「ゲンさん」

私がそう呼びかけると、彼は優しく微笑み、見つめ返してくれる。
ああ、こんなに優しく微笑む人を、私はこの人以外に 知らない。別にこの先 この人以外に知らなくてもいいなあ、そういう風に ただただぼんやり考えた。


「紅茶、淹れたんですけど 飲みます?」
「ああ、いいね」

ゲンさんに紅茶を差し出すと、彼はまた 同じ様に優しく微笑み、「ありがとう」と。
こんなことをしていると 何だか夫婦みたいだ。
そんなこと考えて、自分のその考えに恥ずかしくなって 少し顔を赤らめた。浅ましい、自分が恥ずかしい。全くもって。

「何だか夫婦みたいだね」
「ええ?!」
「はは」

私と同じことを彼が言ったことに驚くと 彼は楽しそうに笑い。
何だか私の考え全てはこの人に見透かされているみたいだ。参ったなあ、と溜息をつくと ゲンさんに「まあ、いいよね」と言われ。
何が いいよ、なのかは全く分からないのだけども、彼がいいと言うのだから、いいっていうことにしておこうと思う。


「お砂糖は入れませんよね?」
「分かってるね」

ゲンさんとの付き合いも長い。
だから 分かってるね、と言われて 何だかくすぐったくて、「えへへ」と 何とも締まりのなく笑ってみせた。多分、今私の表情はきっと幸せそうなのだろうなあ とぼんやり思う。
彼は紅茶であろうとコーヒーであろうと、砂糖はいれずに ストレートに飲む。
どうやらその方が本来の香りが引き立つ、とか彼は言ってたけども、苦いものがあまり好きでない私にとっては、理解できない。


「なまえは砂糖は多くいれるのだろう?」
「は い」
「全く甘党だね」

そう言うゲンさんが少し大人で。
普段から大人だとういうのに、更に大人な表情を見せられ、子供っぽい私との この果てしない差を思い知らされたような気がして、あまり良い気はしない。
だから、少しむっとした表情で、「甘い方がいいじゃないですか」と言ってみた。
無論、私が不満がったとしても、私と彼のこの深い溝も違いも、何も変わることのないそれだというのだが。


「甘いほうが、いい。ねえ?」
「何です、 か」

何です、そう言ったところで 軽く口を塞がれ、すぐに離され 残りの"か"を思わず口に出してしまった。
呆ける私を見ては、ゲンさんはおもしろがって嬉しそうに喉をクク、と鳴らして笑う。


「お陰でなまえとのキスはいつも甘いよ」
「…ゲンさんの、スケベ」
「心外だな。甘いほうが、好きなんだろう?」

そう言って微笑む彼。
何だか本当に彼ばかり大人で余裕で、本当に悔しい。嫌になる。
だから彼の胸に思い切り顔を埋めたら、彼の心音が聞こえた。忙しないそれ。


「ゲンさんの心臓、はやい」
「…はは、ばれたか」


私ばっかり、彼を好きみたいだったけど。
そう思って 悔しかった。
だけども、彼の心臓も 今確かに高鳴っているから。
何だかその心音がたまらなく嬉しくて、擦り寄ったら むせ返るほどの彼の甘い香りが鼻をくすぐった。


「上手く、言えない んですけど」
「何だい?」
「…すきで す」
「…私もだよ」



お砂糖は多めで
(とびっきり甘めでお願い)


***
一万企画、匿名さんに捧げます!
ゲンさん夢で、年下おとなしめゲンさん大好きヒロインで、甘々とのことでした。
けれど 全然おとなしめ、じゃないですねこりゃ..!すみません!おとなしい子苦手なようです..
ゲンさん良いですよね(^p^)
このたびはリクエストありがとうございました!
沢山の愛をこめて。
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