100000hit企画 後編 | ナノ
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あるしんにゅうせいのはる こうへん


イライラする。
原因は分かってる、聡と津崎だ。
「だからさ、ここが違うんだって」
「え?あ…そっか、ありがとう」
ぐしゃ、ともっていた教科書が歪む。
今日は自習になったので課題プリントを終わらせないといけないのだが、後ろから聞こえてくる声が俺の集中を妨げる。
いつもなら既に終わっていても良い時間なのに、まだ半分程度しか終わっていない。

あれからも聡とはなんだかんだと接触が減り、今ではほとんど一緒に行動しなくなっている。
俺の周りには岡田みたいな男子が大勢寄ってくるので中々聡に話しかけれないし、聡は聡で最近は津崎と一緒の所をよく見かける。
俺はそれを見るたびにイライラしてしまって、最近はずっと不機嫌なままだ。
何とかプリントを終わらせた俺の耳にまたも聞きたくもない津崎の声が聞こえてくる。
「倉田って科学苦手なんだな、放課後俺が教えてやるから図書館で勉強しようぜ」
「え、でも…」
「いいからいいから、な?決まり!」
「う、うん…ありがとう」

バキッと音を立ててシャーペンの芯が折れた。
くっそおおおおおおむしゃくしゃする!!!
無性に今津崎をぶちのめしたい!!!

◇◇◇◇
バシィィンッ!!
「一本!そこまでっ!!」
礼をしてから壁際に移動して防具を外す。
汗で髪が張り付いて不快感に眉が寄る。
「気合入ってんな〜加賀」
「…亀井」
同級生の亀井の声にタオルで汗を拭きながらそちらをちらっと見る。

「なんか最近鬼気迫る感じっての?気迫凄過ぎてお前超怖えぜ」
対戦相手ビビっちゃってるじゃん、とさっき面が綺麗に入った同級生を見て亀井は肩をすくめる。
確かに隅の方で何人か固まって話しているのが見える。
「殺気を感じるってお前の相手皆嫌がってんぜ、先輩もお前の背後に龍が見えるとか言って相手したがんねえし…お前さ、何かあったの?」「何?」
ぐい、と汗を拭き終えたので亀井に向き直るとあ〜、と亀井は微妙に言いにくそうに頭をかく。

「あのさ、確かに加賀もともと超強かったけどさ、なんか最近荒れてるっての?容赦ないからさ、皆心配してんぜ」
ほら、と視線を示された方へやれば先輩達がどことなく心配そうにこちらをちらちら見ている。
「剣道部のエースがそんな荒れてると気になんだろ、な、何かあったなら話してみろよ、アドバイスできるならしてやるし、話すだけでも楽になるしさ」
な、という亀井の声に、俺は確かに誰かに話すと楽になるかもしれない、と部活後に話す、と言って防具を片づけるために踵を返した。

◇◇◇◇
「お、おま、そ、それ…」
「大体聡も酷いと思わないか?今日の朝もサッサと俺を置いて学校に行くし…」
俺は今まで不満に思って来たことを亀井と主将にぶちまけていた。
部活を早めに切り上げて主将の部屋で話しているのだが、どうやら俺は思っていたよりも現状が不満だったらしい。
次々と口をついて出る不満を、主将と亀井は呆気にとられたような顔をして聞いていた。

「最近は津崎を見るだけでイライラするんだ、どうすればいいと思う?」
亀井と主将の顔を見るが、二人とも引きつった顔をしていた。
「亀井?」
「えっ!あ、いや、あ〜それは、ねぇ…主将」
「うっ!う〜む、それは、なぁ…亀井」
お互いちらちらと顔を見て何やら眼で会話をしている。
そういえば最近は満足に聡の顔を見ていないな、と思うと溜息が出た。

「か、加賀…う〜…と、とりあえず二人で話してみたらどうだ?同じ部屋なんだろ?」
「そ、そうだな、うん、一度そうしたほうがいいな」
うつむいて黙り込んだ俺に慌てたのか、亀井と主将がそう言ってくれる。
話…そうだな、一度してみた方がいいかもな。
それで俺の不満を言おう。
聡ならそれを聞いて直してくれるはずだ。
うん、そうだな、それが良い。
久しぶりに聡とゆっくり話したいしな。
「分かった。一度話してみるよ、今日はありがとうな、じゃ」
早速明日の放課後にでも聡と話そう、と俺は主将の部屋を後にした。

「…主将、加賀の奴、かんっぺきに倉田に惚れてますよね…」
「…う〜ん、加賀のアレは嫉妬だったのか…」
残された二人はあの恐ろしいまでの気迫を思い出してまだ見ぬ加賀の想い人、倉田と、その嫉妬の相手である津崎に同情した。

◇◇◇◇
今日の俺はいつもとは少し違う。
聡と津崎が話しているのを見てイラッとしたが、今日は聡と話をするのだ。
朝放課後に教室で待っていて欲しいと頼むと聡は了承してくれたし。
ふん、見ていろ津崎、そうやって聡と話していられるのも今の内だけだ!!

