第二章 魔法学校と案内人 しかし、あのトロッコ。なかなかに楽しかった。 「金貨はガリオン、銀貨がシックルで十七シックルが一ガリオン、一シックルは二十九クヌートだ。覚えておきたまえ」 無駄なことは一切言わないこの人が、あの本を読まなかった場合でも優秀なことは十二分に今までのことから分かるというものである。 「二枚目に必要なものリストがあるはずだ。私は薬問屋で必要なものを調達してくる。制服の採寸が終わったら、フローリッシュ・アンド・ブロッツ書店に来なさい」 「はい、わかりました。………教授、」 「なんだね?」 「制服は男物ですか?」 「…………」 結局、教授はマダムマルキンの洋装店―――普段着から式服まで、無言で歩いた。去っていく背中を見送りながら、レイチェルはクスクスと忍び笑った。 「どちらでもよいが、……女の子らしい格好も君には似合うと思う」 チラリと見えた彼の耳が赤かったのは、気のせいということにしよう。 洋装店に入ると、入り口から風が吹いたように凪いだ。店内の客や店員が新しく入ってきた客に目を奪われたのだ。マダム・マルキンと思われる藤色ずくめの服を着た、愛想のよい、ずんぐりした魔女にレイチェルは声をかけた。 「こんにちは、マダム」 「こんにちは、坊ちゃん。ホグワーツかしら?」 すぐさま立て直したのは流石といえよう。 「ええ。そのほかにも、私服を何着か見繕いたいのですが…」 少し困ったように眉根を寄せて、彼女を見上げる。 「心配することはないわ。全部ここで揃いますよ。……少しだけマケテあげるわ」 最後は小さな声でウィンクしてきた。それはよかったとレイチェルは満面の笑みを見せ、マダムの手を取りキスをした。 店の奥にある踏み台では少年少女がおり、空いてないことをみて取るとマダムに先に私服を見させていただきますと先手を打った。 青白い、あごのとがった少年と黒髪に緑の瞳、原作のハリーを少女にして髪を伸ばしたらあんな感じだろうなという少女だ。 そういえば、原作ではここでマルフォイとハリーは会っていたような気がする。 そう思い出すと、あれは間違いなくマルフォイ少年と自分のレプリカだろうと確信する。いくつか私服を見繕った時には少女は居らず、少年もいなくなっていた。採寸を済ませ、マダムに書店までの道を聞き外に出た。 なにはともあれ、“原作”が滞りなく進んでいるようだと、レイチェルはほくそ笑むのだった。 ← |