契約



しばらく二人とも何も言わなかった。だが、彼は一つため息を吐いた。


『お前が何かしたくらいで壊れる世界など、その程度だったということだ。壊れたならば、お前自身で直せばいい。変えるとは、修正とはそういうことだろう?』


影華はまさに目からうろこ状態だ。そして、笑い出した。
じわりじわりと体中をめぐるこの熱いものは何だろうか。彼のいうことは至極正論である。何故今まで考えつかなかったのか、本当に不思議だ。
彼は突然笑い出した影華を怪訝そうに見ていた。


「本当にその通りだよ」
『では』
「私とともに来てくれないか?」


子供には似つかわしくない妖艶な微笑みを浮かべて彼女は言う。


『もちろん』


彼はチェシャ猫のように笑った。










妖怪との契約は名前を与え、主となるもの体の一部を共有することによって成立する。
共有している部分は“主”の支配下に置かれるが、よっぽどのことがなければその繋がりが切れることはない。これにより“主”の居場所が契約妖怪には常時わかるのだ。










「ただいまー」
「「「「「!!!!……お嬢!?」」」」」
「あー、はは……ごめんね?」


正面から帰還した影華を迎えたのは、多くの妖怪たちだった。みな一様にあわてていたことがわかる程よれよれになっていた。


「お嬢ーーーーっ!!!」

ドスッ

「ふぐっ」


雪女に走ってきた勢いそのままに抱きつかれた。支えきれずに体が傾く。
ああ、これは頭ぶつけるだろうなぁ。
遠い目をしていれば、思っていた衝撃はなく軽い衝撃ですんだ。少し疑問に思い上を見上げて、影華はビシリと固まった。


「お帰り影華」


とーーーーってもイイ笑顔で言ったお父様こと奴良鯉伴に、これは朝まで説教コースで決まりだな。さっきので気絶したかったと心底思った。


契約して冬槻という名をもらった彼は、主の様子に密かに猫の姿でため息を吐いた。だが、何よりも。
(良い家族ではないか)
彼女の腕の中でどこか満足げに彼は笑っていた。
その後、影華はこってりと鬼と化した鯉伴に怒られた。

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