「見て下さい総司さん!綺麗な桜!」

ひらりひらり舞い落ちる桜の花片の中、くるくると踊り笑うその姿を認めると、僕はほとんど反射的に笑みを零した。綺麗だね、と呟いたその言の葉は桜に向けたものか彼女に向けたものか、自身ですらわかりはしない。

「前にも皆で騒いでお花見した事があったけど、二人きりっていうのも素敵だね」

全ての景色が桜色で遮断され、まるで極楽であるかのような浮き世離れの空間で、二人優しく抱き合って柔らかい草原の上にお昼寝。ああ、どうせ夢か現かわからないならどうか刻を止めてくれはしないだろうか。

「…僕が、死んでしまったら、」
「いや、です」

いずれ迎えるその時の話をするのは僕にとって楽な事ではないが、僕はどうしても彼女に伝えておきたい事がある。僕の事は忘れて、君を幸せに出来る男と共になってほしいと。僕は数多のものより何より君の幸せを願っている。けれど君はまた、僕の腕の中から眠りに堕ちそうになりながら人差し指を僕の唇に押し当てた。ふわふわと微睡みの中で微笑む彼女。胸が、きゅうと鳴った。

「わたし、は…そうじさんが、そうじさんだけ、を…あいしていま、す」

君の幸せを、誰よりも一番に願うべきこの僕が、嬉しくて仕方がなくって涙が溢れてしまうなんて。全く以て僕は大馬鹿野郎である。
日々病に蝕まれていく僕を見つめて千鶴が悲しむ、そんな風によりにもよってこの僕が彼女に不幸を与えてしまうその前に。幸福に包まれた今の空間ごと死んでしまいたいと、そう思う僕は狂っているのだろうか。

「しあわせにしてあげたかったなあ」

神様どうか。永遠なんて言わないから、せめて今だけはこの子を僕の腕の中だけに留めさせて。
頬に乗った花片は、払うことが出来なかった。


忘れじの 行末までは 難ければ
今日をかぎりの 命ともがな




▼歌人
儀同三司母

▼訳
ずっと好きでいると言ってくれたそれを、とてもいつまでも続けることなど出来ないであろうから、幸せな今日のうちに死んでしまいたい。

▼おまけ
「あさじふの〜」で新八目線の原千←新書くつもりだったけど、友達に本編貸してて原田さんルートを調べられず断念。いつかそれも書きたいなあ。


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