第一章 平穏からの脱却



キッチンに戻り、バーノンおじさんに請求書と絵葉書を渡し、椅子に座ってゆっくりと黄色の封筒を開き始めた。
バーノンは請求書の封筒をビリビリと開け、不機嫌にフンと鼻を鳴らし、次に絵葉書の裏を返して読んだ。


「マージが病気だよ。腐りかけの貝を食ったらしい……」


とペチュニアに伝えたそのとき、ダドリーが突然叫んだ。


「なあ、ギルバート!それなんだよ!」


レイチェルは、封筒と同じ厚手の羊皮紙に書かれた手紙をまさに広げるところだった。しかし、バーノンおじさんがそれをひったくった。


「何するんだ、おじさん!」


レイチェルは奪い返そうとした。原作通りの行動を。


「ギルバート、こりゃ何か悪い勧誘だ。見るもんじゃない」


とバーノンは眉を顰めて言い、片手でパラっと手紙を開いてちらりと目をやった。とたんに、おじの顔が交差点の信号よりすばやく赤から青に変わった。それだけではない。数秒後には、腐りかけた粥のような白っぽい灰色になった。


「ペ、ペ、ペチュニア!」


バーノンはあえぎながら言った。
ダドリーが手紙を奪って読もうとしたが、おじさんは手が届かないように高々と手紙を掲げていた。ペチュニアおばさんはいぶかしげに手紙を取り、最初の1行を読んだとたん喉に手をやり、窒息しそうな声を上げた。一瞬、気を失ってしまうかとも見えた。


「バーノン、どうしましょう……あなた!」


二人は顔を見合わせたまま、レイチェルやダドリーがそこにいることなど忘れてしまったかのようだった。ダドリーは無視されることに慣れていない。スメルティングズ杖で父親の頭をコツンとたたいた。


「ぼく、読みたいよ」


ダドリーがわめいた。レイチェルは膝の上でエクリプスがせせら笑っていることに気づいていた。静観しながらエクリプスの背をなでる。


「あっちへ行きなさい。二人ともだ」


バーノンおじさんは、手紙を封筒に押し込みながら、かすれて震えた声でそう言った。


「俺の手紙を返して」


レイチェルはその場を動かずに静かに言った。バーノンおじさんはわずかにひるんだようだった。


「ぼくが見るんだ!」


ダドリーが迫った。


「行けと言ったら行きなさい!」


たまりかねたようにペチュニアおばさんがヒステリックに叫んだ。バーノンおじさんは二人の襟首をつかんで部屋の外に放り出し、ピシャリとキッチンのドアを閉めてしまった。

 
「これぞ夫婦の共同作業」


ポツリとレイチェルのこぼした一言にエクリプスは呆れたように尻尾を振った。





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