子供心に抱いた | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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子供心に抱いた


「隊長!これが次のお茶会の参加希望者のリストです」
「ありがと、大山、これも追加」
「一年生のだろ?すごい人数だな…」
「当たり前だろ、火向様は素晴らしい方なんだからな」
俺の名前は前田洋一、火向千秋親衛隊の隊長をしている。
ぼんやりと書類を整理する一年生の姿を見ながら、自分の一年前のことを俺は思い出していた。

はっきり言ってあの頃は最悪だったと思う。
中学になってすぐ、まだ何も知らずに慕っていた友達が、自分のことを恋愛ー性的な対象として見ていたのだ、と知り、俺は捻くれてしまっていた。
放課後の教室で同級生が交わしていた会話。
「前田だったらヤれるかもな」「あ〜女みたいな顔だし?」
ぎゃはは、と下品な笑い声。
「しかも前田ん家、かなり上手くいってるから将来的には家柄ランクもあがりそうだろ?今のうちから仲良くしとけばおいおい…」
その日はショックを受けてしまったけど、段々怒りが湧いてきた。
そのつもりならこっちだって利用するだけ利用してやる。
この学園で上手くやって行くのに必要なのは美と名声、権力。
俺はその時からどうすれば上手く他人を利用していけるのか考えて行動するようになった。

高校に入る際もこれからと変わらないだろう、と思っていた。
ただ困ったこともあった。
中学生程度なら上手くあしらえてきたが、次は高校生。ガタイのいい上級生に力づくで来られたら、今の俺では抵抗できない。
俺は自分をそういう女の代わり、というような対象に見られることが嫌で、今まで誰とも寝たことが無かった。
仕方ないから誰かの親衛隊にでも入ってやり過ごすしかない、と思っていた俺の耳に飛び込んできた朗報。
あの火向の御曹司が来る。しかも、俺と同じBクラス。

チャンスだ、と思った。
家柄も魅力的だし、どうやら容姿もイイらしい。
彼の親衛隊に入れば、火向に近付けるし自分の身を守ることにも利用できる。
外部生だからすぐに男と、ってのは抵抗があるだろうし、いざとなれば誰かを身代わりにでもすればいい。
俺はそういう打算的な考えで火向千秋という人物に近づくことを決めた。

火向千秋と言う人物は、俺が今まで会ったことのないタイプの人だった。
初めて登校したその日に、暴力的な面を見せたかと思うと、友達、といって嬉しそうにする。
そして何より、俺をそういうー性的対象として見ることが一切無かった。
彼の眼は、常にただ一人、岡崎和希と言う平凡な少年に注がれていた。
あの眼に映してもらいたい、と思ったのが、最初。
俺は、彼に告白して、そして振られた。

多分、あれは恋と言うよりは憧れと少しの妬みだったんだと思う。
俺がいつかそうなりたいと思う、男らしい肉体を持つ彼に、憧れた。
そして岡崎という存在がいることを、妬んだ。
彼も俺と同じように周囲に騒がれる容姿をしていて、寄ってくるのは欲に塗れた奴らばっかりなのに。
彼には、岡崎が、いた。
俺には誰も、いてくれなかったのに。

まあそういう妬みもあって、二人の弱点を攻めたりしたんだけど、結果は想像通り。二人でいる時の表情を見て、ああ、やっぱり、と思った。
この二人には、本当の絆ってのがあるんだって。
俺はその二人を見て、今度は心から親衛隊を作ろう、と決意したんだ。
この二人の邪魔を誰にもさせないように。
人と、もう一度きちんと向き合おうって思わせてくれたお礼に。

ぼんやりしていたからか、反応に遅れた。
「…前田?」
「っ…何だ?大山」
訝しげにしながらも纏めたリストをほら、と渡してくる大山はそうだ、とポケットから何かを取り出し俺に渡す。
「…何だ、これ」
「見てわかるだろ、飴」
ころ、と手の中に転がるのは、はちみつレモンの飴。

「最近疲れてんだろ、だから甘いものでも食べとけ」
自分も食べながら再び書類に向き直った大山の言葉に、驚く。
自分でも気付かなかったが、そう言われると少し身体がだるい。
うつむいたまま書類に取り掛かっている大山をじっと見る。
そういえばこいつも俺をそういった対象として見たことが無いな、と思う。
隊長副隊長として一緒に行動することが多くなったが、そういえばいつも疲れたときには甘い物を大山がさりげなく用意してくれていた気がする。

案外長い睫毛に、こちらも意外にさわり心地よさそうな髪。
地味で平凡なのだが、まあまあじっくり見ると可愛い…っ!?
い、今、俺、何を考えた?
こ、この、この平凡が、か、か、か、かわい…!?
「……ってことだからさ、ここは…前田?聞いてるのか?」
ちら、とこちらを見る大山に俺は言葉に詰まる。
う、ちょっと上目づかいになってるとこがかわ…ってだから!!
「…前田?どうした?」
うわっ近づくんじゃない!!う、甘い匂いが…っておい!!!
こ、こ、こ、こんな平凡、か、かわ、可愛くなんて…っ!

「…前田?だいじょ…」
首を少し傾げた大山を見た瞬間、俺は立ち上がった。
びっくりして俺を見る大山に、俺は意味不明なことを口走ってしまった。
「っ違うからな大山っ!!!これは違うからなっ!!!!」
ぽかん、と俺を見上げる大山にこれ以上一緒にいるとよくわからないが駄目だ、と思い先に帰る、とだけ言って寮へ急ぐ。
なんだか顔が熱く感じるのは気のせいだっ!
心臓が煩いのは急いでいるせいっ!!
大山がか、か、可愛く思ったなんて、気のせいに決まってるっ!!

俺は心の中でそう言いながら手の中の飴を握り締めた。




101108
(あ、あ、あんな平凡っ!か、か、可愛くなんてッ…!!)
(なんか顔赤かったような…風邪か?)

はい、前田君の相手はまさかの大山君という(笑)
前田君にもイイ人を、と言っていただけたので良かったです
頑張って前田君も幸せにしてあげたいです