少し、大人になって考えてみると。僕は贅沢しすぎた。言いたいことは言い放題だった。やりたいことは、やりたいと思ったときに大体やってきた。それってすごく、贅沢だったんじゃないかって、思う。
つくづく考えてしまうのだ。この身体になってから。明るい空の下を、元気な身体で駆けられないこと。会いたい人と会って話ができないこと。

そして、君の笑顔を見る瞬間が、絶対的に減ったこと。


「失礼します」

最近、こんな沈んだ声しか聞けなくて悲しく思う。苛立ちと悔しさ。でもそれは君には言えないから。
僕は、笑う。

「お加減はいかがですか?」
「うん。昨日よりは良くなったかな」
「良かった…」

やっと笑ったと思ったらそんな顔をする。曇ってるみたいな、僕の嫌いな表情だ。


「あのさ」


千鶴ちゃんは「なんでしょうか?」と立ち上がりながら言う。もう行くのか。やっぱり、土方さんに頼まれて様子を見に来ているだけなのか。


「もう来なくていいよ」
「……沖田さん?」
「そんな顔、見たくないんだ」
「沖田さ、」
「―――僕のせいで、君の笑顔が消えるなんて駄目」


ほら。千鶴ちゃんは僕といるとき、驚きと悲しみと、少しの安堵しか表さない。
君はきっと、平助みたいな馬鹿といた方が幸せなんだ。左之さんみたいな頼りになる人といる方が幸せに決まってる。

「…そんなことありません」
「え?」
「わたしが沖田さんのせいで辛いだなんて、決めつけないでください」
「………どうせ、土方さんあたりに頼まれてるんでしょ?それだったら僕が、」
「違います!」


「一緒にいたいから一緒にいて、何がいけないんですか!会いたいから会いに来て何がいけないんですか!?」

「千鶴ちゃん…?」
「わたしは、沖田さんのお側にいたいです。例え笑うことがなくなっても。それでわたしがいいと言うなら、いいんです」
「……」
「自分のせいだなんて、言わないでください」


今後は僕が黙る番だった。
目の前には涙目の君で。ああ、僕が余計なことを言ったから泣かせてしまった。

さっき、素直にありがとうと言えば。もう来るななんて言わなければ。
次に見るのは、笑顔だったかもしれないじゃないか。


千鶴ちゃんは背を向ける。泣き顔は見えなくなっても、飛んできた言葉はまだこの狭い部屋に残っていた。
君が泣くのは僕のせい。それはやっぱり変わらないと思う。君は否定してくれたけど、実際泣いたのだから。

そしたら、僕が慰めればいい。後始末まで引き受けよう。
手を伸ばしたら、涙を拭ってあげられるから。

戸を開けようと宙を彷徨うその手を引き寄せて、腕の中に小さな身体を閉じ込めた。




さまよう手のひらは
僕のものだ






title/白々
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