「あ〜加賀、ちょっと話があるから教員室まで来てくれ」
いつもより余程長く感じた一日がようやく終わり、やっと待ちかねていた放課後が来ると思った途端、担任の呼び出し。
なんでよりにもよって今日、とちっと軽く舌打ちして後ろを振り向く。
「聡、すぐ戻ってくるから待っててくれ」
「うん、分かった」
ざわざわと帰り始める生徒の中俺は急いで担任の所へ向かう。
くそ、くだらない話だったら即行帰ってやる!

結局担任の話とは今度の剣道部の他校との合同練習にはぜひ力を入れて取り組んでほしいという非常にどうでもいい話だった。
最後までだらだら話を聞くつもりは無かったので適当なところで用があるのでと言って切りあげさせた。
微妙にビビっているように見えたが、こんなくだらないことで呼び出したんだ。
ちょっとぐらい俺の機嫌が悪くなってもそれは仕方ないことだろう。

俺は急いで教室に向かうが、途中の廊下に津崎の姿があり、俺は露骨に嫌な顔をした。
「あ、加賀か、丁度良かった、あのさ、前から言おうと思ってたんだけど、お前倉田のことどう思ってるわけ?」
「お前に関係ないだろう」
声が低くなるのが分かる。
やっぱりこいつは気に入らない。
サッサと聡の所に行きたいのに、邪魔するように立つ津崎を睨みつける。

「あのさ〜お前、人気あるって自覚ある?倉田が岡田とかに睨まれてんの気付いてないわけ?」
「何?」
はあ、と溜息交じりに言われた言葉に思わず津崎の顔を見るが、冗談ではなさそうに見える。
「知ってるだろうけど、恋人なら良いんだよ、だけど違うんだろ?可哀相にだから倉田は嫉妬されちゃってさあ」
ま、一年だから親衛隊のルールもよく分かってない奴が多いんだろうけど、と津崎は言うが俺はそれどころじゃ無かった。
「俺はそれを可哀相に思ったから庇えるように一緒にいたの、ま、倉田俺の従兄弟に似てて俺も楽しかったし。で、お前は俺に理不尽な嫉妬ばっかしてたけど、ちゃんと岡田とかに言ったのか?」
「なに、を…」

なんとか掠れた声でそれだけ言うと津崎ははぁ!?と驚いた顔をする。
「まさかお前、無自覚…!?あ〜!!くそっめんどくっせ〜!!」
がしがしと頭をかきむしった後、津崎は俺を見て口を開く。
「あのさ、お前がキスするなら誰にしたい?それ以上もする相手」
津崎の言葉を訝しく思いながらも想像してみる。
俺がキスしたい相手。
柔らかそうな唇の、相手は……っ!!!?

自分の想像した相手にうろたえてしまう。
顔が熱い。嘘だろ、だって、そんな、聡…!?
「やっと自覚したのかよ、は〜…ま、とにかくくっつくならサッサとくっついてくれる?さすがに俺も連日殺気をおくられるのは勘弁」
それだけ言うと津崎は固まる俺を置いてじゃあなと去って行ってしまう。

お、俺は、聡のことが、れ、恋愛感情で好きだったのか?
い、嫌確かに聡は可愛いけども!
ちょっとはにかんだみたいに笑う顔とか思わずキスしたくなるくらい…っ!?
ううう考えれば考えるほどなんだか納得できる…!
津崎へのあれは、嫉妬ってやつだったのか…。
ハッ、いやいや待て、ほんとにそうなのか!?
聡を抱けるのか?よく考えろ?

………うん、抱ける。
というか今俺何を想像した?
さ、聡のあんな格好…っ!!な、なんてことを俺は…!!
いやいやでも実際聡って色が白めだし、肌も滑らかそうって言うか…風呂上がりの上気した姿にドキッとすることも結構頻繁に…ってだから!!
ま、マジで俺聡が好きなのか…!!

