ときどきあまえんぼうになります | ナノ
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ときどきあまえんぼうになります いち


あの日から二日後の朝、俺は普段通り登校した。
「あ、おはよ、岡崎」
「おはよう」
席に着くと大山がにやにやと話しかけてくる。
「いや、仲直りしたみたいで良かったよ、むしろ前より仲良くなった?」
はあ?と横を見ると、とん、と首筋を指した大山がにや、と笑って小声で教えてくる。
「…ここ、痕ついてる。それ、キスマークだろ?」
ハッとして首筋を押さえる。
確かに身に覚えのある場所に、かああと顔が赤くなるのが分かる。

そんな俺ににやにや笑って絆創膏を差し出す大山は笑って続ける。
「いや、昨日岡崎も火向も学校来ないし、放課後様子見に行ったけど、火向が玄関先で追い返すしさあ」
ぺり、と貼り付ける俺をにやにや見る大山はそれに、と続ける。
「その火向がさ、なんての、雰囲気が違うんだよ。こうピンクみたいな?とにかくこれ以上はなく幸せそうなわけ」
千秋の奴〜!!どうせあのだらしない顔で対応したに違いない!
あれほど気をつけろって言い聞かせたのに!

まだ顔が赤いだろう俺を見て、大山は苦笑する。
「ま、幸せすぎて隠しきれないのは仕方ないって。もともと火向は岡崎にべったりだったし、あんまり変わらないだろ?」
「…甘いぞ大山、それならまだマシだ、今の俺の苦労はそんなもんじゃない」
はあ、と俺は昨日の千秋を思い出して溜息をつく。

結局千秋に思うさま貪られた俺は、当然のように翌日足腰が立たなかった。
ぐったりする俺に千秋が尽くすのは、まあ当然だと初めは気にしていなかった。
しかし俺が回復するにつれて、このままではいけないと思いなおした。
なにしろ千秋は俺を一歩でも歩かせたくないとでもいうかのように、どこへ行くのも抱き上げたがったのだ。トイレにまでついて来ようとした時にはさすがに怒ったが、懲りずに俺を構いたがる姿はまるで甲斐甲斐しくつがいの世話をする肉食獣にしか見えなかった。

とにかく俺は前回のことであまり千秋とくっつきすぎると危ないということを学んだのだ。この状態が学校でも続くとどうなるか…考えたくもない。
ちなみに例の3年生には不良さん達がきっちり一言言ってくれた、らしい。
手は出してなかった、と大山が言うので肉体的には無事なのだろうが、二度と近寄りません、申し訳ありませんでした、とぶるぶる震えまくった字で書かれた念書を持って来られた俺としては、一体何をしたのか気になるのだが、大山は青い顔で首を振るだけだった。
とりあえずあの3人は大丈夫でも、他にも同じような人が現れないとも限らない。
千秋とは距離を保つことが必要なのだ。

しかし千秋は離れていた反動もあるのか、俺から一秒でも離れたくないらしく、言いくるめるのが大変だった。
なんとか渋々了解したものの、あの様子では不安だ。
「千秋のファンに目をつけられるのは御免だからな、大山なら大丈夫だろうけど、誰かに言ったりしないでくれよ」
「今日は別々に登校したと思ったらそういう理由か、でもま、その点についてはもう心配無用だと思うぜ?」
やけに自信たっぷりなので理由を聞こうとした時、バン!と大きな音を立てて教室の前の扉が開いた。

思わず視線を送った俺は後悔した。
そこには俺と視線があった途端に、今までの仏頂面を緩ませ、だらしない顔に変化させた千秋がいた。
チワワ系の男子がその表情を見て頬を真っ赤に染めているが、千秋はまっすぐこちらに近づいてくる。

「…こりゃ、凄いわ…今までも岡崎といる時は表情が違ったけど、これは…」
見てる方が照れる、と大山も若干顔を赤くしている。
ずんずんこちらにやってきた千秋は、何を思ったか椅子に座った俺を抱きしめてきた。
「おはよう、和希」
身長のある千秋は上から覆いかぶさるようにして抱きしめてきている。そのまま顔を近づけて来ようとしたので慌てて手で顔を押さえる。
「おはよう千秋、朝の挨拶は済んだからどけっ!」
「呼び出しくらってたから一緒に学校来れなかっただろ?その分の補給を…」
「玄関まで一緒だっただろっいいから離れろっ」

ぐいぐいと押し合いをする俺達に、呆れたように大山が声をかける。
「…おはよう火向、一応俺もいたんだけど岡崎しか目に入って無かったな」
「あ、おはよう大山」
今気付いたかのように千秋はそう言い、俺は力の緩んだその隙に思い切り押し、千秋の腕から逃れる。
千秋は残念そうな顔はしたものの、ようやく諦めたのか俺の後ろに椅子を持ってきて(椅子の持ち主のクラスメイトは千秋の一瞥を受け青い顔で立ち上がった)座り、俺の腰に腕を回すようにしている。
この格好も微妙なのだが、千秋が煩いのでこの程度は大目に見ることにする。

「…確かに大変そうだな、岡崎」
微妙に大山が同情を含んだ視線を送ってくる。
「…だろう…」
力無く返すと、千秋がむっとしたように俺の腰に回した腕に力を込める。
「…和希は俺のだからな、大山」
「はは、分かってるよ」
ついに大山まで威嚇する始末。このままでは確実に俺は眼をつけられる。
昨日あんなに言い含めたにも拘らず、べったりくっついてくる千秋にはもう溜息しか出ない。

そんな俺に救いの手を差し伸べてくれたのは、意外にも前田君だった。




101021

今回で最後となりますこのシリーズ、あと少しですが皆様お付き合いください