第三章 9と3/4番線からの旅



髪を結っただけでずいぶんと印象が変わり、少女は少年に変貌していた。かなりのイケメンだ。


「それに、私がばれるようなへまをするわけがないだろう?今回のことはどこぞの馬鹿が礼を失したばかりに起こった“事故”だからな」
「す、すまない」


背もたれに肘をついてにこやかに黒いオーラを漂わす少女に、少年二人はピシリと固まる。今まで体験したことが無い様な威圧に冷や汗が背中を伝う。心なしか彼女の膝の上にいる黒猫も呆れたような視線を送っているのは、気のせいだと思いたい。


「まあ、それは別に良い。“俺”はギルバート。正式にはレイチェル・ギルバート・ポッター。ここで会ったのも何かの縁だ。宜しく頼むよ、二人とも」
「ああ。オレはリヒト・ドゥンケルハイトだ」
「ファーストネームがリヒトで、ファミリーがドゥンケルハイトとは。良い名前だ。ドイツ生まれか?」
「そう言われると照れくせぇな。だが、ありがとな」


灰色の瞳を細めて、頬を掻いたリヒト。その表情は年相応だ。
余談だが、リヒトはドイツ語で光、ドゥンケルハイトは闇である。


「生まれについてはその通りだ。よくわかったな」
「ドイツ語をかじったことがあったんだ。で、きみは?」
「僕はジャンクロード・フォスキーア。気軽にジャンと呼んでください」


軽く二人と握手して自己紹介を済ませる。


「とある事情で男の生活をしていると言っていましたが、君が“生き残った女の子”ですか?」
「さてな」


薄く笑ってレイチェルが惚けたところで、汽車は動き出した。釈然としないレイチェルに二人は少々不満げだ。


「そうそう。俺のことはよっぽどじゃない限りギルバートって呼べよ。女だって簡単にばれたくないからな」


くつくつと周囲にバラす時を思い浮かべて笑っているレイチェルに、二人は少し引き気味である。迂闊に喋れば命はないのだと悟った二人だった。



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