ストレスをあたえてはいけません | ナノ
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ストレスをあたえてはいけません いち


高校生になってしばらく経ちますが、俺は無事に生きています。
相変わらずどこに行くのも何をするのも茜君にひっつきぱなしの俺だけど、ようやく不良にも慣れて来た…ような気がする。
少なくとも同じクラスの不良なら同じ空間(教室ね)にいてもあんまりビビらなくなったし、なんとあの真淵さんにはおはようの挨拶が出来るようになったのだ!
そりゃまだ茜君の影に隠れながらの挨拶だけどさ…
でもそれでも入学当初の超チキンな俺に比べたら大きな進歩だよ!
多分今の俺は普通にチキンな程度には成長したんじゃないかな!

と、まあそんな感じに皆そろそろ新しい高校生活にも慣れてきたかな、というある日にそれは起こった。
その日も俺は登校するなり茜君の傍にひっつくようにして授業を受けていた。

◇◇◇◇
4時間目の授業の準備をしている休憩時間にブー、という振動音が聞こえて来た。
音の方を見ると隣の茜君で、携帯を持ってちょっと眉を顰めていた。
「ん、トモちゃんどしたの?」
俺の視線に気付いたのか、にこっと笑ってこっちを見る茜君は鳴り続ける携帯をそのまま無視するかのように俺に話しかけて来た。
俺は未だ振動し続ける携帯に視線を落として口を開く。
「あ、あの…電話、出なくて良いの?」

おそるおそる聞くと、茜君はちょっと困った顔をしてんー、と言う。
「ずっとなってるし…急ぎの用事、なんじゃ…?」
「んーでもねぇ…トモちゃん一人にしたくないしねぇ」
「お、俺なら大丈夫だよ、あとちょっとで授業始まるし…」
いつもお世話になってるんだからちょっとは大丈夫だってとこ見せないとね、と俺は茜君に一生懸命アピールする。
「大事な用事かもしれないし、出た方がいいよ」
「ん〜…じゃあすぐ戻るから、ちょっとだけごめんね」
茜君はしばらく悩んでから、俺にそう言って席を立つ。

そのまま教室を出ていく茜君を見送って俺は時計を確認した。
よし、あと2分で授業になるな。
2分くらいなら存在感を薄めていれば大丈夫!
俺は前回の復習をしようとノートを見直して過ごすことにした。

◇◇◇◇
え……?今、何と?
授業開始のチャイムから3分、中々来ない先生に不安になりながらも必死に存在感を消して耐えていた俺に、不幸なお知らせ。
「きょ、今日は担当の先生が休まれたため、この時間は自習です、く、くれぐれも校外に出て行ったり他のクラスに乱入したりしないように!」
言い逃げのようにそれだけ言うとさっと去って行く教師。

え、自習?
しかも監督の教師も無しで?
ちら、と横の席を見るが話が長引いているのかまだ茜君は帰ってきていない。
よし、今の状況を確認しよう。
クラスは(というか学校は)不良が一杯の不良パラダイス。
俺はチキンで学年一(むしろ学校一)弱い生徒。
いつも一緒の頼れる茜君は外出中。

……うん、これ、ヤバい状況じゃないか?
抜群のカモがネギも鍋もしょって飢えた野犬の中にいるみたいなもんじゃね?
いつもなら俺に何かと構ってくれる茜君も今はいないし、狙い時だよね?自分の考えにたら、と冷汗が滲んで来た時。
「…おい、川島」

びっくー!!
なななななに今の低い声ええええ!!
よ、よこ、横から聞こえたよねええええ!?
「川島」
あううううう俺の名字いいいいいい!!!
ひと、人違いとか…
「川島智広!」
ありませんよねえええええええ!!!
すいませんすいませんからそんな呼ばないでほんと泣いちゃうから!!

「川島智広、聞きたいことがある」
ぎ、ぎ、ぎ、と向きたくないと訴える首をなんとか無理やりに動かしぎこちなく声の方を見る。
そこにはずっら〜とクラス中の不良が勢揃い。
ちょちょちょちょっとなんでそんな一致団結してるのおおおお!!?
いっつも個人プレーじゃん!!

