時空の旅路へ
影華は枝下桜のしたにポツンと独りつったっていた。
半径10m程が陸地で、その先はひたすら水面が続いている。湖に浮く孤島のような場所だった。桜は悠然と咲き乱れていた。
真っ暗なはずが、桜だけはそれ自信が光を持っているように仄かに輝いていた。
「此処、どこ……」
混乱しつつも眉間に皺を寄せて呟く。刹那、風が吹き荒れ、視界を花弁が埋め尽くす。
「こんにちわ、影華」
「誰……」
「君をその世界に送った者だ。皇夜とでも呼んでくれ」
にこりと笑う青年、基、皇夜(コウヤ)。
「それにしても、大分無茶をしたね」
その言葉に今まで黙っていた影華は、罰が悪そうに顔をしかめた。
「今、君の体はあの刀の忌々しい毒に耐え、全力で治している。しかし、かなり時間がかかるのでね、“君”には少し旅行をしてもらう」
「は?」
パチンという音ともに、花弁が舞い上がった。そして、体にまとわりついて視界は塞がれる。
「君が今から行く所はこの世界の過去。何をしても良いが、あまり無茶はするな」
「まっーーー」
「また会う時にはお茶くらいしたいもんだ」
刹那、意識を失った。
その後、影華は過去の時代で長い年月を過ごすことになる。
陰陽術を学び、妖力の扱いを身に付け、日本全国を巡る。仲間ができ、組が設立される。
江戸を活動拠点に京に別荘に持ち、幾多の妖しを従える時空を越えた放浪記を紡ぐことになる。
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