第一章 平穏からの脱却



翌日からはダーズリー一家はてんやわんやの大騒動だった。見知らぬ人からの手紙は日を追うごとに枚数を増やしていった。
バーノンおじさんは対抗するように家の郵便受けを釘づけにした。しかし、手紙は一向にやまない。

内心、彼らの慌てように笑い出したいのをこらえて、朝食づくりにいそしむ。隙間という隙間から入ってくる手紙におじさんはたいそうご立腹だった。

土曜にはもう手がつけられなくなった。二十四通のレイチェル宛の手紙が家の中に忍び込んできた。牛乳配達が、いったい何事だろうという顔つきで、卵を二ダース、居間の窓からペチュニアおばさんに手渡したが、その卵の一個一個に丸めた手紙が隠してあったのだ。部屋に戻ってきたレイチェルは笑い転げた。


「魔法って何かの手品?」
『……否定はしない』
「てか、これあの狸、絶対楽しんでるでしょ」


今度こそエクリプスは言葉を慎んだ。あり得ると思ったからだ。
バーノンおじさんは、誰かに文句を言わなければ気がすまず、郵便局と牛乳屋に怒りの電話をかけた。ペチュニアおばさんはミキサーで手紙を粉々にした。
おばさんの行動にまたも笑った。ミキサーとか。


「お前なんかと、こんなにめちゃくちゃ話したがっているのは、いったいだれなんだ?」
「それがわかれば苦労しないよ、ダドリー」


茶目っ気たっぷりにレイチェルは答えた。



日曜の朝、バーノンおじさんは疲れたやや青い顔で、しかし嬉しそうに朝食の席についた。


「日曜は郵便は休みだ」


新聞にママレードを塗りたくりながら、おじさんは嬉々としてみんなに言った。


「今日はいまいましい手紙なんぞ見なくていい」


その日はほんとに手紙を見なくて済んだ。


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