「なまえ」
ふと、名前を呼ばれて振り返る。
懐かしい声だ。振り返ってみたその顔は、やはり想像通りの懐かしいそれだった。
「ヒョウタ！どうしてジョウトに」
私がそう言うと、彼は照れ臭そうに 「ジムリーダーの研修で収集されてね」と頭を掻きながら言った。
そういう彼の仕草も、少し困ったように優しく笑うのとかも 全部全部変わってなかったから、何だか嬉しくなってしまってその彼の腕にしがみついた。
しがみつくと、ヒョウタは驚いたのか少しだけバランスを崩し、「ちょっ！なまえ！」とか叫ぶも 聞いてあげない。だって久しぶりだし、これくらい許して欲しい)
「わー、懐かしいなあー！」
そう言っていると、急に誰かにヒョウタの腕からひっぺはがされた。
強い力で、いとも簡単に私は持ち上げられ、ストン と少し乱暴に地面に落とされる。
その腕をみると、青い袖。見上げると、昔とちっとも変わらない金髪に、少し昔よりも大人びた 彼がいて。
「デンジ！」
「…なまえ、どうしてお前 こいつなんかにしがみついてたんだよ」
「え、そんな の、関係ないじゃ ん」
何だか昔よりも、何て言えば良いんだろう。男臭くなった というか、大人びた。そんなデンジに どこかしら余所余所しくなってしまう。
緊張するな。何でだろう。
そんな私を、デンジは コツン、とデコピンしてから、
「相変わらずだな、なまえ」
と相変わらずの無表情で言ってみせた。
昔と変わらないなこいつも、それが何だか嬉しくて へへっと笑うと、デンジの口角がわずかに上がった。
「オレの腕にならいくらでもしがみついていいぜ、なまえ」
また後ろから声がする。
振り返ると、また 懐かしい顔で。ああ、今日は懐かしい人に よく会う日だ。こういう日は 嫌いじゃない。
「グリーン！久しぶりー！」
「オレの言葉は無視か…」
「ははっ、相変わらず」
グリーンは昔と変わらず、私の頭を撫でてくれ。
子供扱いされてるみたいだ、と少しむっときたけども どうしても撫でられて気持ちが良かったので、ここは何も言わず 黙っておくことにしておこうと思う。
すると、デンジが私とグリーンを再び引っぺがす。
どうしたの、と言うと 彼の顔はさっきは私に笑いかけてくれたのに、何故か今はむっとしている、仏頂面だ。何だか、胸が きゅうっと締め付けられるように、痛んだ。
「デン ジ」
「…こいつに触るな」
「おーおー、言ってくれんじゃねーの」
何だか険悪な雰囲気に、全くついていけていない私。
だけど、漠然としているけど 怒っているより 笑っていて欲しい。笑顔が、みたい。そう思った。
「なまえちゃん、何だか大変そうだね」
「あ、マツバ」
マツバが相変わらずの のんびりした調子で言ってきて、少しこの重い空気から救われたような気がした。
この人たちを止めてよ、そう言おうと思ってたのだけど。
だけど、マツバは私の腕を急に掴んできて、私の希望は絶たれるのである。
「こんなの放っておいて、僕と一緒に抜け出しちゃおうよ」
「え」
「おい てめえなまえに何してんだよ！」
ああもう、ジムリーダーの中にはまともな人が居ないのか全く。
頭が痛くなる。
マツバは、にこりと私を見ては 「ね？」とか微笑みかけて。多分、この表情で幾多もの女子が鼻血を出したかと思われる。
「あ、ちょっと、マツバ…」
私がそう言いかけると、マツバは「嫌なの？」とか言ってみせて。
嫌っていうか、私は。
そういう私の気持ちを察してか、彼は「なまえはどうしたいんだい」と真剣な顔をして聞いてきた。
私は。
「…私が、みたいのは」
そう言ってから、マツバの腕を解いた。
それは案外すぐに解けた。
「デンジの笑顔が、私は いちばんみたい」
デンジの腕に、そう言ってしがみついた。
驚くデンジ。だけど、一番見たかったのは どうしてもやっぱり、デンジの笑顔だ。
笑っていてくれたら、きゅん と胸の奥で何かが鳴ったのが聞こえてしまった。だから。
やっぱりそういう時に一番に思い出すのも、やっぱり彼のことで。
「…ごめんなさい！」
そう言うと、デンジは「本当バカなまえ」とか言いながら、私の手を握って 走り出した。
突然のそれで私は焦って しかも速いから転びそうになったけども、デンジがしっかり手を繋いでいてくれたから、転ばなかった。
「本当、ばかだな なまえ」
「うっさい！」
「仕方ないから俺がずっと一緒にいてやるよ」
そう言う彼は 笑っていてくれて。
今までに見たことないくらい、幸せそうな表情だったから、私まで幸せになってしまった。
やっぱりデンジが笑うと、胸の奥がきゅん と痛みと熱さを伴ったから、やっぱり間違いはない。そうぼんやりと思った。
ウィーラブユー！
(でも私の大切な人はたった一人)
＊＊＊
一万企画、夜月さんのリクエストでした。
ジムリーダーの逆ハー デンジorマツバ落ちとのことでしたので、デンジ落ちにしました。何となくです。
けれども、ジムリーダー沢山出すのは難しかったです..すみません！しかも逆ハーって何だか私下手くそですね..！
このたびはリクエストありがとうございました！
沢山の愛をこめて。