きちんとききかんりをしましょう 6 | ナノ
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


きちんとききかんりをしましょう ろく


「さってと、丸く収まったところで、帰りますか!」
大山がう〜んと伸びをしてそう言う。
「そうだな、俺はとりあえず病院の方に顔出しますし」
副リーダーさんが時計で時間を確認してそう言う。結構なんだかんだで時間がたっていたから、面会時間とか大丈夫だろうか。
「そうだね…行くよ、野蛮人。火向様、また学校でお待ちしてます」
後半のみ笑顔で言った前田君に不良君がつっかかる。
いつも通り変わらない光景。

「あ、前田!」
お茶の片づけをしてくれた前田君が最後に部屋を出ようとした時、千秋が呼びとめる。
「その、俺…」
言いにくそうにする千秋に、前田君はふ、と笑って口を開く。
「…返事ならわざわざ言われなくても、もう知ってるからいいです。ただ、僕は火向様をまだ好きってだけですから」
「…そうか…その、ありがとう」
じっと真剣に見つめて言う。前田君はそれには何も言わずに笑って部屋から出ていく。
そして部屋には俺と千秋の二人きりになった。

「…和希、話、していいか?」
「…うん」
この部屋に戻ってからの、初めての会話。
多分今夜を境に、今までの関係には戻れなくなる。
それでも、これは必要なことだと思うから、俺は頷いてソファに座った。

千秋は俺の隣に、距離を開けて座る。
さっきも開いていた、以前は無かった距離。
「…俺さ、今回前田に言われてから、真剣に向き合ったんだ。…和希のことについて」
前を見つめる千秋の眼に、もう迷いは見えない。

「刷り込みって言われたよな。まあ本当は生後早期の限られた期間になされるもので、正しくは違うんだろうけどさ」
はは、と小さく笑ってから、でも、と続ける。
「…でも、俺は刷り込みで正しい、と思った」
真剣な表情に戻って、静かに言葉は続く。
「多分和希が離れていったら、俺は今度こそ壊れると思う」
俺は耐えれなくなって口を開く。
「…でも、今回のことで分かったろ?俺以外にも、お前を受け入れてくれる人はたくさんいるんだ」
「そうだな。でも俺には和希が必要だよ」
静かに答える千秋にカッとする。

「必要?俺が最初に受け入れたから?だから安心感のために手放せないって!?」
「違う!」
強く遮られ、言葉が途切れる。
「…今回、何度も考えたよ。あの時手を差し伸べてくれたのが、和希以外ならどうだろうって。何度も、何度も。…多分、俺はその人にこうなっただろうと思う」
伏し目がちに続く言葉に、俺はやっぱり、という声を頭のどこかで聞いた。
初めに差し出されるなら、それが俺の手でなくてもよかった。
分かっていた事実に、俺は脱力したように千秋から眼を逸らす。

「…でも、実際に手を差し伸べてくれたのは、和希なんだ」
千秋の軽く握られた手が見える。ぎゅ、と力が込められるのが分かる。
「…誰でもよかったのかも知れないけど、してくれたのは和希だったんだ。他の誰でもなく、和希が、俺を救ってくれた」
別に俺は運命なんて信じてないけど、と続ける。
「俺のところにあの時来てくれたのが和希だったことが、運命ならいいと思う」

「和希、俺は和希のことが好きだ」

思わず顔をあげると、こちらを見ていた千秋と視線が絡む。
真剣な表情、瞳に滲む、決意の色。
この男は、誰?
知らない表情をした、この男は、本当に、今まで怯えて俺に縋りついていたひと?

言葉も出せずに見つめる俺に、さらに千秋は言葉を続ける。
「あいつらに襲われてるのを見たとき、頭が今までにないくらい真っ白になった。和希は俺のなのに、俺だけが触って良いのにって。和希に触れた手も脚もへし折って、二度と近づけないように壊してやるって」
和希が中学の時に、絶対殺しちゃだめだって言ってたから、我慢したけど、と呟く。
「俺のこの感情は、恋とかきれいな名前のものじゃ無いのかも知れない、でも」
強い瞳に引き込まれるように目が離せない。

「俺は和希が欲しい」

「この感情だけは、まぎれもなく確かだから」
言葉が一つも出て来ない。
こんなことは、予想してなかった。
こんな、男の表情をする千秋は、知らない。

「…和希は、どう思ってる?俺を」
教えてほしい、と千秋は俺を見つめる。
俺は、千秋を。

「…初めは、仕方ない、みたいな、感じだった…」
でかい図体なのに、臆病で、俺だけにしか縋りつけない、弱弱しい存在。
喧嘩は強くても、傍についていないと、壊れそうに脆くて。
「…でも、段々と過ごすうちに、放っておけなくなって…」
傍にいることが、当たり前になって。
でも、ある日、気付いてしまった。
「…でも、ほんとは、もう一人でも大丈夫ってことに、気付いた…」
もうあの脆さは感じない、一人でも生きていける強さ。
そして気付く。

「…大体、俺が最初に手を差し伸べたからで、誰でもよかったはずだって気付いて…怖さから、俺に逃げてるんだって…」
そのことにショックを受ける自分に、愕然とした。
だって俺は、いつの間にか。
「このままじゃいけない、って…ここに来る話も、受けた…」
大勢で寮生活をすれば、怖さも紛れていくだろうと。

「…離れる準備を、しようって…だって、俺、俺は…」
いつか俺では無い誰かの隣に立つ姿を見たく無くて、その前に離れようと思った。
まだ慕ってくれているときのままに。
だって、俺は。

「…俺は、千秋を、好きになってたから…」
喧嘩に巻き込まれて怪我したって、離れようと考えなかったのは。
ただ単純に、好きだったから。

「…和希」
そっと頬に触れられる。
教室の時と同じように、右手は後頭部に、左手は腰に回される。
ぐ、と頭を引き寄せられ、千秋の顔が近づく。
熱を孕んだ瞳に、俺が映りこむ。
自然に瞼を閉じる。

そっと触れる唇。
ゆっくり離れていく感触に、瞳を開ける。
至近距離に、千秋。
「…刷り込みは後天的行動としては例外的に、唯一修正も変更も不可能なんだ…だから俺は一生和希を離さないけど、いい?」
「…嫌だっていったら離してくれるのか?」
まさか、もう離さない、と囁かれた後、くすくすと笑いあう。

「…和希が全部欲しい」
全部頂戴、と言う千秋に答える代りに、今度は俺からキスをしてやる。
一瞬で離した唇を追いかけて再び千秋が口付けてくる。
俺はさっきまでとは異なる、猛獣のようなキスに目を閉じ、全身を千秋に委ねた。




101013
(君に出会えたことを、信じていない神にさえも感謝する)

祝!脱ヘタレ!!
今回は千秋の脱ヘタレを目指していたので、何とか達成できてよかったです(笑)
シリアス系長かったですね…次は甘甘を目指します
次回はR指定の予定…がんばれ千秋!脱ヘタレを見せてくれ!