第三章 9と3/4番線からの旅



周囲の気温が一気に5℃下がったように空気が冷えた。
ガラッ―――。


「おい、どうした、ギルバート?」


そこで着替えを終えたリヒトとジャンクロードが出てきた。周囲には数人の野次馬が集まってきていた。


「あれ、マルフォイ坊ちゃんじゃねぇか。どしたー?」
「Mr.ドゥンケルハイト、Mr.フォスキーア……?」


のんきに顔を出した彼らにレイチェルは少し頭が冷えた。マルフォイは彼らとギルバートがともにいることに驚いたようだ。


「なんでもねぇよ」


リヒトに一言吐き捨てれば、彼は「ひでぇ」と笑った。レイチェルはマルフォイに視線を戻す。


「お前みたいに“後ろ盾”を自分の力だと思い込んでいる奴ほど弱ぇ。何よりそれを背負ってることを自覚せず、その格を落として泥を塗っている。………覚えていた方が良い。自分の考えもなく言われる儘に動く奴は、後ろ盾にとって“人形”も同然なんだよ」


最後に鼻で笑ってやれば、マルフォイは赤くなって青くなるを繰り返していた。ローブを翻してマルフォイを視界から外し、コンパートメントに入る。ギルバートがいなくなった場では、意味が分かった者と意味は分からずにマルフォイを馬鹿にする者の二通りに分かれていた。リヒトもジャンもギルバートを追ってコンパートメントに行ってしまい、一人残されたマルフォイは呆然とその場に立ち尽くした。

肘をついて窓の外を眺める。ジャンクロードはその傍らに座ると彼女の頭を何も言わずに撫でた。


「おとなげねぇ……」


ぽつりと呟いた言葉は汽笛に掻き消された。





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