とてもナイーブないきものです | ナノ
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とてもナイーブないきものです いち


「おらぁ立てやこのクソがっ!!」
「あぁんやんのかてめぇ!?」
ど、どうして俺はこんなとこに来てしまったんだあぁ!
響き渡る怒号に飛び交う拳、俺は眼の前の光景に気が遠くなりながら過去を思い出していた。

◇◇◇◇
「…川島、残念なお知らせだ…」
「何ですか、先生…」
俺ー川島智広は入試当日高熱を出してしまうという不幸に見舞われ、志望校を受験できなかった。
それを知った担任が今からでも受けれる、かつ俺が通る高校を探してくれていたんだが、今日呼び出されたと思えば深刻な顔でこう言われた。
もう俺は高校生になれないのか、と涙目になった時、先生が続きを話しだした。
「まだ受けれる高校はあるにはあったんだが…」
「本当ですか!どこ、どこですかっ!?」
俺は高校に行かないと鬼になった母親に殺される、と分かっていたのでその言葉に勢いよく聞くが、先生は渋い顔。
「…荒田しか無かったんだ…」

「えっ」
その答えには俺も思わず固まってしまう。
荒田高校、通称荒高と言えば不良が多いとして有名でもある。
そこそこの学力は必要なのだが、他の高校に比べて校則が緩いせいかそこそこ勉強のできる不良は荒高に集まるのだ。
もちろん普通の生徒も通っているがまあクラスの3分の1は不良という学校だ。

ちなみに俺は容姿も頭も、もちろん運動神経だって普通のごく一般的な生徒だ。
固まる俺に先生は気の毒そうな視線を向けてくる。
「…どうする川島?一年我慢するか?」
その問いかけに今日学校に来る前に言われた母親の言葉を思い出す。
『智広、あなたどこでもいいから高校には通いなさいよ。もしどこにも行けないなんてなったら…家事全部やらせるわよ』
あの母親のことだ、絶対やらせるだろう。
荒高で不良とクラスメートになるか、母親に毎日こき使われるか。
軍配はすぐについた。

「…荒高、受験します…」
悲壮感を漂わせてそう呟く俺を哀れに思ったのか、担任は「普通の生徒もいるし、不良に近付きさえしなければ大丈夫だから!」と慰めにもならない言葉をくれた。
こうして俺は荒高を受験し、見事合格したのだった。

◇◇◇◇
そして今日、荒高は入学式の真っ最中のはずなのだがー。
「てめえぶっ飛ばしてやらぁっ!!」
「上等だかかってこいやあ!!」
ガシャンガタンとパイプ椅子が宙を飛びそこかしこで殴り合いのケンカが始まる。
周りを見てもほとんど不良、不良、不良!!

3分の1じゃなかったのかっ!?
明らかに今年異様に不良多いじゃねえかああああ!!?
普通な生徒なんて目につく範囲にいねえよおおおお!?
しかも先生達もビビってるしいいい!!!
言っとくけど俺チキンだからねっ!?
不良とか本当は見るのも怖いんだからねっ!?

「きっ君達おちつい…」
「ああぁ!?先公は黙ってろや!!」
「おまえらもぶっ飛ばすぞごらっ!!」
「ひっひいいいい!!」
注意しようとした先生にも不良は凄む。
生徒会の普通の人も怯えて隅に逃げちゃってるよっ!!
「ひ、避難んんんんん!!!一般の生徒、先生は今すぐ避難してくださいいいいいい!!!」
マイクを握った先生がそう叫んで我先にと逃げ出して行く。
俺ももちろんダッシュで逃げる。
不良はどんどんヒートアップしてるのかもう乱闘ばっかだよおおお!!!
不良怖えええええええええ!!!!!
チキンな俺はこれ以上は耐えられない、と夢中になって走って逃げた。

◇◇◇◇
「っはあ、はっ」
俺は式の行われてた体育館と校舎の間にある中庭みたいなところに逃げ込んでようやく足を止めた。
全力疾走したので苦しいが、やっとあの恐ろしい空間から逃げだせたことに安堵する。
「こ、怖かった…」
涙目になってるけど仕方ないだろっ!!
めっちゃ怖かったんだからな!!
チキンの中のチキンの俺には限界だったんだよおおおお!!

これからあの不良がクラスメートなのかと思うと気が遠くなる。
俺、パシリ決定?
いや、パシリならまだいい。
もしもサンドバック扱いなんてされたら…!!
「嫌だあああああ!!」
死んじゃう!俺、死んじゃう!!
悲壮な想像に涙目がさらに酷くなった俺の耳にその声はいきなり飛び込んできた。
「ん…誰?騒がしいなぁ…」
突然の知らない声に俺は固まる。
だ、だって不良だったらどうするんだっ!?
し、しかも寝てたみたいだし…もしかしてよくも起こしやがったなあごるぁ!!って感じに俺ぼこぼこ!?
い、嫌だあああああああ!!!!

ひいいいいいっとチキンな俺の涙腺が崩壊しそうになった時、その人物は俺の前に姿を現した。
「ん〜?あれ、君も新入生?こんなとこでどしたの?」
そいつは金髪を緩く波打たせ、不思議そうに俺に声をかけてきた。
他の不良とは段違いに格好良いその姿に、俺は一瞬さっきまでの恐怖を忘れて見惚れた。
片側に流した前髪に、ピンで後ろに流した髪をとめてるのか丸見えのピアスがいっぱいの耳。
緩くうねった金髪に着崩した制服が凄く似合ってる。
驚いたみたいに眼を見開いててもイケメンはカッコイイ。
長身だし、脚長!うわ、一歩で俺の眼の眼まで来ちゃったよ!

て、ん?眼の前?
「どしたのそんなに眼うるうるさせて、なんか怖いことでもあったの?」
しゃがんで俺の顔を覗き込み、首をかしげて優しく聞いてくるイケメンに俺はハッとしてさっきまでの恐怖を思い出す。「ぅ、ぅう〜」
「わわっ!泣かないで〜!ほら、もう大丈夫だよ〜」
この学校で初めて怖く無い人にあったからか、俺の涙腺はあっけなく崩壊してしまった。
いきなり泣き出したにも関わらずイケメンは俺を抱きしめるようにしてあやし始める。

うう、イケメン、イイ奴だな。
ほんのり香る香水の香りにようやく落ち着いてくる。
「落ち着いた?」
「ひっく…うん、ごめん…ありがと」
なんかおちついたらめちゃくちゃ恥ずかしくなって来た。
初対面の人に縋りついて泣くとか、俺なにしちゃってんのおお!?
しかも高校生にもなって!!
ヤバい恥ずかしすぎる!

恥ずかしさから身体を離そうと動かすと、イケメンは腕を離してくれたものの俺の横に座る。
なぜだ!?と困惑する俺に、イケメンはにっこり女子なら悲鳴をあげて喜びそうな甘い笑顔で自己紹介してくる。
「俺さぁ、柏木茜って言うの。新入生だよね?俺も新入生なんだぁ、だからさ、これから仲良くしてくんない?」
よろしくね、と言ってにこにこ俺を見てくるイケメンに、俺もようやく自己紹介をする。
「お、俺は川島智広…よ、よろしく…」

この出会いが俺の高校生活を大きく変えるものだと、その時の俺はまだ知らなかった。




101121
(い、イケメンも不良じゃ無いのかな…?)

新シリーズです
王道を書いていない気がしたので王道を目指してはいますが…脱線しそうな気もしますね…