第一章 平穏からの脱却



突然、手紙の嵐は終息したのだ。これにレイチェルは戸惑いの表情を見せた。


『どうした』
「俺の記憶じゃこの後、大量に手紙が降ってきて、離れた小島まで手紙から逃亡を計るんだ。ンで、日付が変わって誕生日になった瞬間、ハグリットが家を訪問してくる」
『それはそれで悲惨だな』
「だからどうにかして手紙を取っておこうと思ったんだよ」
『だが、突然手紙は来なくなったと』


深いため息を吐いて頷いた。
そして、7月31日。首をひねりながら迎えたレイチェルの11歳の誕生日だ。
ダーズリー一家からささやかなプレゼントが送られ、レイチェルはその日一日静かに過ごしていた。といっても、それは行動のことであり、思考はせわしなく働いていた。
実際、部屋に一人でいるときは狭い部屋の中を歩き回っていたし、エクリプスを撫でて―――彼本人は嫌がっていたが―――何とか落ち着こうとしていた。

レイチェルが危惧していたのは、マグルの家庭で育った子供のもとには一人教員が送られるということであった。

原作ではハグリットが“ハリー”の迎えであった。しかし、今この世界には“ハリー”が二人いるのだ。もちろん片方は偽物だが、当然、原作通り片方にはハグリットが行くであろうし、もう片方には誰かが送られるのであろうことが予測できる。だが、その杞憂も無用のものとなったのだった。

部屋でお小遣いを貯めて買った本を読んでいた時のことだった。家に訪問者があった。ダーズリー一家は幸か不幸か全員出払っており、家にはレイチェル一人だった。
呼び鈴が鳴り、玄関へと向かったレイチェル。微睡に身をゆだねていたエクリプスも目をさまし、あくびをしながらレイチェルについて行った。


「はぁい。どちらさんですかー」


玄関の扉を開けて視線をあげた先には―――。


「レイチェル・ポッターはおりますかな?」


彼の薬学教授が立っていたのだった。
回らない思考の中、レイチェルはハグリットが7月31日午前零時ちょうどに来ていたことに思い至ったのだった。


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