「いいな?」
「はひ…」
そんなに一杯の不良で、しかも低い声で言われて俺が拒否なんて出来るわけないでしょおおおおお!!?
ほんとお願いだから皆でこっち見ないで!!
泣いちゃうから!!
ひ〜ん誰か助けてえええええええええ!!

◇◇◇◇
「ほんとに柏木さんとは高校に入ってから知り合ったんだな」
「ほ、ほんとです…」
何この状況おおおお!!
教室の真ん中、ぽつんと椅子を置かれて俺はそこに座らされた。
その周囲を取り囲むようにして椅子や机に座る不良たち。

怖いよおおおおおおおおおお!!!!
何この吊るしあげみたいな雰囲気いいいいいい!!!
もう俺の心臓ドキドキだからね!?
涙腺決壊寸前だからねっ!?

「んじゃ実は幼馴染説も消えたか…」
「やっぱ夜の方なんじゃねえの?」「この面でかぁ?」
「だからぁその分あっちが…」
ざわざわ話しだす不良たち。
うわああああんやっぱ慣れてないよおおおお!!
超チキンなままだよおおおお!!!

「な、川島智広!お前柏木さんと寝てんだろ?」
いきなり一人から声をかけられてびくっとする。
ていうか、え?何て?
聞き取れなかった俺にいら立ったのか、不良が声を荒げて詰問してくる。
「だーかーら!!夜の遊び相手だろっつってんの!!!」
「ひっ」
そそそそそんな凄まなくたっていいじゃないかああああ!!!
あわわわわわびっくりしすぎて声が、声が出ないよおおおおおお!!

「何とか言えよ!!そうなんだろうが!!」
黙ったままの俺に焦れたのか一人がガアン、と机を蹴っ飛ばす。
「っ!」
あ、駄目です。
チキンな俺のハートも涙腺も限界です。
じわああああっと視界が滲み始める。

「え、おい、おま…」
黙りこくってうつむいた俺の様子がおかしいことに気付いたのか、一人が何か声をかけようとした時。
「ごめんねトモちゃん!遅くなっ…」
ガラッと勢いよく扉のあく音と、申し訳なさそうな茜君の声が聞こえて、途中で途切れる。
俺はおそるおそる顔をあげて声の方を見る。

教室中が凍りついたように静かになった中、ばっちりと茜君と眼が合う。
あ、茜君驚いてる。
茜君は眼があった瞬間僅かに眼をみはった後ゆっくりとこっちに向かって歩いてくる。
茜君の行く先にいた不良は道を開けるように慌てて移動して、まっすぐに茜君は俺の所まで来る。
椅子に座ったままの俺の視線に合わせるように茜君はしゃがみこんで口を開く。

「怖かった?ごめんねトモちゃん…」
じわ、と滲んだ涙をそっと両手の親指で拭って、眉を下げた茜君はそう言う。
「う、ううん…だ、だいじょぶだよ…」
確かにもう限界だったけどさすがにはっきり認めるのは恥ずかしくてそう言うが、それもお見通しなのか茜君は苦笑してそっか、とだけ言って俺の頬を撫でてくれた。
「んじゃ、トモちゃん、ちょっとだけ待っててね」
「え?」

ぱさ、と頭になにか被せられて、視界が真っ暗になる。
慌てて手に取ってみるとそれは茜君の上着で。
「トモちゃん、真淵とちょっと待っててくれる?俺はちょおおっとこいつらとお話があるから〜」
あ、あ、茜君?
な、なんだか眼が笑ってないみたいに見えるんですけど…?

「…すまん川島もう少しだけ待っててくれ…」
いつのまにか横に来た真淵さんが胃の辺りを手で押さえながら力なくそう言う。
「え、え?」
「今度こそすぐ帰ってくるからね〜、さ、行こっかぁ?」
なんだかちょっと怖い茜君と、真淵さん除くクラスメートは青い顔で茜君に連れられて行っちゃった。

え?一体さっきのはなんだったんだろう…
ぽかんと?で頭がいっぱいの俺の横で、真淵さんは「胃が…」と力なく呟いていた。




101206
(一体何が聞きたかったんだろ…?)
(お前らさぁ〜一回痛い眼見ないと分かんないのかなぁ?)
(ま、また俺が嫌味言われて後始末もしないといけないのか…)


真淵はいつも胃が痛い感じ(笑)
胃腸薬は常備してます