三人寝れば少し狭いダブルベッド。
そこに千鶴を真ん中にして左に総司、右に一と眠る。
否、寝ているのは千鶴だけで、総司も一も起きていた。
まだ太陽が昇る時刻まで数時間とある中、ただ言葉を交わさずに千鶴の寝顔を見ているだけ。
飽きる事はない。
この三人で及んだ行為も、知るモノはいない。
ただ一つ、部屋に置かれたヒメリンゴの木以外は。

『知ってますか?植物も人の言葉が判るんですよ』

昔、ヒメリンゴの木をあげた時にそう言って笑った千鶴。
ならば、ならばあの木は…。

「ねぇ、一君。あの木、千鶴ちゃんの声訊いてたかな」

「?」

「昔、千鶴ちゃんが言ってたじゃない。植物も言葉を理解するって」

「ああ」

その話か、と一は頷く。
総司の言いたい事を省略すると、つい先程終わったあの行為の最中に千鶴が鳴いた声の事なのだろう。
ならば訊かれていたかもしれないと、一は千鶴の前髪を指先で払いながら思った。

「黙ってて貰わないとね」

「どっちをだ?」

この歪な関係をか、それとも二人の下で可愛らしく鳴いた千鶴の声をか、一はくすりと笑って問う。

「どっちも」

しかし、その問いに総司はにんまり笑うと簡単に答えた。
自分達はこれでいいのだと呟き、次いで千鶴に抱きつくと彼女の首辺りに顔を埋め幸せそうに息をつく。

「この歪んだ感じが落ち着くんだよ」

これこそまさに選ばれた恋。
人は自分の価値観でしか物事を捉える事は出来ないから、土方達には内緒にしていて欲しい。
そんな事を思いながら、総司は急激な眠気に襲われる。
多分、千鶴に抱きついたのが原因だろう。
彼女は湯たんぽのように暖かくお日様のように良い匂いがして、まるで睡眠薬のようなのだ。

「千鶴ちゃん気持ちいいな」

「あんたは絶倫だな」

「そういう一君もね」

半ば夢現の状態でもなお、総司は千鶴を求めている。
これが絶倫ではなくてなんだと言うのか、そう思いながら一は総司を伺いみた。

「一君の言いたい事くらい判ってるよ。でもそうだな、出来るなら僕は千鶴ちゃんと一生一緒にいたいな」

「離れずに、か?」

「うん」

穏やかな声で一分一秒たりとも離れずにと付け加えた総司に対し、一は、それは何とも狂気じみた想いだと思う。
何故ならば、それをすると言うことは千鶴の事を無視する行為に等しいから。
彼女の意志もなにも訊かず、ただずっと一緒にいたいと願うのは恣意でしかない。

「でも、一君になら判るよね」

「……ああ」

ややあって一は頷く。
本当に、自分も総司もそこまで堕ちたのだ。
何かに導かれるまま、千鶴に、千鶴という人間に正気を捨て狂気を向けている。

「可哀相だよね」

千鶴ちゃんは不幸だよ―――そう言って総司は本格的に寝始めた。
一はその寝息を訊きながら、上半身裸のまま起き上がる。

「…ヒメリンゴ…」

千鶴が愛情を捧げ育てている木。

「本当を言うと、俺は千鶴を誰にも取られたくはない」

総司と一があげた木。

「一生一緒にいたい」

千鶴の大切な木。

「けれど、この関係は酷く落ち着く」

だから、自分の思いはこの歪んだ関係を壊すものだ。
心地良いこの歪みを破滅させる思いであり思想。
だから内緒にしていてほしい。

「誰にも言うな」

ずっと、内緒の話。


end




今でこそヒメリンゴはペットの名前ですが、ちょっと前まで私が育てていた木です。鉢植えに中位の大きさでちゃんと小さなリンゴの実もつける可愛い奴だったんですよ。愛着もあったので話しかけたりしていて、そんなこんなからサイト名にしました。花言葉は『選ばれた恋』。2010.11.23.
ヒメリンゴ
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