初めて気付いた自分の気持ちに、いやでも…と悶々としながら歩いているといつの間にか教室に着いてしまっていた。
俺は何気なく教室の中へ視線をやって衝撃を受けた。

聡が俺の机を優しく撫でて、微かに優しく笑っていた。
愛おしそうなその手に、眼差しに、視線が釘付けになる。

ああ、好きだ。
すとんと落ちるようにして答えが出てくる。
考える必要なんて無かった。
こんなに胸が熱くなるのは、聡だけ。
聡だから、傍にいてほしい。

俺は気付けば衝動のまま教室に入り、いきなりの俺の登場に驚く聡を抱きしめて告白していた。
「好きだ、聡」
「え、あ、篤?」
腕の中で困惑した声を出す聡が、めちゃくちゃ愛しい。
「好きだ、聡、めちゃくちゃ好きだ」
ぎゅうううっと抱きしめて何度も好きだと繰り返す。
口に出したら止まらない。

「あ、篤…」
もぞ、と腕の中で身じろぎする聡に少し腕を緩める。
聡はどう思ってるんだろう。
少なくとも嫌われてはいない、と思いたいが…不安に思いながらも顔を覗き込むようにして窺う。
「あ、篤…は、離して…」
恥ずかしいのか真っ赤になって俺の身体を押す聡。

俺はぷつん、と理性が呆気なく切れたのを感じた。
「あつ…っんん…!」
可愛い可愛い可愛い!!
逃げる舌を追いかけて絡め合う。
苦しいのかぎゅうっと俺の胸元を握り締める聡にぞくぞくする。
「…っは、聡…好きだ…付き合って欲しい」

先にキスしてしまったけど、聡が可愛すぎるのがいけない。
俺はちゅ、と口の端についた銀色の糸を舐めとってから至近距離で聡の顔を覗き込んだまま告げる。
とろんとした顔の聡に、また熱が上がるのが分かる。
「…付き合う、よな…?」
「…ん…」
ぽおっとしたまま小さく頷く聡に胸が一杯になる。

「聡…好きだ…」
「ん…ふ、んん…」
もう一度強く抱きしめて、キス。
俺は腕の中にしっくりと収まる身体に、久しぶりに心から満ち足りた気分を感じていた。

◇◇◇◇
バシィィン!!
「一本!!そこまでっ!!ではこれより10分間の休憩!」
礼を終え防具を外し、壁際に移動する。
「よ、加賀、絶好調みたいだな」
「亀井」
声をかけてきた亀井に俺は向き直る。
「良いところを見せたいからな」
すい、と視線を巡らせこちらにタオルを持って近付いてくる聡を見る。
既に剣道部の皆は周知の仲だと言うのに、まだ恥ずかしいのかおずおずした様子に頬が緩む。

「聡」
「あ、篤、ちょっと…!」
ようやく手の届く距離になると俺は一気に腰を引き寄せる。
慌てる聡は可愛いが、他の部員も恋人といちゃついているのだ。
俺だって聡とくっついていたい。
「あ〜あ〜御馳走様」
亀井は呆れたようにそう言うと去って行く。
聡は真っ赤になって俺の腕の中で戸惑っている。

「聡、こっち向いて」
「え、あつ…っ!」
くい、と顎を持ち上げて軽く唇を合わす。
真っ赤になって固まる聡に誰も見てない、と言ってやる。
聡は恥ずかしいからやめてくれ、と言うが、可愛すぎるのだから仕方ない。
あれから俺は聡と付き合うことになったことをクラスで宣言した。
聡は真っ赤になって慌てていたが、変な虫がつかないようにも知らせておく必要があるからな。
岡田には告白されたけど、聡がいるからと断った。
今では岡田は聡と良い友達になっている……少し岡田に妬けるのは秘密だ。
津崎は……相変わらずむかつく。
俺の聡になれなれしくしやがって…あいつはいつかぶちのめしてやろうと思っている。

俺は以前と同じように、いや、前よりももっと聡と一緒にいる様になって、生活に張りが出て来た。
剣道も聡が応援してくれれば頑張れるし、やる気も出る。
俺にとって聡はなくてはならない存在なんだ。
だから。

「聡、好きだ」
「っ……ぉ、れも、…っサッサと練習しろ、ばかっ」
まだ恥ずかしいのか、中々聡からは言ってくれないけれど。
俺の言葉に、きちんと応えてくれる腕の中の愛しい存在に、俺は心からの言葉を、送り続ける。




101209
(な、今夜…いいか?)
(っ!!ばか!!)
(ていうか今度は生き生きしすぎて鬼のように強いんですけど…)


どうでしたでしょうか
篤はちょっと成長できたでしょうか…?
聡は篤より先に自分の気持ちに気付いてましたが自信ないので離れようとしてました
また機会があれば聡視点でも書いてみたいですね
それでは本当に100000hitありがとうございました!!
これからも拙い文章ですがよろしくお願いします!!