双子の狐
9月23日、兄リクオの3才の誕生日である。朝から忙しそうな両親と共にリクオも一緒にいる。何でもお披露目らしい。
"らしい"と言ったが、さっきまで影華自身″お披露目″されていた。宴となり騒がしくなったのを見計らって抜け出してきたのだ。
「疲れた〜」
ごろんと桜の根元に寝転がり、息をつく。
幹部たちの不審な目が未だ瞼の裏にちらつく。あれは1才の今日みたいな日だった。
養子だからしょうがないとは分かっていても―――。
「あー、ヤダヤダ」
暗くなる思考打ち消し、めいっぱい息を吐いた。
「こんなとこでどうしたんじゃ?」
突然聞こえてきた声に、影華は目を開ける。桜の枝に白黒の二匹の狐がいた。
「きつね……?」
ポカンと見上げている影華を、白い狐くつくつと笑う。
「貴方たちは妖怪?」
「否、式神じゃ」
「懐かしい気がする…」
ポツリと溢した言葉に、彼等は瞠目した。
「影華ー?何処に行ったんだ」
遠くから聞こえてきた父鯉伴の声に、2匹は我にかえった。
「また会おうぞ、―――」
そう言葉を残して忽然と消えてしまった。最後に九本の尾が一振りされた。
ガサッ
背後で音がし、肩をびくつかせて振り向くとそこには鯉伴がいた。
「こんなとこにいたのか」
「お父さん」
その後影華は鯉伴に連れられて宴の席に戻ったのだった。
「お父さん、黒と白の狐のしきがみって知ってる?」「っ、知っちゃぁいるが…。突然どうした?」「さっきね、あそこのさくらのえだにいたの。でも、きえちゃった」「そうかい……」
白狐が最後に言った言葉はどういう意味だったのか。
「―――我が主」
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