「26センチ」

朝から異様な光景を見た。玄関で膝を抱えて何をしているのか。いや、見ているのか。とりあえず邪魔だから後ろからどついてやろうかと思ってみた矢先に耳にぽつりと入ってきた数字と単位。
はてなと考え、ああ。と納得。そのあと意識して溜め息。
そりゃあ玄関にあってその数字となるとあるのは靴だろう。靴しかないか。
思考をフルに使った、たった数十秒で疲れた。なんでこんな……いや、もういい。めんどくさい。

「かおるって足大きいんだね」

ストン、脳に落ちてきた。

「現代の平均からしたら小さい方だろうけど?」
「だってわたし23だし」

女子と比べてって意味ですか。純粋にとらえればいいのか捻くれてとらえればいいのか誰か教えてくれ。
じーっと人の靴を見るのは他所ではやってはいけないと後で言っておこう。うちでもできればやめてもらいたいが、まぁどうせ俺のだけだろうし。今回のもなんとなくで発見してしまっただけのことだと思う。うん、そうだそうに違いない。
同じように隣で膝を抱えてみる。やっぱり千鶴の考えていることはサッパリわからないけれど。

「靴のサイズも足の大きさも、かわっちゃったね。」

当たり前だ。同じだったら俺が困る。
その言葉は心底どうでもよかった。同じサイズで生まれてきたって死ぬときまで同じだと誰が言った。所詮双子でも男と女。見た目だって中身だってそれなりの成長はしてきたはずだ。
なのに、今更。

「同じだったらよかった?」
「え、いやだ。」
「…じゃあ、"かわっちゃった"の意味は?」
「意味?」

何も考えてない顔だなこれは。そうだろうな、聞いた俺が馬鹿でした。
深意のないひとつひとつの言葉にどうして緊張してしまうのだろう。
いつもそうだった。へらっとしていて脳天気そうにわらうくせに時々びっくりするような言葉を発する。

「意味はないよ。ただ、かわっちゃったんだなぁって思っただけ」
「…ふぅん」
「ね、26センチだし」
「意味わかんない」
「わたしも」

馬鹿らしい。けど、こんな風にずっとやってきたからこんな馬鹿には慣れっこ。
ほんと、成長期ってすごい。うん、そういうことにしておこう。






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