ずっと、あのひとの傍にいたい。そんな叶いもしないと思っていた願いを抱き続けて何年経っただろう。いつしか、私は当たり前のように彼の傍にいた。 ぱちり。 驚くほどすっきりとした目覚めだった。昔の夢を見たせいだろうか。千鶴は静かに体を起こした。さらさらと肩に掛かった髪が滑り落ちる。その髪を耳に掛けて、隣に視線を遣った。彼はまだ寝ていた。静かに寝息を立てて、綺麗な寝顔を晒している。千鶴はなんだか優しい気持ちになって、思わず頬をゆるめた。まだ外は暗い。日は昇っていなかった。千鶴はもう一度、体を寝かせた。 「としぞうさん」 追いかけて追いかけて追いかけて。ただただ遠く、恐ろしい存在だった彼をこんなに好きになったのはいつだろう。いつの間にか、その背中に尊敬の心を抱いていた。ずっと傍にいたいと、彼の役に立ちたいと、強く願っていた。彼はそれを受け入れてくれたのだろうか。きっと、そうだ。そうでなければ私は今、ここにいないだろうから。 「……ちづる」 掠れた低い声に、千鶴の肩がびくっと揺れた。思考が一瞬停止する。彼と目が合った。起きていたのだろうか。不安げに瞳を揺らせば、彼は眠そうに目を細めた。 「どうかしたのか」 「い、え……ただ、ちょっと目が覚めてしまって」 きっと夢のせいだろう。必死に彼を追いかけている夢だった。今となっては懐かしいとさえも思えてしまう。けれど、あの頃があったからこそ、今私は彼に認められている。 「こっち来い……」 やっぱり眠そうな声で、彼は千鶴を引き寄せた。触れた途端に高鳴る胸は相変わらずである。千鶴は暗闇の中で頬を染めて土方に擦り寄った。ぎゅっと抱きしめてくれる腕が心強かった。ずっと彼の傍にいたい。今度は追いかけるんじゃなく、彼の隣に。永遠、などと叶うことはないと知っていても、それでも願わずにはいられない。千鶴はゆっくりと瞼を下ろした。彼の腕の中なら、安心して眠れそうだ。もう彼は眠ってしまったらしい。寝息が頭の上で聞こえた。 「おやすみなさい」 呟けば、また、腕の力が強くなった気がした。 2011/07/31 陽乃 甘くはないです。静かに最愛の人を書きたいと思ったらこうなった(^o^)きっと千鶴ちゃんにとって、土方さんの傍にいられることがとっても大きいんだと……私は……思います……。 |