私と彼の関係って、なに。

そう言われたら、多分 私は困ると思う。かなり。

だって、彼、もとい 仁王雅治はつかみどころがなくって、いつだってひょうひょうとしている。
私なんかじゃ、彼の面影すら掴めさえしない。
だけど、どうしても掴んでみたくって、形にしてみたくって。多分、女の子って皆そんなもんだと思う。
いつだってはっきりした、形ある何かがほしい。

だから、一緒に帰ったとき言ったのだ。


「す きよ」


言ってから、しまった と思った。
だけど、どうしてもその、ひょうひょうとした彼のほんの、一部だけでも。
掴みたかったのだ。
だから、思わず声に出してしまった。「すきよ」と。

それから たじろぐ私を、目の前の仁王はじいっ、と見ては、一言呟いた。


「それは、食べ物の好きとかとは、違うかの?」
「え、そりゃ、まあ」

何ともムードやら、ロマンティックやらの欠片もない私達だ。
気の抜けた返事を返すと、仁王は私に近づき、キスを一つ。
唇と唇を、ちょこっとつけるような、何ともまあ子供らしいそれだけども、私を驚かせるのには十分すぎるそれだった。
そして、彼は一言、


「俺も、好きじゃよ」


そう、あの日を境に私の世界は変わったの。
ぱあっ、て、目の前が 明るく極彩色に染まる。
だけども、あれ以来 私達はまるで恋人同士のようなことはない。
否、もはや私達は恋人なのだろうか。
だから、思うのだ。

私達の関係って、なに。


仁王は、いつものように私と一緒に帰る。
だけども手を繋ぐ、だとかそんな恋人類のものは全くなくて。
さすがに、心配になってしまう。


「仁 王」
「…どうした、なまえ」

仁王の声が、少し動揺しているように聞こえた。
多分、私が今、目に涙を浮かべているからだ。
涙はみるみる私の瞳に広がり、多分 今瞬きをしたら零れてしまうだろうなあ、と呑気に思ったりもした。


だって、仁王の気持ちはいつだって分からない。
いつだって曇っている。見えない。
私はこんなにもいつだって余裕ないし、一緒に帰るだけでもこんなに心臓は高鳴るし。
私ばっかりが、こいつを好きみたいだ。ずるい、ずるい。

「仁王は、いつも 分からないよ」
「なまえ?」
「私ばっかり、好きみたいじゃんか」
「なまえ」
「…ずるい、ばか ばか仁王」

私がそう言って歩くと、後ろから ぎゅっと抱き締められた。
驚いて思わず、「おわっ」だなんて色気のない声を発してしまったけども、この際機にしないこととする。


「…分かってないのは、お前じゃろ」
「に、仁王」
「…聞こえんか?」

聞こえる?一体、何が。
そう思って耳を研ぎ澄ませてみると、仁王の胸の辺りから、心臓の音が聞こえてきた。

ドクドクドク、ドク

それは確かな鼓動を刻む。
そう、確かな それだった。
私の心臓の鼓動と同じで。

トクトクトク、
ドクドク、ドク

二つの鼓動が、やがて一つになる。
ああ、そうだ。私と彼のそれは どうしても同じだったの。
同じくらい、鼓動を刻んでいた。
その二つの鼓動が、どうしようもなく愛しくなってしまって 私は更に鼓動を刻み続ける。


「…余裕なんて、あるわけ ないじゃろ」
「…仁王も、緊張してる?」
「当たり前。好きなやつと一緒にいて、緊張しない馬鹿はどこにおる?」


後ろから抱き締められていた腕から、思い切って振り返る。
どうしても、彼の顔がみたかった。
振り返ると、仁王は慌ててこっち見るな、とか言った。

そうだ。丸っきり一緒。全部、ぜんぶ一緒。
彼の顔も、私の顔と同じくらい 赤くなっていた。
それで、もう十分だった。
きっと、言葉にしなくても伝わる。


「…仁王って、案外 ばか」
「…うるさい。詐欺師の名が泣くのう」

だけども、私はその 目の前の頬を赤らめる彼が、どうしようもなく 昨日よりもさっきよりも、愛しく思えてしまった。
だから、もう一度彼の胸に顔を埋めた。
むせ返るほどの、彼の甘い香りとかとが混ざり、私の胸をいっぱいにさせた。


「だけど、好きだよ。もっと、好き」


そう言ったら、さっきよりも仁王の鼓動が 大きく速く、聞こえた。
詐欺師とか言っても、案外簡単なものだなあ、とぼんやり思った。
だけど、それ以上に どうしようもなく愛しく思った。
本当、色々格好のつかない 余裕のない私達だけども。
だけど、こうしてくっつけば分かることだし、これも悪くないなと、私は思うのです。



ぐだぐだロマンティック
(では、手を繋いで帰りましょう)

***
仁王夢でした!
すみません、かなり偽すぎる仁王になったような…!
しかも、リクエストの切⇒甘ではなかったような…!
たまには余裕のない仁王をばと思いまして。
すみませんでした..
この度はリクエストありがとうございました!
沢山の愛をこめて。

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