新たな夜明け



母親と思われる死んだ彼女は妖気など欠片もなく、明らかに人間だ。赤子も半妖という感じがしない。

人間でありながら妖力を持つ赤子。

その不自然さに鯉伴は頭を悩ませた。
どうしたものかと頭を捻っていた所に、下僕の一人に声をかけられた。


「二代目、これが……」


渡されたのは、血が付いた封筒。
宛名はなく裏面には″黒須 蓮、ゆかり″と差出人が書かれていた。首を傾げながら開け、中の物を取り出す。


「何ですか、それ」
「さぁな」


入っていたのは二枚の手紙だった。
読んでいくうちに鯉伴の表情は険しくなっていく。やがて読み終わる頃には、瞳に鋭いものが含まれていた。


「お前ぇら帰るぞ。雪女、そいつ寄越せ。一緒に持って帰る」
「「「「………ええっ!?」」」」
「鯉伴っ!テメェは何考えてんだ!!」
「そうですぜっ。得体の知れねぇ奴なんざ危険だ」
「…赤ん坊にどんな力があるってんだ?それともお前ぇら、畏を知らねぇこのチビに負けるってぇのかい?」
「そ、そんなことは……」


言葉に詰まった彼らに一笑し、鯉伴は雪女から赤子を受け取った。
″影華″。紙に書かれていたその名は、赤子が生みの親からもらった最初で最後の贈り物となった。


「影華、今日から俺がお前の父親だ。帰って母さんと兄さんにも会わねぇと、なぁ?」
「鯉伴っ」
「……ここで会ったのも何かの縁だ。それとも首無。オメェ、親失った赤ん坊見殺しにするつもりか?」
「っ!」
「他の奴等もだ。こいつは俺の娘として育てる。責任は俺が取る!!」


そう宣言した彼の背は、百鬼を背負う者であり子を持つ父親の背だった。
泣き止んだ赤子は、まだ何も知らない真直ぐな瞳で鯉伴を見つめ手を伸ばしている。

長い夜がもうすぐ明ける。

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