第一章 平穏からの脱却



プリベット通りは少しも変わりがない。
太陽は昔と同じこぎれいな庭の向こうから昇り、ダーズリー家の玄関に掲げられた真鍮の「4」の数字を照らしている。その光が、這うように居間に射し込んでゆく。

あの頃とまったく居間は変わっていなかった。ただ暖炉の上の写真だけが、長い時間の経過を知らせる。体格の良い金髪の少年が黒髪の少年のような少女と仲良く笑顔で写っていた。

レイチェル・ギルバート・ポッターは十歳にしては落ち着いている雰囲気を除けば、いたって普通の少女に見える。しかし、周囲の人間が知らないだけであり、彼女は“普通”とはかけ離れていた。
それはとある事情から彼女を男として育ててきたダーズリー一家が一番知っていた。そして、彼らの知る限り、その力が彼らに猛威を振るったことはない。

しかし、摩訶不思議なことが起こることを一番恐れ、普通であることが一番だと思っている彼らは、まとも(常識的)な人間であることを自慢にしていた。そのため、彼らは彼女が外出することをあまりよく思っていない。

家の中で一番小さな寝室に太陽の光が差し込む。白いシーツの上に癖がついた長い髪の毛が散らばっていた。その持ち主は布団に隠れて見えない。
不意に布団がもぞりと動いた。


「……うみゅぅぅ…」


布団の中から何かの鳴き声がした。傍らにいた黒い塊が立ち上がり――黒猫だ――、それはおもむろに布団の中に入って行った。


「ぷはぁっ!!何すんのさ、エクリプス!!」


すぐに勢いよく布団が捲りあがり、憤慨した少女が黒猫に向かって小声で叫んだ。早朝だという事実は、きちんと頭にあったようだ。


『いつまでも起きないお前が悪い。さっさと着替えろ。煩いマグルどもが騒ぎ出すぞ』


黒猫は余裕綽綽とのたまう。少女はむっと顔を顰めながらも、黒猫に着ていた洋服をかぶせて着替え始めた。
エクリプス。それが、この黒猫につけられた名前である。
少女――レイチェルが赤子の頃から傍にいる、しゃべる黒猫だ。エクリプス-eclipse-とは“日食”を意味し、光を喰らうものとして彼女が名づけた。彼本人も気に入っているようで、特別文句を言われたことはない。




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