ときどきあまえんぼうになります 2 | ナノ
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ときどきあまえんぼうになります に


「おはようございます、火向様」
にこっと笑って前田君は俺達の前に立った。
俺としては一応好きだった人を奪ってしまったことになるので、少々居心地が悪い。
千秋も振った手前顔を合わせづらいのか、おはよう、といった後気まずげに視線を逸らしている。

「今日はご報告があるんです」
にこっとそんな俺達に笑いかけ、前田君は俺達の前に書類を一枚差し出す。
「…火向千秋親衛隊?」
どん、と書かれたその名称に、俺は思わず声に出してしまう。
千秋も不思議に思ったのか、俺の後ろから乗り出すようにしてその書類に目を落とす。
「はい、先日生徒会に正式な申請許可を貰いましたので、後は火向様の許可のみです」
一番下のサイン欄を示し、前田君は書類を机の上に置く。

「ええと…よく分からないんだけど…」
「あ、言ってなかったか?ここ、親衛隊は公認なんだよ」
大山がそういや外部生だもんな、と説明してくれる。
「問題起こるとヤバいだろ?だから生徒会に申請して仮許可貰って、所属してる隊員が一定期間問題を起こさず活動出来たら本人に許可貰えたら正式に発足するんだ。だから親衛隊が出来るまでは過激なファンもいてヤバいけど、一旦出来たら後は安心」
「規則はきっちりしてますし、規則違反は厳罰です。所属していない人が親衛隊持ちの方に対し迷惑行為を行った場合にも同様に厳罰ですから、大抵有名な方には親衛隊があります」

「んで前田はその親衛隊の隊長になる予定なんだ、生徒会側がこの生徒ならって指名制なんだけど、前田は選ばれたんだよ」
そういえばあの3年に絡まれてた時もそんなこと言ってたな。あれはこの話題だったんだ。
「先日の3年生の方は所属する申請をしていなかったので、僕の指導が及ばず…申し訳ありませんでした」
ぺこ、と頭を下げでも、と前田君は続ける。
「正式に発足した暁には、二度とこのような事態が起こらないよう徹底して指導します」
まっすぐに千秋を見て言う前田君は、固く決意しているようだった。

「…俺が許可した方が、和希のためにはいいか?」
千秋がそう言ったことにハッとする。
俺を心配してくれるのは嬉しいが、前田君にそれを普通聞くか!?
引きつった顔の俺と大山に前田君はちら、と視線を送ってから口を開く。
「もちろん安全につながります。親衛隊の規則では対象者に恋人がいる場合、その恋人も対象に含まれるんです」
さらっと口にする前田君に固まる俺と大山を尻目に、千秋はなら許可する、といってサインするために書類を持って自分の机に向かう。

どうするべきか微妙な反応になる俺と大山をはん、と前田君は鼻で笑う。
「言っとくけど安っぽい同情はいらないからね、僕は親衛隊隊長として当然の対応をしてるだけだから。あと、岡崎和希」
くる、と俺に向き直った前田君はじろ、と俺の顔を見た後また鼻で笑う。
「ふ、その地味面もま、見れないもんじゃないし、特に何も言わないよ。ただし、僕等は火向様が第一、君も火向様の幸せにつながるよう、精々頑張るんだよ、いいね」
地味面って…と俺がぽかんとしていると今度は大山に矛先が向く。
「それと大山、君は副隊長にしてあげるから君も火向様の幸せのために協力するんだよ」
「えっ!?なんだそれ!?ていうか俺所属申請してな…」
「僕がわざわざしておいたんだから感謝しなよね」
何か文句でも?という前田君に唖然とする大山。

「これでいいか?」
「あ、はい!火向様、隊員共々火向様の幸せのために頑張りますので、よろしくお願いしますね」
にこっと笑ってそう言う前田君。
「…なんていうか、前田っていい性格してるよな…」
遠い目で呟く大山に俺も同意する。特にあの告白劇以降、俺の中の前田君のイメージは良い意味で崩されっぱなしだ。

「和希、公認されたし、これでもう思う存分傍にいれるな」
嬉しそうに再び抱きついてくる千秋に、俺は苦笑する。
前田君は千秋の表情を見て満足そうに笑い、大山も呆れたように笑う。
ちょうど登校してきたFクラスの不良さん達も、笑顔で挨拶してくる。
普段と変わらない一日が始まった。

