今日もいつものようにまたミオの図書館へ向かう。
元々私は本はあまり読まない方だったのだけど、あの日 この図書館で彼を見てから通うようになった。
いつもの時間、いつもの場所。
図書館は、静寂に包まれていた。
この難しい本ばかりが置いてあるこの階では尚更だ。

ふと、本棚を見ている彼に目をやった。
相変わらず難しそうな本を読んでいる。
題名を盗み見したら、哲学に関する本らしい。ううーん、いまいち分からない。

私はいつもこうして、彼がこの図書館に来る時間に合わせて来て、彼をチラリと見つめる日々だ。
ただただ、見るだけ。それだけの毎日だ。
だけどそれでも心の奥に 何かじんわりと温かいものが広がる気がした。だからその理由を知りたくて、だけど話しかけるとかそんな勇気もなく、ただただ見つめるだけの日々で。

彼の読んでいる本と、同じ本がたまたま本棚に置いてあったので、思わず手にとった。
開いてみたけど、やはり文字の羅列。少なくとも私の好きな類の本(もっとも、好きな本だなんて限られているが)ではない。


「…お好きなのですか?哲学」
「ひゃ!」

声をかけられて、振り返ると 私が見つめていた彼がすぐ近くに居て。
驚いて、思わず変な声で叫んでしまった。
すると、彼は しー、と唇に指を当て。その何とも色気にある仕草に 顔は熱く火照る。


「すみません、驚かせてしまいましたか」
「い、いえ?」

彼は とても綺麗な口調で話す。
普段あまりそういった敬語とかに慣れていない私は、何ともぎこちない敬語になってしまう。
初めて 目と目が 合う。
今まではただただ遠くから見つめていたから、こんなに近くで 真正面から見るのは初めてだ。
彼は綺麗な顔をしていて、大人な雰囲気だ。思わず心臓は高鳴る。何故。


「いえ、いつもこの図書館にいらしてますよね」
「あ、え、私?」
「貴方以外に誰がいるんですか?」
「あ、そ、うです ね」
「哲学、好きなのですか?」

彼は もう一度同じ質問をし。
私は一度も哲学の本だなんて読んだことないのだけども、つい つられて「はい」だなんて答えてしまった。

「そうですか。私もです」
「あ、は」
「誰の哲学が好きですか」
「ええ?!」

誰の哲学。そんなこと言われても 困る。
今まで一度も哲学なんかに触れたことのない私に言われても。
焦る私に、目の前の彼は言う。


「私はヴェーバーなどのか好きですが」
「あっ、私も、それが好きです。はい、ヴェーバー ですよね」

ヴェーバー、そんなの勿論初耳だし 知らない。だけどもここはこう言うしかない。
そう私が言うと、彼は ニヤリ と笑った。
かっこいい、そう思うも 何故だか嫌な予感しかしない。
それから、私の手首を掴んだ。驚く私。それに彼は 真っ直ぐに私を見つめ。

「ヴェーバーは、哲学者ではなくロマン派のピアニスト、指揮者ですよ」
「え」
「騙してすみません。本当に哲学、お好きなのですか?」


一気に体中の血液やら冷や汗やらが逆流していく気がした。
彼は私が哲学なんか興味ないことに、気付いていた。ああ、それなのに私ったらなんて恥ずかしい浅ましい。
逃げようと試みるも、手首をきっちり掴まれているのでそれは叶わない。


「すみません。あまりにも毎日見つめられているので、気になって」
「そ、そんな」

ああ、しかも私が彼を見つめていたことまで気付かれていたなんて。
穴があったら入りたい気分、というのは多分 こういうものだと思う。
心臓は驚くほどにはやく波打つ。

どうしようどうしよう。
恥ずかしい。自分の浅ましさに嫌気がさす。
だけど、それでも彼を見つめたかった。
理由なんて知らない。
だけども 初めて彼を見てから 何故かずっと見ていたい。そんな衝動にかられたのだから。
何故、何でこんなに 彼が 気になるの。視線が 離せない。こんなに惹かれて やまない。

そんな私に、彼は落ち着いた、凛とした声で 呼びかける。


「気になったんです。あなたが」
「…何 で」
「そんなの知りません。だから、今からその謎を解明しようと思うのですが、どうでしょう。一緒に解き明かしませんか?」
「…拒否権は」
「無論 ありませんね」
「……」

どうやら、この人は 私が思ったいたより 少し、意地悪な人らしい。
だけども、私の鼓動はさっきよりも昨日よりも前よりも、確実にはやく波打つので それでもいいことにしておく。


「では、まず 貴方の名前は何ですか?」
「…なまえ」
「なまえ」

そうだ。
こうやって 名前を呼ばれるだけで、こんなにも心臓が跳ね上がること。
彼はそう言ってから、「綺麗な名前です」と あまりにも優しく微笑んだ。
こんなに綺麗に微笑む人を、私は今まで見たことがあるだろうか。


「私はゴヨウです」
「ゴヨウ、さん」

同じように、彼の名前を呼んでみたら それだけでまた、鼓動がはやく刻まれた。
頬が、熱い。
何だろう、これは。
そんな私を見て、ゴヨウさんは「よくできました」と頭を撫でて。

思ったよりも、この鼓動の理由は答えは、はやく見つかるかもしれない。



そんなん正味恋ですやん

「…あの、いい加減 手を 離していただけません、か」
「嫌ですか」
「い、え そういうのじゃなくって…」
「では このまま繋いでおきましょう」
「!」
「心臓が、高鳴るんです。こうしていると」
「え」
「何故でしょうね?」
「…しりません」



***
一万企画、飛澄さんに捧げます!
ゴヨウさんで 切甘とのことでしたが..
すみません、何だか切ない部分思い切り無視して書いてしまいました..!ひい!
すみません..ゴヨウさん初書きでした!しかし楽しかったな..!
飛澄さん、このたびは嬉しいリクエスト ありがとうございました*
これからもこんなやつですが、仲良くしてくださったら嬉しいです*
沢山の愛をこめて。
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