ふと空を見上げたら、そこにはただただ暗い空が広がるばかりだった。曇りだったせいか、暗くなるのがいつもより早い気がする。
気がつけばもう、こんなに真っ暗な空だ。星なんて全く見えない。黒の絵の具だけをキャンバスにぶちまけたような、そんな真っ暗闇だ。
見上げてるだけで吸い込まれそうで、急に怖くなって目を瞑る。それでもそこにもただただ暗闇が広がるのみだ。

気がつけば、ポツリポツリと、雨音が誰も居ない公園に響く。
慌てて公園の土管の中に入ると、ポツリポツリ、と響いていたそれは段々に頻度を増し、音も大きくなっていく。
気がつけば、目を凝らさないと見えない程に雨が降り出した。音も、ザーとかいう テレビの砂嵐のそれのようだ。

どうしようもなくって、ただただその土管の中で、膝を抱えた。ああ、私はこんなところで何をしているんだろう。
途端に不安で、仕方なくなってくる。
私はこんなところで、たった一人で、どうすればいいんだろう。
見上げればただただ真っ暗闇で、光も何一つも見えない。
こんなところで、馬鹿みたいだ。はやく家に帰ればいいのに。
だけども動き出す力も気力も起きない。だから、ただ呆然と真っ暗闇を見上げるのみだ。

もう一度、膝を抱える。
ゴウゴウと地面を打つ、次第に強くなっていく雨音。全てを覆い隠す 真っ暗闇。
全く動いてくれない、震えるばかりの身体に 「動け」と叩いてみたけども、それは微動だにしなかった。
ああ、私の身体はなんて頼りなく、こんなにもちっぽけなんだろうか。
一体、どうすればいいんだろう。
ちっぽけな私はただただ、そこで膝を抱えているばかりだ。


「なまえ!」


目の前が、一瞬だけ ふっと明るくなった気がした。
否、相変わらず雨はゴウゴウと降り続いて、空は真っ暗闇なそれだったのだけれども。
だけどそれでも、膝に押し付けた瞼の裏に、何か光が チリチリと焼きつくのを、確かに見たのだ。

顔をあげると、涙目で滲んでいるけれども 確かに目の前に見えた、一番に待っていた人がいる。
ああ、私の大好きな赤だ。


「何、してんだよ ばーか」

ああ、光だ。
雨音はゴウゴウと 暗闇は辺りを包んでいる。だけども、確かに目の前は光で満ちていくように見えた。

ブン太は、私の腕を引っ張り 私を立たせる。
不思議と先程までは全く動かなかった手足が 魔法にかかったかのように急に動き出した。するりするり、呪いが解けたみたいだ。
彼に触れられたところから、じんわりと温かい 優しい熱が広がっていく。


「ったく、こんなとこで」
「な、んで 分かったの。私が、ここにいたって」

声がまだ震える。
だけども、ブン太に握られている腕のところから、力が湧いてくるように思えた。
そんな私を見てブン太は、ニッというような表現が世界一似合うような、笑みを浮かべた。きっと10人居たら10人全員がずっと笑っていてほしい、と彼に思うようなそれだ。無論、私もその中の一人であるが。


「なまえ、昔っから落ち込んだらここにきてたろィ」
「…そんな昔のこと」
「覚えてるよ」

ゴウゴウと地を打つ雨音は、次第に聞こえなくなっていく。暗闇も、全て消えていく。
ただ目の前に広がるのは、


「なまえのことは、全部 俺が覚えてる」

目の前が、極彩色に染まっていくのが分かる。
先程まで私を包んでいた恐怖やら暗闇とかは、ブン太の魔法によって するすると消えていった。

そうだ。いつだって、ずっとここで待っていた。
彼に一番に見つけてもらいたくって、ずっとここで、彼を待っていたのだ。
彼に心配して欲しかっただけだ。なんて浅ましいのだろう。
それでも、そんな ずる賢い私を、ブン太は本気で心配してこうして一番に見つけてくれるから。
だから、本当のことを言うのは、まだもう少し先のことにしようか、なんて。
ずるいけれども、きっと彼なら笑い飛ばしてくれると思う。何となく、だけど。
今は言えない代わりに、震える声を振り絞って、少しだけの本音をのせた。


「ブン太」
「ん?」
「ずっと、ブン太 待ってたの」

私がそう言うと、彼は「ん」と少し照れ臭そうに笑いながら返してくれた。
彼は私を不安にさせた雨も暗闇も握りつぶしてしまって、震える私の手を取り 土管から外へ一気に駆け出す。

彼に引かれて外へ出て、 目の前に広がった世界を見ると、不思議とさっきまで降っていた雨も止んで、眩しいばかりの星空が広がっていた。
どうして。
だけども繋がれた手の先の彼を見て、考えるのもよそうと思った。きっと彼の魔法だ。
彼に握られた手に力を込めると、彼はもう一度笑った。

いつまでも一緒にいられますように。
昔と変わらない願いを、握られた手に込めて 走り出すと、雨もやんで 世界はキラキラと輝いていた。
振り返ると、二人だけの秘密の場所は 色褪せずにそこにいる。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -