それはある日の昼下がり。
斎藤さんに手伝って頂きながら幹部の皆さんの洗濯物を洗っていた。
「…何故、こんなに臭いのだ」
「た、多分皆さん溜め込んでいたんじゃないかと」
「気遣いは無用だ。大方、新八辺りの溜め込みだろう」
必死に隠そうとしていたけれど斎藤さんにはすぐに気づかれてしまった。確かにこれは永倉さんや他の平隊士さん達の溜め込んだ洗濯物。ただでさえ汗をかく皆さんだから臭いも集めればすごいものになる。
「雪村、これで終わりか」
「はい。多分今日はこれで全部かと…」
斎藤さんから洗濯物を受け取る。すると、いつもの勢いで洗濯物を取ろうとしたから、遠慮なしに斎藤さんの手にまで触ってしまった。
「あっ…すみません!」
「いや…」
あんまり大袈裟過ぎるくらい驚きながら手を引っ込めてしまったせいか、斎藤さんは目をしばたたかせながら少し驚いてしまっていた。
「……」
「さ、斎藤さん?何か、」
「いや、少し感心してな」
「え?」
急に黙り込みながら私の手元を見つめ、斎藤さんはそんな言葉を呟いた。何の事か分からずに私は首を傾げてしまう。
「その小さな手で、それだけの洗濯物を抱えられる。お前は良く出来た女になるな」
「そ、そんな事ないですよ」
洗濯物くらいなら江戸にいた時も出来ていたから、と慌てて訂正する。
「私、そんなに手小さくない方ですし」
「小さいだろ」
そう言いながら、斎藤さんは私の手を取って重ね合わせた。
その仕草に私は目を見開く。
「見ろ、小さい」
「…っ!」
微かに見せた笑顔に私は顔に熱が集中するのを感じた。
触れ合ったその手と手は、確かに全然指の長さが違う。斎藤さんの指は細いのに私よりも逞しく見えた。本当の“男の人”の手だ。
「何かと雑用ばかりで窮屈な思いはするだろうがこれからもよろしく頼む」
「え、あ、任せて下さい!洗濯も料理も苦じゃないですから」
丁寧な頼み方に、私は笑顔で両手をぐっ、と握り締める。
その様子を見た斎藤さんは、少し何かを思った様な微笑みで軽く頷いてくれた。
「頼りにしている」
「はっ、はい!」
今は確かに、この場所で不安ばかりが胸を締め付けるけれど、斎藤さんは人の“姿”をきちんと見てくれている。
最初は怖い人だと感じたけれど悪い人じゃないんだ――むしろ、根は凄く優しい人なのかもしれないと感じた屯所での、些細な日常だった。
その手は暖かく
*おまけ
「あー。一君が千鶴ちゃんを口説いてるー」
「なっ…総司!俺は別に口説いてなど!」
「こりゃ土方さんに報告しないとなぁ」
「待て総司!」
これ以降、斎藤さんは沖田さんが見える範囲にいてもいなくても私といる時は必要以上に反応する様になりました。