誰かから聞いた。マツバさんは 何も不思議な力を持っているだとか。千里眼、とかいうやつで 全てのものがどこにあるかも分かるらしい。私にはよく分からないけれど。
だけど、今こうして私の隣でのんびりと紅葉を眺める彼に、そんな不思議な力とか、訳の分からないミラクルパワー(私的に言わせてもらうと)があるだなんて、思えない。

「もう秋だね」
「そう、ですねえ」

マツバさんは、オレンジや黄色に輝く紅葉を見上げては、そう 穏やかに呟いた。
本当にあまりにも穏やかでのんびりとしたそれだったので、ミラクルパワーのことを考えていた私は何だか拍子抜けしてしまう。
本当にこの人がそんな不思議なミラクルパワー(しつこいが何度も言わせて貰おう)を持っているだなんて、信じられない。


「…マツバさん、本当にミラクルパワーあるんですか?」

私がそう まじまじと聞くと、彼は一瞬キョトンとしてから、ぷっ、と吹き出してから笑った。ハハハ、と軽く笑い飛ばす。
だけども私は至って真面目に聞いたのだから少しむっとしたけど、マツバさんの笑顔があまりにも私の胸に響いたので まあ良いことにしておく。


「はは、何だい、そのミラクルパワーって」
「い、いや 聞いたんですよ。マツバさんは千里眼とかで不思議な力を…こう、持ってて みたいな」

上手に説明できないな。
だけども、マツバさんは私の瞳を真っ直ぐ見て聞いてくれているから 安心できた。

「あるかもしれないね」
「す、すごい…!」

ミラクルパワーどころか、霊感とかそういったスピリチュアルなものとは全くもって無縁の私には ただただ感動するしかない。
そういった力を持った人が、今 隣に居るだなんて。すごいすごい、それだけで何だか興奮してしまう。


「だけど、別に大したことないよ」
「い、いやすごいですよ!千里眼って、何でも視えるんですか?」
「何でも、ってわけじゃないけどね」
「へえーすごいなあ」

千里眼が何が視えるかだなんて毛頭知らないけども、それでもすごいと心から思った。
そんな私を見ては マツバさんは笑う。


「別に、そんなに視えないよ。普通に何処に何があるかぐらい。人の心とかも、視えないしね」
「でもすごいですよ!練習すれば、心も視えるようになるんですか?」
「どうだろうね」
「すごい、すごい!」

自分のことじゃないのに、何故か私は第興奮してしまう。
本当にそういう力を持つ人って、いるのね。
そんな私に、マツバさんは 急に肩を引き寄せた。あまりに突然で、思わず「ええ!」とか大声を出してしまったら笑われた。
うう、こんな綺麗な紅葉のロマンチックな中、何とも私は決まらない。


「なまえのことは、いつでも視えるよ」
「ええ!?」
「瞳を閉じれば、いつでもきみが 僕の脳裏に焼きついてるんだ」

驚き。
そんな言葉、この綺麗な紅葉の中囁かれたら、誰でも参ってしまうと思う。事実私は足に力が抜けて、倒れそうになってしまい マツバさんに支えられた。
見上げれば、紅葉が鮮やかに オレンジや黄色の暖色系の光を放っていた。


「…マツバさんて、本当恥ずかしいことすぐ口にしますね」
「はは、でも本当だよ?きみのことなら、何でも分かる」
「…じゃあ、私が今 なんて考えてるか、当てて」
「いいよ?当たったら、ご褒美欲しいな」

ニコリ、と微笑むマツバさんに 何とも悔しくなってしまって、ばか と口を尖らせた。
マツバさんに抱き締められて、一瞬戸惑ったけれどもその温かい体温に身を任せる。
むせかえるほどの彼の優しい香りに包まれて、ああ 私って幸せだなあ、と思う。そして、同時にたまらなくこの人が愛しい とも。
ああ、駄目だ、好きだ。


聞こえる
「好きだ、って 思ってた?」
「…ばか」
「図星みたいだね」


***
一万企画、夜月さんに捧げます。マツバさん甘でした。
マツバさん初書きで 何とも偽っぽいのですがどうでしょうか..楽しかったです!相変わらずのしょんぼりクオリティですが。
このたびはリクエスト、ありがとうございました!
沢山の愛をこめて。
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テーマ「人外ファンタジー」
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