おばあちゃんには笑窪があった。
笑うと皺じゃなくて小さな窪みが出来て、なんであんなにやさしく笑えるんだろうと、疑問に思っていた。
生まれた頃から共に暮らしてきて十数年、抱き着く度に安心出来ていたおばあちゃんの背中は、とても細く頼ってしまったら折れて消えてしまいそうなくらい細くなったように感じる。
ごほごほとむせ返るおばあちゃんの背中をさすると、どうしようもない真っ黒でどろどろしたものが心臓に、全身に纏わり付いてくる。

「何も遺してあげられないおばあちゃんでごめんね」

真っ白なレースのカーテン、乾いた畳のにおい。
出合わないはずのそれらは祖母によって同じ空間に存在することとなった。
そんな中で静かにわたしに伝えた言葉に、どんな顔をすればいいかわからなかった。

「おばあちゃん……写真、撮ろっか」
「写真かい…なら、うんと綺麗にしなくちゃねぇ」

久しぶりに笑ったおばあちゃんの口元には、笑窪があった。



「――それがおばあちゃんのおばあちゃん?」
「そうよ」

膝の上に小さな頭を置いて寝転がるのはわたしの孫。
あの頃の自分とこの子が重なって、祖母のやわらかい笑顔が自然と浮かんでくる。

「笑窪、おばあちゃんには無いの?」
「わたしには無いけれど、あなたにあるからいいの」
「そっかぁ」

くすぐったそうに笑うこの子が大きくなった頃には、わたしはまだ生きているのだろうか。

「おばあちゃん!にーって笑って!」
「あら、どうして?」
「"ちづるちゃんは笑うとかわいいから"って」
「…誰が言ったの?」

この歳になってどきどきするなんて、心臓に悪い。

「おじいちゃん!」

仏壇へ向かい遺影を見上げると、今の我が子よりも若い歳でいなくなってしまったあの人。

「おじいちゃんが?どうやって?」
「えー?…内緒!」

人差し指を唇に当てて、再び膝の上へと戻ってきた。
見上げた遺影に写る若い青年は、今のわたしをかわいいとでも思ったのだろうか。
だとしたら、いつまで経っても変わり者な人。
優しいだなんて思ってあげませんから。

「なにニコニコしてんのー?」
「さあ、どうしてかしらねぇ」

ごろごろと甘えるように額を擦りつけてくる。
そっくりな顔をして幼く笑う無邪気なこの子を、どうかもう少しだけ見守られますように。




ほんとは双子で別ver.のを考えていたのですが、孫っていうのもいいなぁ、と
若くして亡くなったちづるちゃんの旦那さんは想像にお任せいたします
別ver.、書けたら書きますそしてサイトに出せたら出します
笑窪のイメージ=おばあちゃんだったのでこうなりました
市原はおばあちゃんっこ
あと純粋に笑窪ってかわいいと思って
今後とも笑窪をよろしくお願いします



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