抜け殻のようだ、と思う。私の身体からは、きっと魂なんてとうに抜けてしまっていて、何もない、空っぽの容れ物同然のようになってしまっているのだ。だから、この耳には雑音しか聞こえないし、この目には色のない輝きを失った世界しか映らないし、この脚は根が生えてしまったかのように動かないし、この手は何も掴めない。それなのに、心臓は相も変わらずどくどく血液を身体中に行き渡らす。本当に、余計なことばかり。その最たるものが、この人……ううん、人じゃなくて、とにかく、私を蝦夷から無理矢理この里へ連れ込んだ風間千景さんという鬼だろう。


「報われぬものだな」


さらり、と風間さんの金色の髪が揺れる。そう、金色なの、この人の髪は。色を失ったはずの世界で、燦然と輝いて、私の視線を捉えて離さない。厄介で、仕様のない、金色。

ぐ、と窒息しない程度に押し潰された喉は、それでも酸素が欲しいと、生きたいと、ひくつく。殺してくれれば良いのに、風間さんは決してそうしない。何度も何度も小太刀を向けているにも関わらず、いつも私は無傷なのだ。


「お前の考えていることは分かっている。大方、俺に返り討たれたいというところだろう。馬鹿馬鹿しい」


すっと首を圧迫していた手が離れ、いきなり入り込んできた酸素に私はむせてしまった。今まで私を苦しめていた手は、優しく背中を撫でてくれる。げほげほと耳障りであろう咳が止まった頃、風間さんが再び口を開いた。


「己で死ぬにしろ、他者に殺されるにしろ、天寿を全うした死でなければ、苦しみを伴う。奴等がお前に、そのような苦しみを味わうよう望んだとは思わん」


「報われないって、私がですか?」


「俺の説教を聞き流すとは……、良い度胸だ」


聞き流したわけじゃなく、単に皆さんのことを話題に出されるとどう答えて良いか分からないから、話を変えたのだけど、結果聞き流すような形になってしまったことは、否定しない。けど、風間さんが満足そうに口元を歪めるので、自分の言動に少し後悔した。


「お前は、死者を思い続けたその先に、何かがあると思うか?」


「いえ。でも、だからといって報われないかといえば、それは、違うと思います」


「では、どうすればお前は報われる?」


「……、彼らのことを、穏やか気持ちで思うことができたら、でしょうか」


「成る程。ならば、俺もそのときまで待とう」


風間さんの、紅の瞳が穏やかに細められる。そのときがいつ来るかなんて、私ですら分からないのに、風間さんは待つと言った。今は、彼らのことを思い出す度に胸が痛んで、どうして私は運命を共にすることも、役に立つことも、何一つできなかったんだろうと、後悔ばかりが浮かんでしまうけれど、それでも。いつか、それを乗り越えられる日が来るのだろうか。そうしたら、私は風間さんときっちり向き合えるのだろうか。


「風間さんこそ、報われませんかもしれませんよ?」


私がそう告げると、風間さんはふっと短く笑った。そして、耳元で囁かれたそれは、決して雑音なんかではなく、低くて心地の好い風間さんの声で。


「お前が相手なら、それでも構わんな」


空っぽだと思っていた身体には、代わりに違う何かが足されていっているのかもしれない、と漠然とそんな風に思った。だから、風間さんの髪は金色で、瞳は紅くて、声は心地好いのかもしれない、と。私は報われなくても、この人に、救われている。それだけは、きっと、何よりも確かなことなのだ。















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