「なまえ」

ほら、例えば名前を呼ばれただけで もう胸がいっぱいに熱くなるのとか、頬が赤く染まるのとか。
驚く程に胸が高鳴ったのを、体全身で感じた。ビクン、と 肩が思わず跳ねる。やだな、気付かれてないかな。

「な ん?」

平然を装って(本当は全然そんなこと、ないのだけど)聞くと、謙也はただ一言、「ここ、どこや」と。
いきなり何を言うんや、この男。
そう思ったけども、周りを見回して 私も思うのだ。ここ、どこや。


「う、そ もしかして皆と離れた?」
「もしかして やなくて、リアルにはぐれたっちゅー話やな」


頭を抱える謙也。
今日は 仲の良いクラスの皆で お祭りに来たんやけども。
皆で張り切って浴衣を着て下駄を履いて。楽しいお祭り。のはずやった。
せやけど、人混みに流されて、いつのまにか私と謙也だけ離れてしまったみたいだ。
気がつけば、どこか知らない場所。

謙也は、「困ったなー」と頭を掻き。
せやけど、私はその彼の隣で 思わず口端を緩めてしもた。
いつだって体は正直者だ。
正直、この展開は嬉しい。
好きな人と、二人きりでお祭りなんて。デートみたい。
そんな邪で愚かな考えを一掃したかったけども、どうしても私の脳内は浮き立っていた。


「…仕方ないな」
「え」
「…この際、二人で回るか?な、なーんてな!はは、」

そう言って、赤くさせた顔を見せまい、と横を向く彼が 私はどうしても愛しくなってしまい。
嬉しさを隠し切れずに、「うん!」と元気に答えてしもた。げ、これは恥ずかしい。
せやけど脳内で色々な考えを繰り広げる私とは対照的に、謙也は「ん、行くで」と手を差し出した。え、なに これ。

差し出された手に、何も分からず ただただ見つめていたら、謙也は更に顔を赤くさせて、

「あ、離れたら、あかんやろ!せやから、一応な!手を、な!」

ああ、もう そない顔で言われてしもたらなあ。
「や、やっぱりええか!」と引っ込める謙也の手を、思わず掴んだ。
パシッ、乾いた音が 夜のお祭りの空気に消えてゆく。


「な、なまえ」
「よ、よくない」
「えあ」
「は 離れたら、困るんやろ?せやから、」
「お、おん。そやな」

握られた手は、どうしてもぎこちなくて。
緊張して、何だか手汗もかいてきてしもた。
せやけど、二人とも 決して離そうとはせんかった。

謙也に手を引かれて、歩く。
謙也はいつも歩くのが早いけども、今日は私に合わせてくれているみたいで。
少し慣れなさそうに、ぎこちなく歩く。たまに転びそうになったり、人にぶつかったり。
せやけど、私が人にぶつからんよう 庇ってくれているみたいで、胸の奥で堪らない 温かいものが広がっていくのを感じた。


「…疲れたか?」
「あ、ちょっとだけ、ほら、浴衣て着慣れないから。せやけど、大丈夫やで?」
「…そか。ほな、あっちで座るか」
「う ん」


人気の引いた、木陰に座った。
足が少し、痛い。普段慣れない下駄のせいや。
少し見苦しいけども、思い切って脱いでみた。うん、やっぱり素足が一番気持ちええ。


「…足、痛むか」
「あ、全然大丈夫やで?…下駄なんか張り切って履くからやんなー本当」
「…似合うとるから、ええと思うけど」
「け、ん」
「浴衣、似合うとる」


ドン、ドン

それと同時に、花火が打ち上がった。
謙也は、恥ずかしそうにそっぽを向いて、話題を変えようと 「は、花火あるんやな!すごいなー」とか。
思わず、その彼の服の裾を 握った。ぎゅ、願いを込めて。
こうしとるだけで、思いが伝わればええのに。ありえないことやけども、そう切から願う。
だって、言葉にするなんて、そんなの無理だ。
その感情を口にしただけで、私はどうなってしまうのだろう。

こんなに好きで、好きで好きで、少し 怖い。


「な、なまえ?」
「け、謙也が、来るから」
「何が、や」
「謙也が、くるから 浴衣来たん。張り切ったのも、全部 謙也の、ためなんよ」


全部、全部、全部。
もう、本当呆れるくらい全部が彼のためで。
少しでも、浴衣を褒めてくれないかな。
少しだけでも、私を気にかけてくれたのなら。

ほんの少しでも、私に気持ちを持ってくれたのなら。

震える手で、謙也の服の裾を 強く握った。
ああ、どうか、伝わりますように。
そう願いを込めて。強く、強く。
すると、謙也は私の肩に手を置き、


「…ええか」
「…嫌、って言ったら」
「…嫌でも、する」
「ふ、結局、するんやん」
「な、なまえがあんまり可愛えこと言うからや…」
「…その言葉、まんま返すよ」
「何やねん、それ」
「謙也だって、私のこと、ドキドキさせてばっかで、」
「…だー、もう無理や」
「な、何」
「ええから 黙って…」


そう瞳を閉じさせられて。
私の唇の上に、彼の唇が重ねられた。
瞳を閉じた、まぶたの裏に 花火が滲んで見えた。
眩しい。キラキラ。

瞳を開けると、真っ赤な顔をした謙也がいて。
多分、目に見えないけども 私も同じくらい顔赤いんやろうな、とぼんやり思う。


「…してもうた」
「ふ。そやな。謙也と。うん」
「…もっかい、ええ?」
「…ええよ」


瞳を閉じても、開けても、そのキラキラは一向に離れようとはしないで。
多分、彼と居るから、輝いて見えるのだろう。
彼と居て 見る景色は、いつだってキラキラと輝く。閃光を放ちながら、何より美しく、尊く。
だから、どうしようもなく愛しくなって、彼をもう一度 抱き締めてみたりした。




星屑シャワー
(キラキラ輝く、魔法みたいだ)



***
菜々ちゃんへ!謙也夢でした!
最近四天宝寺熱が激しい私にとっては、なんとも嬉しいリクエストでした..!ほう!
だけども、関西弁沈没ですね!菜々ちゃんが京都出身らしいから、ヒロインちゃんも関西弁にしてみたが、全然偽だし、しかも大阪と京都は違うんだよねそういえば(^p^)←
どんまいすぎる..!ひい!
けど、謙也と甘酸っぱい感じを目指して書きました。謙也にはこんな初々しい恋愛がいいよねという妄想です。←

ああ、色々申し訳ないです..なんて長いのしかも..
菜々ちゃん、リクエスト とってもありがとう!
たっくさんの愛をこめて。
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