「レッドー」
「…なまえ、また来たの」

相変わらずの無表情で返してくるレッド。せっかくこんな山奥まで来てあげたのに、酷いなあ、とか言うと、「頼んでないから」と一刀両断される。そりゃそうだ。

空を見上げると、粉雪がちらほら降ってきた。
シロガネ山から見上げる空は、マサラタウンで見ている空より、酷く重く 狭く感じた。
こんなところにずっと居ると、気持ちまで塞いでしまいそうだ、そう思ってから レッドは元から塞いでいたな と思い返す。
そうだ、いつだって彼は塞ぎこんでいて 私なんかいくら彼のところに来たって、何も変わらない。彼の中の冷たいもののどれ一つも、変えてあげられやしないのだ。


「なまえ」
「レッ、ド?」

だけど ふと見たレッドの表情は、いつものあの無表情ではなかった。
昔に見た、子供のときに少し似ているそれだ。こういう表情をしてくれるときは、少しだけ私に傾きかけてくれているときだ。


「…俺」
「う ん」
「怖かった」
「な にが」
「…チャンピオンになってから、騒がれれば騒がれるほどに、周りの人も、何も 信じられなくて」
「うん」
「…ポケモンでさえ、こわくなった」
「…うん」
「本当に、こんなんじゃ、失格だ」
「レッド、」

何か、励ましたかった。
だけど、彼の表情は 単に気安い励ましを求めているそれではなかった。
ただただ、ひたすらに悲しそうだったから。
そんな彼を見てから、もう 思考回路は停止して 何も言えなくなってしまった。
彼は、どういった言葉を求めているの?私には 分からなかった。分かりたかったけど、私には彼を支える術を 知れない。


「レッ ド」

だから、ただただ 名前を呼んだ。
私には彼を支えられる言葉が、到底思いつかない。
だから、どうか どうか私のこの 声が、彼にとって世界一優しいものとして届きますように。染み渡りますように。
ただただそう、願いを込めて呟く。

「レッド」

ああ、どうか。途方もない この愛しさとか私の気持ちとかが、どうか彼にとってとびっきり幸せなものとして 届きますように と。
この真っ白な山で、レッドがたった一人 埋もれてしまわぬように。彼にとって、一筋の光となって、真っ直ぐに彼に届いてくれますように。
そう願いを込めて、何度も呟く。ポツリ、ポツリ。


「レッ ド、」
「なまえ、」

レッドの私を呼ぶ声は、少し震えていた。
彼は俯いていたから見えなかったのだけど、多分 泣いていたのだろう。
胸が一気に熱くなって、彼を思い切り抱き締めたい衝動に駆られる。思い切り抱き締めて、その涙を止めてあげたい。その震える肩を、しっかりと握ってあげたい。
だけども、私のこの馬鹿な体は、彼の体に手を差し伸べても、寸前で固まっては 動こうとはしてくれない。


あと2mmが大きかった
(雪が更に強くなって、辺りは更に白くなる)

***
一万企画、真凛さんのリクエストでした。
レッドさんで切orほの甘とのことで、甘いのは沢山書いたので、切ないのを書きましたが..はたして切ないかな?;
というかリクエストでこんな幸せ感が全くしない小説、良いのかな..!すみません!
このたびはリクエストありがとうございました!
沢山の愛をこめて。
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