壊された道
「あぁ、……あぁ………り、はん…さま………?」
刺した少女は髪を振り乱し、顔を両手で覆う。
「あああ、あああああああ!!いやっ…いや、鯉伴様ァアアアっ」
狂ったように泣き叫ぶ彼女を前に、鯉伴は悔しそうに顔を歪めて倒れる。致命傷ではないが、出血多量で意識が揺らぐ。
「ひぇっひぇっひぇっ、そうじゃ、悔やめ女!!自ら愛した男とその娘を刺したんじゃぞ!!!」
「ああああぁぁあああぁ」
「出来なかった偽りの子のふりをしてな!あっひゃっひゃっひゃぁぁ」
茂みから聞こえてきた声に、山吹乙女本人であることに鯉伴は気づく。
「そうじゃ、妾は“まちかねた”のじゃ」
「お姉ちゃん……誰?」
「リ、クオ………」
「なんじゃ、息子もおったか。……決して“子”が成せぬ呪いをかけたはずじゃが……」
「っ!!」
雰囲気の変わった彼女の言葉に、鯉伴は“中身”が誰か理解した。
朦朧とする意識の中、目の前で倒れている娘を見る。荒く息をし血は未だ止まらない。治癒の力で治してやりたいが、手がピクリとも動かない。
「そうかーーー。また人と交わりおったか………全く、どこまでも読めぬ血よ。ぬらりひょんの孫か………」
血のついた少女の手がリクオの頬に伸びる。
薄れゆく意識で、逃げろと叫ぼうとするが声にはならず、口から血が出た。
「しかし、決して狐の呪いは消えぬ。血は必ず絶えてもらう。憎きぬらりひょんの血……」
そこで鯉伴の意識は途絶える。
最後に愛娘の途切れ途切れの小さな声が聞こえた気がした。
「…とう、さ……」
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