ふと、誰もいない屋上で溜息をついた。
見上げた空は、いつもより 低く狭く感じる。
生暖かい風が、私の頬を撫ぜた。

この屋上とも もうお別れだ。
今日で、私はこの学校を 卒業する。

溜息をついてみせた。
瞳を閉じれば、まぶたの裏に 沢山の思い出がスライドショーのようにして蘇る。
学校が面倒に感じたこともあったけれども、今思い返してみれば そんな悪いものではなかったなあ、と思う。寧ろ、楽しいことばかりだ。


「…なーに、やってんだよ一人で」
「あ、デンジ」
「なまえ、怪しかったぞ」

そう無表情で言う私の幼馴染に、むっとして「うるさい、センチメンタルになってたのよ」とその肩を叩いたら、笑われた。

こいつとは、もうずっと 一緒だった。
生まれた頃から、気がつけば ずっと傍に居て。
一緒に居るのが当たり前すぎて、今まで何も思っていなかったのだけれども、この学校を卒業すれば こいつとも進路が違うから お別れだ。
お別れ。
そう考えると、急に胸の奥に 何かポッカリと穴が空いた気がする。
ヒュウヒュウ、と、何かそこに風が吹き抜けた。


「…デンジ」

気がつけば、その彼の腕を 握っていた。
意識などしていない。ただ分からないのだけども、体が勝手に動いた。
デンジは驚いてみせて、「なまえ?」と私の名前を呼ぶ。
彼が私の名前を呼ぶたびに、その穴が 塞がってゆく気がした。
私の胸の奥の穴。


「…卒業したら、もう」

そう呟いてから、その先の言葉が言えなくなってしまった。
涙が溢れる。駄目だ、ここで泣いたら かっこ悪い。
涙を必死に堪えたのだけど、それは止まることを知らなくて。
ああ、今まで ずっと一緒だったから。
それが当たり前で。ずっと、永遠に変わらないと、思っていたのだけど。
だけど、私はもうそう思えるほどに子供ではない。
卒業してから 当たり前に会えない日々がきっと続くのだろう。
そんなの、きっと私には耐えられない。


「ばーか、何泣いてんだよ」
「…ばか は、ないでしょ…」

だけどデンジはそう、いつものようにぶっきらぼうな言い方だけど 優しく私の涙を拭ってくれるから。
昔とちっとも変わらない彼に、余計涙が出てきた。
拭ってくれる彼の指は温かくて、途方もない優しさと愛しさを感じる。


「俺たちに、別れとか ねーからな」
「そんな、根拠 ないじゃん」
「…だー、くそ」

デンジはそう言いながら、自分の制服のボタンを、ブチリと取り。
そして、それを私の前に差し出す。
よく見たら、第二ボタンだった。


「…色んな奴から、下さいって言われたけど、これ。なまえのためにとっといた」
「……バカデンジ」
「なまえが泣くと思ったから、とってやったんだ」

そんなこと言われると、余計泣くに決まってるじゃないか。
私は泣きじゃくりながら、そのボタンを受け取り。
握り締めると、その手から 何かじんわりと温かいものが体中に広がったような気がする。


「…帰ろうぜ」
「…う ん」
「いつもみたいに、自転車 乗っけてやる」
「う ん」
「これからも、乗っけてやるから」
「…う」
「なまえだけ、これからも乗っけてやる」
「…バカデンジ」
「バカなのはお前だろ」
「ううん、デンジ やっぱり ばか」

私だけなんて、そんなの馬鹿みたい。
ずっと だなんて、そんなの あるわけないのに。
そう思うも、心の中では喜んでいて やっぱり私も馬鹿なのかな、と思う。
そう言いながらも、昔と同じように手を差し伸べてくれた彼の手は、やっぱり昔と変わらず 少し冷たいけども優しいそれだったので、もしかしたら 彼の言うそのずっと はありえるのかもしれない。そんなことをぼんやり思いながら、少しだけ笑った。

第二ボタンください
(もう一度彼と見上げた空は、広く そして高い)


***
緋月凛さんに捧げます!
デンジ学パロです。
卒業の日、を書いたのですが 学パロっぽいでしょうか..?汗
デンジの制服はご想像にお任せします。私的には学ラン派です。
このたびはリクエストありがとうございました!
沢山の愛をこめて。
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