それ以降俺が千秋とそういう関係になったことは、速攻で知れ渡った。
千秋の行動も原因だが、親衛隊が俺と会うたびに「火向様を幸せにしてあげてください!」と人眼も気にせずに言ってくるためだ。
俺はこれは実は前田君のささやかな嫌がらせだと思うのだが…。
千秋は前にもましてべったりするようになったが、対人スキルはどうやら段々と正常になりつつあるようで一安心だ。
しかし俺には見過ごせない問題があった。

「和希、悪かった、もうしないから…」
「この前もそう言ったよな、で、その1週間後にはまたこれだ」
俺は機嫌を取ろうとしてくる千秋を気にせず歩き続ける。
「珍しいな、喧嘩?」
寮へ向かって帰っているのだが、隣の千秋が煩い。
大山は不思議そうに聞いてくる。
「理由はなんなんだよ、席のことならもうお前らはセット扱いだからな」
「…それはもう諦めたよ」
俺の席の近くに大山と前田君以外の人がなると、千秋が威嚇するため俺と千秋、大山と前田君は後ろの隅で固定となったのだ。

「それじゃあ何?」
不思議そうな大山に俺は言葉に詰まる。が、千秋が味方につけようと思ったのか口を開く。
「聞いてくれ大山、実は…」
さすがにそれ以上は、と俺が止めようとした時、新しく声がかけられる。
「火向様、どうしました?」
にっこり笑った前田君が大山の隣に並ぶ。
「あ、前田!前田も聞いてくれ、和希が酷いんだ」
「岡崎が何をしたんです?」
前田君という超有力な見方候補を得た千秋は、俺が止める前に口を開く。

「和希が毎日連続だと辛いし、次が休みでも回数を控えろって言うんだ、俺は今でも足らないぐらいなのに、これ以上我慢なんて出来ない」
その言葉に大山は盛大にむせ、前田君は眼を見張る。
こ、こ、こいつはっ…!!普通そんなこと人に言うかっ!?羞恥で死にそうだっ!!
俺が羞恥に震えながらもきちんと叱ろうとした時、前田君の爆弾発言が聞こえた。
「それは岡崎が酷いですね、岡崎、火向様の思う存分させてさしあげろ」

え?なんですと?
「僕は親衛隊隊長として火向様の幸せを第一に考えている、恋人なら満足するまで抱きあうのは普通だろう?」
だから君は火向様の望むとおりにしてさしあげろ、という前田君。
「ち、ち、ちょっと待て!こいつの体力に付き合ってたら俺がもたないっ!」
「だったら体力をつけろ、毎日付き合っていればおのずと体力もつく」
ええええええ!?ちょっと前田君、千秋が本当にしそうだからそういうこと言うのやめてくんないかなあ!?

「ま、待てよ、ほら、め、メリハリもいいんじゃないか?ずっと単調ってのも、なあ?」
大山…!よくわからんがとにかくフォローしようという心意気だけは伝わるぞ!
お前だけが俺の見方だ…!
「それもそうか…じゃあ岡崎、平日は今のままでいいから、翌日が休日の場合には思う存分させてさしあげろ」
ええええええ!?なんでそうなる!?
「…分かった、じゃあ金曜日までは我慢する」
ちょっとおおお千秋!なにこれで解決みたいに言ってんの!?そしていつの間に手を繋いでるんだっ!?

「…が、頑張れ岡崎…」
フォロー失敗、むしろ現状より悪化しそうな結論になってしまった。
茫然とする俺と同情のまなざしを送る大山、満足そうな千秋と前田君。
そう、あれ以降親衛隊がもっと火向様にああしろこうしろ、とせっついてくるのも俺の頭を悩ます問題の一つだ。
しかも最近は千秋に入れ知恵しているようで、ますます厄介になっている。
その筆頭は言わずもがなの前田君だ。

「和希」
目を細めて優しく笑う千秋に、俺も自分の表情が和らぐのを感じる。
夜の事やらも含め、結局は幸せそうな千秋にほだされてしまう俺も大概駄目な奴だな、と思いながらも俺は指を絡めてきた千秋に応えるように、繋いだ手を握り返した。




101023
(絡めたこの手を、もう離さないから)
(…ちゃんと俺の世話しろよ、千秋)
(…!!もちろん、和希!)

これでひとまず本編は完結です
結構長くなりましたが、ここまでお付き合いくださり本当にありがとうございました!
この二人には書きたいと思う部分もまだありますのでこれからも番外編(?)という形で書いていきたいなぁとは思っているので、これからもよろしければお付き合いください