「トモちゃん、おかず交換し合お?」
「う、うん」
茜君の言葉に茜君の手元にあるお弁当をみると…
うっ!!ななななんて美味しそうなっ!!
容れ物も高級そうだし、絶対高いよ!!
うわっ、あの唐揚げ美味しそう…
「どれが良い?」
にこにこ俺を見ていた茜君の言葉にハッとする。
まて、俺。
あんな高くて美味しそうな唐揚げと俺の普通のおかずで釣り合いが取れる物があるか?
やはりここは無難に漬物でも…しかし、唐揚げ…うううっ
「はいっ」
必死に唐揚げへの誘惑と戦う俺の目の前に、誘惑の源の唐揚げが。
「…え……?」
きょとん、と茜君を見上げるとにっこり笑う顔が。
「トモちゃん、ほら、あ〜んして?」
うっ!イケメンスマイルが眩しいっ!!
しかもこんな美味しそうな唐揚げが目の前にっ!!
あああっもう駄目だっ!!食べたい!!
俺はぱく、と茜君が差し出してくれたそれに食いついてしまった。
「美味しい〜!!」
思った通りジューシーかつ柔らかい唐揚げに顔が緩む。
だらしない顔?仕方ないじゃん美味しいんだから!!
「可愛い〜!!トモちゃん可愛い!!」
茜君の声にハッと我に返る。
そ、そうだ俺も何か差し出さねば…!!
「あ、茜君、どれでも好きなのとっていいよ!」
あの唐揚げに匹敵するおかずがあるとは思えないが、仕方ない。
何やら嬉しそうな茜君は俺の弁当を見てにこっと笑って口を開いた。
「じゃあ卵焼きがいいなっ食べさせて〜」
「卵焼きだね、はいっ」
箸でつまんだそれを茜君の口元に差し出すと満面の笑みで茜君はそれをぱく、と食べた。
もぐもぐ食べる茜君の反応が気になってじっと見てしまう。
そんな俺に気付いたのか、茜君はそれこそもう女の子が見たら気絶しちゃうんじゃないかってくらい甘い笑顔で「美味しいよ」と言ってくれる。
「あ、ありがと…」
て、照れる!!
何あの笑顔っ!!男の俺でもドキドキしちゃったよ!?
恐るべしイケメンスマイル…!!
それ以降ずっと甘い雰囲気のままにこにこ俺を見ている茜君に俺は照れまくってしまい、俯くようにして弁当を口に運んだ。
◇◇◇◇
「美味しかった〜ごちそうさま」
「ごちそうさまです…」
なんか恥ずかしさのあまり正直あんまり味なんて分からなかったが、とにかくお昼は食べ終えた。
さあ後はサッサと帰ろう、と茜君に言おうと思ったんだけど。
「あ、あの、あk…っげほ!げほっげほっ!」
ぶわ、と漂ってきた煙にむせてしまう。
「トモちゃんだいじょぶ!?どしたの?」
いきなり咳き込みだした俺を心配そうに茜君は覗き込んでお茶を差し出してくれる。
俺はありがたくそれを飲ませてもらってから口を開く。
「けほっ…ありがと、俺、煙草の煙、凄い苦手で…こうやってすぐ咳が出ちゃうんだ。それに煙草の臭いも嫌いで…」
そう、実は俺、すっごく煙草苦手なんだ。
実はここにきてからうっすら漂ってた煙草の臭いに、嫌な予感はしてたんだ。
しかもこんなふうにせき込んだりしたら不良に目をつけられるかもしれないだろっ!?
だからこうなる前に帰りたかったんだけど…
背中を優しくさすってくれる茜君にそう言うと、茜君は一瞬目を見開いてからすぐに俺を連れて立ち上がった。
「ごめんねっ!!しんどい?保健室行こ!!」
「え…?いや、もうだいじょ…わあっ!?」
ぐい、と俺は一気に抱えあげられる。
いわゆるお姫様だっこというやつだ。
衝撃で固まった俺を茜君はそのまま抱えて走り出す。
や、やめてえええええええええ!!!!!
ふりょ、不良が見てるからああああああああ!!!
すんごい羞恥プレイだからああああああああああああ!!!
だ、誰か助けてえええええええええええ!!!
◇◇◇◇
俺の必死の思いもむなしく結局茜君は保健室につくまで俺を抱えたまま走り続けた。
不幸中の幸いなのは茜君の足が速かったため俺の顔を不良たちは細部まではっきりとは見ていないだろうことだ。
精神的打撃でぐったりする俺に茜君は大人しくベッドで寝るように言いつけ、窓際で携帯で電話し始めた。
「そう…だから教室の方も対策しといて…うん、全員に通達して」
なにやら深刻そうに話しこんでいた茜君はそう言うと通話を終え俺のいるベッドへ向かってくる。
「ごめんねトモちゃん!そうだよね、可愛いトモちゃんには煙草なんて似合わないよね…」
しゅん、という音がぴったりの様子で茜君は眉を下げて本当にすまなさそうにそう言うから、俺は慌ててしまう。
「あ、茜君は悪く無いよ!茜君が煙草を吸ってるわけじゃないんだし…」
俺がそう言うと茜君はよりしゅん、と落ち込んだ様子で「ごめんねトモちゃん…」と呟くように言う。
わわわわわ茜君どうしたんだろ?
もっと落ち込んじゃった!?
あ、茜君はそ、総長で不良だけど、俺の高校での初めての友達だし…何とか元気づけないと!!
で、でも何を言えば…?
あ、そうだ!御礼!
「そ、そうだ茜君、ここまで運んでくれてありがとうね、重かったでしょ?」
そう言うとようやく茜君が顔をあげてくれる。
「トモちゃんが重いわけ無いよ!むしろ細すぎて潰しちゃいそうだったよ!そうだ体調はっ!?寝てなきゃ!!」
ハッとしたように慌てて茜君は俺をベッドに寝かせようとするけど、もう咳も落ち着いたし、昼休みも終わるから教室に戻らないと。
「もう大丈夫だよ、それよりもう休憩終わるし、教室行こ?」
「でも…」
「もう煙草の煙も無いし大丈夫だから、ね?」
「…分かった、これからは俺がちゃあんと気をつけるからね!」
「う、うん?」
なんだか強い決意をにじませる声で茜君はそう言った。
結局5時間目ぎりぎりに教室に俺は戻った。
なぜか教室に消臭グッズがいきなり置かれていたり、不良の何人かは上着なしになっていたりしたが、俺は次の授業の準備に忙しく気が付いていなかった。
その日を持って「トモちゃんがいる空間では煙草禁止令(臭い等の染みついた衣服も教室内には持ち込み禁止)」が総長命令で出されたことを、智広は知らない。
101203
(なんか良い匂いがするなぁ…)
(トモちゃんの身体に悪いもんね、禁煙しなきゃ!)
未成年の喫煙はいけません
renoは煙草吸わないけど臭いも少々の煙も大丈夫ですが苦手な方多いですよね
マナーさえ守ってくれてたら私は気にしないですけど、愛煙家には最近少々逆風が吹いてますよね…