いつものように、着信音が鳴り響く。
彼からの着信を知らせる、その曲は 昔より余計好きになった気がする。なんてことは死んでも口にすることは出来ないが。
携帯電話をとり通話ボタンを押すと、「遅いわ、アホ」と 少しご立腹な彼の声が電話越しに聞こえて、思わず笑ってしまった。耳が、くすぐったい。


「ごめんごめん、ペディキュア塗ってて」
『ペディキュア?あの、足の爪に塗るやつか』
「そー、ピンクのラメラメ」
『…あんまし派手なのは好かん、俺』
「別に蔵のためにやってるんじゃないし」
『酷いこと言うなーなまえちゃん。俺、傷ついて泣いてまうわー』

そう言って彼は鳴き声の真似をし。電話越しに、しくしく。お世辞にも上手いとは言えない泣き真似が聞こえてきた。ばーか、と笑えば、彼も笑う。やっぱり耳がくすぐったくて、頬がもっと緩んだ。

私と蔵が、こうして他愛もない会話を毎日のように電話をするようになって もう、一年が経とうとしている。
元々東京住みの私と 大阪住みの蔵ノ介が付き合って、それから奇数の日は彼が、偶数の日は私が電話 と、それを毎日繰り返している。
料金がかかり過ぎないように、毎日5分だけ ときっちり時間制限までこんなこと絶対に続かない だとか周りから散々言われたけれども、マメな彼につられて 元々あまりマメでない私でも続けられている。


『もうそろそろで、一年たちそうやな』
「あっ、それ 私も思ってた」

蔵ノ介が丁度私が考えていたことを口にしていたので、思わず嬉しくなってそう言った。
すると、彼は『以心伝心や…エクスタシーやな』とか言うので、相変わらずのそれに アホ、と呟いて。
暫し笑い合ってから、沈黙が訪れる。
沈黙なんかしている時間はないというのに。


『…めっちゃ会いたいんやけど なまえ』
「…わたし も」

会いたい、そう言ったところで叶うことなどないのに。
だけどそれでも言わざるを得なかった。
だからひたすらに目には見えない彼を 想う。

『ほんまに、大阪と東京の距離が憎らしくてたまらんわ』
「ふ。でも、さ」
『なん?』

でも。
電話越しの彼は 不思議そうに聞き返した。
それだけで、まぶたの裏に 彼の不思議そうに答えを待っている表情が浮かんだ。

「この距離がさ、蔵への想いを育ててくれてる気がするんだよね」

ただ、ひたすらに 見えない君を 想う。
この憎らしかった距離は、私達の想いを恋を、大きなそれへと育てていき。
憎らしい距離に救われている気もして、本当に残酷だとも感じた。
悔しい。だけどもどんなに悔しがっても、彼は目に見えないし、会えないだけで。(何も、変わらない)

『…俺だってな、いつも なまえのこと考えとるよ』
「うん」
『楽しいときも、悲しいときも、一番になまえを思い出すねん』
「う ん」

いつだって、一番に思い浮かぶのは彼で。
見えない彼に、救われる毎日で。
見える現実は 容赦なく私達を傷つけてゆくけれども。
それでも、見えない彼に救われているから、大丈夫だと思える。
いつだって、見えなくても どこかに彼がいる。
どんなに傷つけられても、砕かれても、打ちのめされても、消えはしない意思で想いだから。


「…あ、もう五分たつ」
『…ほんま はやいな』
「…うん」
『…あんな、めっちゃ 好きやで』
「うん」
『好きやからな』
「う ん」
『…みょうじが、好きや』
「…うん。私も」
『…おやすみ』

せめて夢の中でも会えたのなら、良かったのに。
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