見上げるとまだ空は暗く、街灯の僅かなこの片田舎では白くて薄い月だけが私の道を指し示している。ふぅっと一つ息を吐くと、周りの温度に不相応な私の暖かい息が白く染まった。軽く辺りを見渡すと私以外の人はいなくて、赤いままの信号を横目に僅かな罪悪感を抱きながらペダルに足をかける。急がなくちゃ、急がなくちゃ。彼はきっともう待っている。

息を弾ませながら辿り着いた公園には既に彼がいて、私と同じ白い息を吐きながらポケットに手を突っ込んで一つの木製のベンチに腰掛けていた。私が声をかけるより先にこっちに気付くとおはようと言って笑う、平助くん。寒さにかじかんだ指先や頬はピリピリと痛むのに、胸の奥はそれだけでポッと暖かくなった。まるで魔法みたいだ。彼だけが、平助くんだけが使うことの出来る魔法。そろそろ時間だなぁ、と私の手を引いてまるでどこかの小学生のようにジャングルジムの頂上に腰かけた彼は、こっち向いて座れよ、と東の向きを指し示す。

「う、わあ…!」

どのくらい時間が過ぎたろうか。彼と肩が触れ合う程の距離で過ごす時間は私にとって長くて短くて、そろそろ心臓が爆発してしまうのではないか、とさえ思った時。少しずつ、けれど確実に視線の先から辺り一面へと明るみを帯びてゆく。明るくなって初めて、辺りが薄い霧に包まれていた事がわかった。真上を見上げると空は紺色なのに、東の方を見ると色が変わり始めた白く赤く染まる空、西には未だ白い月が残っている。すぐ隣には今も平助くんが座っていて、息を吸うと肺いっぱいに冷たく澄んだ空気が入り込み、様々な熱を孕んだ身体にはそれが酷く心地好い。不思議だ。実に魅力的である。まるで別世界にでも迷い込んでしまったかのようなフワフワとした感覚。愛おしむようにそれを味わっていると、ふいに彼が口を開いた。

「…綺麗だろ。オレ、毎日部活で一番ノリやってたからいっつもコレ見ててさ。お前にも見せてやりたかったんだ」

他の奴らには内緒だぜ。彼はそう言葉を紡ぐと頬を少し赤く染めて、視線を反らす。まるで世界に平助くんと私だけになったかのような幸せな空間。二人だけの空。なんて美しくロマンチックな響きだろう。気が付くと私は考えるより先に言葉を発していた。

「私も毎日、一緒に見てもいいかな?」

西の空が明るんで白い月が溶けた頃、姿を見せた太陽と共に平助くんが無邪気に笑った。

 冬 は あ け ぼ の


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -