第二章 魔法学校と案内人



そろそろ二十本目をカウントしようかというとき、レイチェルは何か音を聞いた。オリバンダー翁の講釈を聞き流し、もう一度聞こうと集中した。

カタッ。



「(そうか、君が……。おいで―――)」


ヒュンッという音と共に、レイチェルの差し出された手に一本の杖が飛び込んできた。オリバンダー老人も教授も目を見開き瞬いた。

軽くしなやかに、空を切り裂く。
刹那、紅と白銀の火花が飛び散り、紫色の花びら、紅の花びら、薄桃色の花びらが舞い散る。そして、一瞬のうちに強風にあおられすべてがもとに戻った。


「これは…なんと、…なんということじゃ……素晴らしい……!!」


一番先に我に返ったのは翁だった。


「その杖は世にも珍しいものだ。稀代の杖職人が生涯の集大成として作った代物でな。この杖を作ったひと月後、彼は静かに息を引き取ったという。
人魚の涙と竜胆、桜、椿の朝露に一か月浸した柊を基に、芯には不死鳥の尾羽に九尾の狐の毛が使われておる。長さは三十センチ。気高いが故に嫉妬深く、すべての魔法魔術に向いておる最高峰の杖じゃ。

―――しかし、認めたもの以外には呪文を行使することはおろか、触れさせてももらえん。とても魔力が強く、非常に忠誠心が強い」
「物凄い曰くつきですねぇ、この子」


紫がかった黒い杖をなでながら皮肉気に彼女は笑った。


「今までほかの杖が逃げ出していたのは、この子が嫉妬していたからなんですね。で、我慢できなくて俺に呼びかけたか。呼んですぐに来るなんて、かわいい子だねぇ」


杖が震えた。くつくつと楽しげな表情は少なからず、セブルスに打撃を与えた。


「なんと、君にはこの杖のことがわかるのかね?」
「この子が教えてくれますから。オリバンダーさんこの子の値段は?」
「いや、貰ってくだされ。もともと、値段が付けられる代物ではなかったのでな。末長く使っていただければ」
「そうですか、ありがとうございます。教授、行きましょう」
「あ、ああ」


教授の腕をつかみ、扉へと向かっていく。


「最後に、お名前をお教えくだされんか」
「―――レイチェル。レイチェル・ギルバート・ポッター。私は私以外の何者でもないんだよ、Mr.オリバンダー」


ニコリと笑って彼女は外の喧騒へと紛れこんだのだった。
彼女の言葉の意味が分かったのかどうかは翁しか知らず。しかし、翁は彼、否、彼女こそが真の英雄ではないかと、不意に思い至るのだ。




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