「なまえちゃん」
「あれ、ワタルさん」


いつものようにマサラタウンを歩いていると、カイリューに乗った ワタルさんに会った。
珍しい、というかこんな田舎に こんな赤頭でマントつけた人と ドラゴンタイプのカイリュー、ってかなりミスマッチだ。
正直、景色から浮いている。合成みたいだ。

驚いていると、ワタルさんは苦笑いしながら「久しぶり」とか何とか。
カイリューから降りて、何故か私の隣にきた。

「どうしたんですか?ワタルさん、珍しい」
「ははっ、そういえば いつもの二人はいないのかい?」

微妙に噛み合っていない会話に違和感を覚えつつ、そのワタルさんの "いつもの二人"という言葉に、少しだけ胸が動いた。


「いつものって…あいつらは、忙しいから。最近は中々昔みたいには一緒に居れませんよ」

そう、あいつら。
私がそう言うと、ワタルさんはまたもや笑いながら 「寂しいのかい?」と。
そんなつもりはなかったのに、傍から見たら そんな風に見えていたのかな。
慌てて寂しくない風を装うも、やっぱり上手くいかない。すぐに表情は崩れた。


「…本当、自由なんですよ。レッドとグリーンは」

そう、あの二人は。
いつだって、そうだった。
昔は一緒にいたけども、だんだんと彼らは夢を見つけては 私から離れてゆく。
レッドは山にこもるようになった。
グリーンはジムリーダーを任され、忙しくなった。

だからもう、昔のように三人でいることは あまり無くなってしまった。
昔は一緒に居ることが当たり前で。だけども、今ではそんな 当たり前を望むようになってしまっただなんて。
そうだ、二人はもう 私からあっという間に離れていって。


「確かに、あの二人は自由かもしれないね」
「本当そうなんですよ。全くもう、やんなっちゃう」
「はは」
「…何か、遠いなあって」

本当、そうなんだ。
夢をもって、必死に掴もうと追い求めている二人は、平凡でそんな夢とか才脳だかを持ち合わせていない私からは、到底 遠い。
だから、遠い。どうしても、遠いんだ。


「…今、なまえちゃんの隣にいるのは 誰だい?」
「え?とな り?」
「…俺が、どうして ここに来たか、分かるかい?」
「あの」
「…きみが」

「はい、ストーップ」


ぐいっ、と急に腕を掴まれた。
私の右腕と、左腕。
ああ、この温かい感触を 私は ずっと前から知っている。
その声も。全て。
だから、思わず笑顔が零れてしまったのだ。


「ほら、行くぜ なまえ」
「グリーン!レッド!」
「……なまえ 走って」
「えええ、ちょっと!」

言われるがままに、走る。
両脇にグリーンとレッド。真ん中に私。
私は二人みたいに速く走れないから 何度か転びそうになるけども、二人がしっかり私の腕を掴んでいてくれたから 大丈夫だった。
ああ、懐かしい。こんなのどの位ぶりだろう。



「なん、で二人とも?」
「うるせ、なまえのピンチの時は オレらが駆けつけるんだよ」
「ピンチって」
「くそ、あのエロドラゴン使い。今度会ったらただじゃおかねえ」

グリーンはそう言いながら、もう見えなくなった後ろのワタルさんを睨んだ。
レッドは、何も言わなかったけども私の手を ぎゅっと握る。少しだけドキリと胸が鳴ってしまった。


「別にピンチでもなかったよ?私」
「…ばかなまえ」
「いでっ」
「本当、鈍いのは昔っからだなー」
「べ、別に鈍くないってば」

両側から握り締められる手。
懐かしいその手。だけども、昔とは確実に何かが 違った。
あれ、こいつら こんなに大きかったっけ。たくましかったっけ。
いつのまにこんなにも変わったのだろう。
いつまでも変わらないものなんてない、そう強く思い知らされる。


「本当久しぶりに帰ってくれば、危ねえ危ねえ」
「…なんで、きたのよう」

変わらないものなんて。
だけども、そうふてくされて言う私を レッドは真っ直ぐにみて。
そして、昔とちっとも変わらない優しい微笑みを見せてくれた。


「…言ったろ?なまえのピンチには、いつだって駆けつけるから」


変わらないものなんて ない。はずなのに。
だけど、どうしてこの人たちは昔と変わらずに私を見ていてくれるのだろう。

「なまえのピンチは、オレらが絶対に助けてやるからな!」

あんなの、ずっと、ずっと前だ。
もうずっと。ずっと昔の話。
子供の約束だったのに。
だけどそれを今でも護ってくれる彼らが、どうしても私は嬉しくて仕方がなかった。


「…なまえ、どうしてあいつといたの」
「あいつ?ああ、ワタルさん?」
「ったく、本当ありえねえ。何だあいつ。なまえもあいつともう話すなよ」
「…今度、ぶっ殺す」

「…あのさ、二人 もしかしてそれ」


やきもち?


そう聞くと、二人は 昔と同じように、耳を赤くさせてそっぽを向いて、



「「まさか」」



口を揃えて答える。
本当、こういうところも相変わらず変わっていなくて、何だか少し 笑えた。


永遠ループ
(変わってしまった私達の変わらない日常!)


***
さくららさんへ!
グリーンとレッドで、幼馴染で嫉妬もの とのリクエストでした。
しかし、嫉妬の部分がかなり薄くなってしまったような..?すすみません!
けれど、何だか書いてて楽しかった作品です。幼馴染っていいですね!
この度は リクエストありがとうございました!
沢山の愛をこめて。
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テーマ「人外ファンタジー」
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