「なまえ」

そういう風に名前を呼ぶだけでも、驚く程に自分の心臓が高鳴ったのを感じた。
ああ、何て小さな心臓なんだ。チキンハートとかいうやつかもしれない。
だけど、そのチキンハートは彼女が振り返り、俺を見つめ返すときに 更に速く波打つこととなる。


「あっ、デンジー偶然!」
「…ああ」

偶然、そう言いながら 楽しそうに笑う彼女。
だけども本当は偶然ではなくって、俺がただ彼女の行きそうなところと思い、ここに来ただけだ。全ては計算の裏にある。
偶然も運命も(これは言いすぎか?)ないけれど、ただなまえは何とも楽しそうに笑いかけるから、まあ良いことにしておく。

「なまえはここで何してたんだよ」
「えっ、あ、私はー…その」

俺の質問に、何だか恥ずかしそうに俯き視線を逸らす。
彼女の赤く染まった頬を見ただけで、何故か分かってしまった。ああ、これほどに人を好きになるんじゃなかった、と今更ながらも後悔をする。(意味もないが)

その時だ。
後ろの方から、声がした。

「なまえ」

彼女を呼ぶ、凛とした声だ。
その声を聞くと、なまえの顔は一気に明るいそれとなり、自然と頬を緩ませる。
悔しいけれども、その喜んだ 恋をしている彼女の表情が、一番好きだ。そう思った。


「ゲンさん!」
「やあ、遅くなってすまなかったね」
「い、いえ。私も今来たばっかりですから」
「デンジ、君。だったかな?」

突然話を振られて、思わずドキリとした。
だけども表情には出さないように 身構える。
彼の表情は一見穏やかなそれであるけども、瞳の奥では何かがゆらゆらと燃えていた。
静かな、穏やかな炎だ。


「なまえが世話をかけたね」

まるで、自分のであるかのように言ってみせる。
この人も、大人に見えて全然子供らしい闘争心を持っていると思う。無論、鈍い彼女は気付かずに相変わらず頬を赤らめては幸せそうにはにかんでいるのだけども。
だけど、この人は相当見かけよりも子供で独占欲とかが強いと思う。
だから、俺もつられてそうなってみようか。そう思ったりもするわけで。


「…別に、あんたのじゃないだろ」

俺がそう言うと、彼は一瞬驚いてから 少しだけ笑った。
だけどもそれは、いつものあの穏やかなそれではなくて、どちらかというと ニヤリ とかそういう表現が正しいようなそれだ。


「私の、だよ」

そう言ってから、なまえの肩を引き寄せてみせる。
何が起こっているか分からない彼女は、「ええ、ゲ ゲンさ?!」とか慌てているも、その頬は確かにばら色に染まっていた。
それを見て、ああ 敵わない と思ってしまった。(同時に、叶わない とも)
思わず笑いが零れてしまい、すると彼ももう一度あの、いつもの穏やかな微笑みを取り戻す。


「じゃあ、そろそろ行こうか。なまえ」
「え、あ、はい」
「……」

彼らは完璧だった。
明らかに間違いは俺の感情だ。
だからここは男らしく引き下がろう。そう思い、彼女達に背を向けると、


「デンジ!会えて楽しかったよ!またね!」

振り返ると、なまえが笑っていたから。
頬は赤く染まってはいないが、その笑顔は俺が作ったものなんだよな。そう考えると 顔が妙に熱くなってきた。
同時に、胸にじんわりと温かいものが広がる。
だから、明日にももう一度 彼女に会いに行こうか。そんなことを考えたら、自然と体がいつもより軽くなった気がした。
それでも、かなうわけなどないと、知っているのだけども。
見上げた空は、青く 澄んでいる。
だから、まあ いいことにしておく。

青空 グッナイ
(それから彼女が幸せそうにあいつと手を繋ぐのが、みえた)



***
一万企画、御堂さんのリクエストで、ゲンさんとデンジの三角関係でゲンさんおち とのことでした。
しかし、ゲンさんではなくデンジが目立ってしまい、すみません..!
このたびはリクエストありがとうございました!
沢山の愛をこめて。
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