待っててくれる?」
「え…」
ゆっくり身体を離され、見上げるとちょっと困ったように茜君は笑って。

「…トモちゃんに手、出されて、今俺正直頭にきてんだよね…」
俺を背後に庇うようにしてゆっくり畑山さんの方を見る茜君の声は、怒気を孕んですごく冷たい。
「っ茜君、俺は…」
何もされてない、と言おうとした俺を遮って畑山さんが口を開く。
「川島、もとはと言えばこれは俺が引き起こしたこと。殴られる覚悟は出来ている」

その言葉に茜君がゆっくりと立ち上がりながら口を開く。
「へぇ〜…?いい度胸じゃん、あと気易くトモちゃんに話しかけないでくれる?これ以上俺を怒らせたいわけ?」
ピリピリした茜君の雰囲気に、本気で怒ってるんだって分かって思わず息を呑む。
本気で怒ってる姿、初めて見た。
色が無くなったみたいな冷たい瞳なのに、口元だけはうっすら笑みの形になってて。
茜君の発する怒気で、空気が緊張していくのが分かる。

「確かに今回のことは全面的に俺が悪かった、すまない、柏木」
「謝れば俺が許すと思ってる〜?」
「まさか。俺も男だ、さあ、潔く殴れ!!」
ドーンと仁王立ちした畑山さんはそう言って茜君の眼の前できつく眼をつぶる。
俺はハラハラして思わず小さく茜君、と呟いてしまう。

だっていくら怖い目にあったって言っても、それは畑山さんだけのせいでもないし。
むしろ脇口っていう人の方が俺的には恐怖だったし。
こんなに一杯ぬいぐるみとかを集めて来た畑山さんを俺はそんなに嫌えなくて、思わず縋る様に茜君を見つめてしまう。

「…そんなふうにされると興醒めだよねぇ〜…それにトモちゃんも無事だったし…仕方ないから一発で許してやるよ」
しばらく茜君はじっと黙りこんだ後、ふん、と鼻を鳴らしてそう言う。
い、一発…その言葉に俺はほっとする。
多分畑山さんも一発ぐらい殴られとかないと気が済まないだろうし、一発だけならいいよね?

「…トモちゃん、ちょっとだけ耳ふさいで眼瞑ってて?」
「え、でも…」
「そうした方がいいぞ、ほらそこの耳当てでもつけろ」
「…俺のトモちゃんに気易く口きくなって、一回じゃ分かんないわけ?…トモちゃん、ちょっと癪だけどそれ、つけて耳押さえて眼をしっかり瞑ってて、お願い」
茜君に困ったようにお願いまでされてしまえば嫌とは言えない。
他のリーゼント達もそうしろ、って言ってるし。
渋々もこもこの耳当てを手に取り、付けた後その上から耳を押さえてぎゅっと眼を瞑る。

一瞬鈍い音と小さなうめき声が本当に小さな音で聞こえた後、ひょい、といきなり抱きあげられる。
「っ!?」
浮遊感に驚いて眼を開けると眼の前には茜君の顔があって。
「さ、帰ろう、トモちゃん」
いつもの優しい茜君に、ほっとする。
「うん…あ、崎田君は!?大丈夫!?」
慌てて聞くと茜君はすとん、と地面に俺を下ろして倒れたバイクを起こしながら答える。
「崎田なら大丈夫、怪我が酷いから病院にいったけど、またしばらくしたら学校に来れるよ」
「そ、そっか…」
やっぱり入院しちゃったんだ…頑張って庇おうとしてくれたんだもんね、後でどの病院か聞いてお見舞いに行こうっと。

「はい、トモちゃん、どうぞ、あ、これ被っててね」
「え」
ひょいっとまたしても抱えられたかと思うとバイクにすとんと乗せられ、ヘルメットを被せられる。
「あ〜俺のだからちょっと大きいねぇ…ん、これで大丈夫かな」
フルフェイスタイプのそれは俺にはちょっと大きかったんだけど、茜君がちょいちょいと何かしてくれて、ちょっとぐらつきがマシになった。

「あ、そうそ、これからは俺に用があるなら直接来なよね、今度トモちゃんに手、出したら…その時は容赦しないから」
茜君がそう言ってソファの方を見たので俺もつられて見ると、蹲って胸を押さえる畑山さんとその周りにいるリーゼント達が見えた。
「じゃ、トモちゃん、しっかりつかまってて」
ぎゅ、と前にいる茜君の腰に抱きつかせるように腕を引っ張られる。
初めてのバイクにきゅ、と力を込めて抱きつくと、ぐ、と茜君が力強く俺の腕を自分の方へ押しつけてくれる。
「行くよ」
ヴン、というエンジン音とともに茜君は地面を蹴り、俺は茜君と一緒に倉庫を出た。

◇◇◇◇
「本当にごめんね、トモちゃん」
「ぶ、無事だったんだしいいよ、茜君…」
学校について教室の席に座るなりしゅんとした様子でそう言う茜君に俺は慌てる。
別に茜君のせいってわけじゃないし、俺に怪我は無かったし。
「…もう俺と一緒にいるの、嫌になった…?」
哀しそうにそう聞いてくる茜君に勢いよく首を横に振る。
「そんなこと絶対に無いよ!茜君こそ俺のこと嫌になったんじゃない?」
弱くて簡単に捕まっちゃって、と言うと今度は茜君が勢いよく顔をあげる。
「俺がトモちゃんを嫌うなんてありえないよ!!」
二人して必死に否定する姿に、眼を見合わせて二人同時に小さく笑う。

「…ありがとね、トモちゃん、俺を嫌わないでくれて」
「茜君こそ」
お互いに笑いあって、俺はああ、いつもどおりに戻ったんだな、と実感する。
「…これからは、絶対に俺が守るから」
「え?」
感慨にふけっていたせいか、小さく何かつぶやいた茜君の言葉を聞き逃し、聞き返すが茜君は何でも無いよ、と言って笑う。

俺はあの一発で畑山さんがまたもや入院を余儀なくされ、俺を攫った実行犯の脇口達も病院送りにされて、『柏木茜のトモちゃんは逆鱗で決して触れるべからず』という噂が不良達の間に瞬く間に広がったことを知らなかった。




110115
(でもどうして茜君が来てくれた時あんなに安心したのかな…)
(本当に無事で良かった…トモちゃん、ごめんね…でもこれからは絶対に俺が守ってみせるからね)


茜視点で茜の心情は書くつもりなのであまり捕捉できませんね…
まあでもトモちゃんもじわじわ成長してるんですかね?